INTERPRETATION REMIXED BY CORNELIUS

CORNELIUS / CM4 2012.9.5 On Sale

WPCL-11113 ¥2,400(本体)+税

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もはや簡単に聴こえるCornelius。
ミックス、リミックス、プロデュース。すべてにフランティックな実験性と世界最高峰のプログレス・マインドを注ぎながら、その耳当たりはスムースそのもの。
カオスやエクストリームをカカオやアイスクリームのように愛でつつ呑み込むその作風は、奇抜さ、突飛さ、悪ふざけetc.にバリア気味の耳にも違和感なく浸透し、しかし鼓膜の奥の奥、真なるアバンギャルドがムクムクと頭をもたげるかのような多重性を内包している。
「たとえアバンギャルドな手法を使ったとしても、きちんと解決するように作ってるからね。聴き流すとシンプルに思えるんだけど、部分部分にフォーカスすると、いろんなサウンドが浮かび上がってくる。そういうものが理想かな」
From Nakameguro To Everywhere期の集大成にして、現在座標のCorneliusサウンド。全曲試聴インタヴュー。

01 布袋寅泰 /
Battle Without Honor Or Humanity - 2011

──それでは1曲目から聴いていきます。これはいきなり耳を潰される感じで最高に素晴らしいですね。目が覚めます。

布袋さんはビッグネームだし、華やかなキャリアもあるんだけど、そういう尺度だけでは計れない圧倒的なすごみがあるでしょ? どこか人間離れしているというか。

──もはや本当に実在している人物なのかどうかもわからなくなってるというか。

そうそう。漫画感、って言ったらいいのかな。それも日本のものじゃなくて、アメコミのスーパーヒーロー。僕は布袋さんのそういう部分に魅力を感じているから、今回はそこを思い切りブーストしたリミックスになってると思う。どんどん新しい武器や必殺技を繰り出していって、最後のリズムが抜けるところなんかは、ユニコーンに乗って去ってゆく後ろ姿をイメージして(笑)。

──もっと速い感じもしますね。スピードが上がりすぎて、リズムが線になってる感じ。

ワープ感ね。

──あと、ゲラゲラ笑いながら作ってる感じがしますよ。〈カッコえぇええええ!〉って。

(笑)まさにそう。この曲はやってて本当に楽しかったな。

──たとえば80年代フュージョンの宇宙観とかスタジアムで聴くプログレなんかにも通じるダイナミズムもありますよね。すごく細かな編集作業で、ともすればこじんまりまとまってしまいそうなところを、ここまで〈ロックしてる〉という部分に感動します。

それは布袋さんのプレイそのものがロックだからじゃないかな。原曲のメロディはあまり意識していないけど、鳴ってる素材はほとんどが布袋さんのものだからね。日本刀の音なんかも最初っから入ってたし、ギターソロに関しても、布袋さんのフレージングを逆回転させたり、エラーさせたりしながら細かく編集していったものだし。

──布袋さんのプレイを借りて、〈自分ならこう弾く〉というのを実践した感じもありますか?

それはホントそうだね。Adrian Belewみたいな、いきそうでいかないハズしのフレーズ。

──その意味では〈ギタリスト対決〉とも言えますね。

そう……なのかな?

──YMOへの参加以降は、セッション・ギタリストとしてのCorneliusという認知も高まってますし。

確かにセッションは増えたね。ギターを弾くのは本当に楽しい。なんだかギターキッズな気持ちが戻ってきてるんだよね(笑)。たぶんSketch Showに誘ってもらったのがきっかけなのかな。それまでは自分のバンドでしか弾いたことがなかったし、ギターはあくまで楽曲のパーツという感じだったけど、セッションの場合はギターだけでなんとかしなくちゃいけないっていうハードルもあって、だんだんと今の方向にいったんだと思う。……まぁ、もともとちゃんとは弾けないからね。

──自宅にはPEPE(子ども用のクラシック・ギター)しか置いていないんですよね。

今はVOX Apache-IIっていう、いわゆるファントム・ギターのミニチュアを弾いてるよ。五角形のボディにスピーカーとリズムボックスが内蔵されてて、これが結構いいんだけど、まぁ、たいしてPEPEと変わらないね(笑)。やっぱり自分はギタリストじゃないんだよ。その点、布袋さんはホントすごいよ。Plasticsのライヴにゲストで出てきたときの演奏も忘れられない。もう、音が全然違うの。ものすごい前に出てくる。あと、布袋さんは機材もすごくて、Pete Cornishっていうイギリスのエンジニアがハンドメイドでつくってる1000万円ぐらいのシステムを使ってるのね。ケーブルから何から全部特注。踏むと瞬間的に音がループして、そのままグイ〜ンとピッチが上がったりするエフェクターとかも本当にカッコよくて。YouTubeで見たんだけど。

──Corneliusにもピッチを急上昇させる必殺技があるじゃないですか。

いや、僕のはWhammyっていう、3万円ぐらいのやつだからさ。

02 YOKO ONO PLASTIC ONO BAND /
The Sun Is Down! - 2009

──ビッグネームが続きます。

これはリミックスじゃなく、プロデュースだね。最初から説明すると、Sean Lennonが〈Chimera Music〉ってレーベルを始めて、そこのショーケースライヴをやるときに、Cornelius Groupがバックバンドを努めることになったんだけど、ライヴが終わったその翌日、いきなりヨーコさんに〈来月はレコーディングだから〉って言われて。

──(笑)お前らに意思などない! って。

(敬礼しながら)ハッ! って(笑)。そこから僕らがNYにいって、全部で10日間ぐらいレコーディングしたのかな。ほぼゼロの状態からのセッションで、めちゃくちゃハードなスケジュールだったな。ショーンと(本田)ユカさんが中心になって、あとはShahzad IsmailyっていうMarc Ribotといっしょにやってるインド人のマルチ・インストゥルメンタリストといっしょにやったんだけど、突然〈ケイゴ、何かいいアイデアない? シングルっぽい曲で!〉みたいなむちゃぶりがあって(笑)。

──そこでも何も言えないわけですね。

うん(笑)。で、ちょうどTENORI-ONがあったので、あらき(ゆうこ)さんにシンプルな4つ打ちを何パターンか試してもらって、そこにヨーコさんと僕で即興する、みたいな感じで出来上がったのがこの曲。

──ヨーコさんの即興というのは、言葉、歌詞も含めてのものなんですか?

ノートみたいなものが手もとにあって、そこに言葉の断片が書かれているんだけど、それをベースに、瞬間的に思ったことだったりを足しながら膨らませていってる感じだね。その日の即興はすごくよくて、ほぼワンテイクだった。〈The Sun Is Down〉というサビはショーンとユカさんが固めて、そこからしばらくセッションを続けて、最後に僕がその素材を日本に持って帰ってきて、ミックスして。だからこの曲は〈Cornelius Mix〉ってなってるけど、原曲はないのね。なぜか僕の名前だけがクレジットされてるから、ヨーコさんのファンは混乱すると思うんだけど。

──この曲はYouTubeにあがっているLady Gagaとのライヴ・バージョンもすごいですよね。

ヨーコさん、全然負けてないんだよね。

──Ono YokoにしてもLady Gagaにしても、身ひとつで自分を表現できる生粋のパフォーマーですよね。光源が強いというか。そういう人たちといっしょにやるというのは、やっぱりものすごく大きな経験値になりますか?

いっしょに何かを創るというよりも、特等席で見せてもらってるみたいな感覚かな。出演者としての自分と観客としての自分の区別がつかなくなる感じ。それが自分の音楽のどこにどう影響があるのかっていうのはわからないんだけど、うーん……なんというか……

──人間が大きくなる?

うん、それは本当にあると思うな。……たとえば子どもって、小学校に入学してから卒業するまでの6年間っていうのがいちばん成長するらしいんだけど、それは自分よりも歳の離れた子どもに囲まれるからなんだって。小1のときは小6がいるから、思い切り背伸びができる。でも、中学や高校になると、どう背伸びしても、3歳上の上級生しかいないわけで、ある程度成長も緩やかになる……みたいな話を聞いたことがあるんだけど、まさにそんな感じだと思う。

──ヨーコさんは究極の大先輩。

今まで見たこともないような人だからね。音楽的なことだけじゃなく、影響はかなり蓄積されてると思うよ。

03 MGMT / Brian Eno - 2010

──『Congratulations』のジャケットの印象もあるのか、この原曲はサーフロックの亜種みたいな感じで聴いていたんですが、それがいきなりインドア化するというか、ライヴハウスの最前列からオペラ座の末席に移動する感じのリミックスですね。

確かにこれはかなりイジった。彼らのレーベルからリミックスの話がきたときに、〈あるミュージシャンに頼んだリミックスをボツにした経験があるから、それを承知で受けてくれ〉みたいに言われて(笑)。

──だったらムチャクチャやってやる、と。

まぁ、そういうわけでもないんだけど、原曲に比べて少しBrian Eno色を強めた出来にはなってると思う。『Congratulations』には「Song For Dan Treacy」なんて曲も入ってて、ブルックリンの若いバンドがTelevision Personalities(Dan Treacyが在籍したグループ)みたいなバンドを聴いてるっていうのもおもしろいと思ったし、なにより「Brian Eno」ってタイトルをつけてる時点でOKだったんだけど、いざ曲を聴いてみたら、それほどイーノっぽくはなかったんだよね。だから僕は間奏の電子音にしても、イーノがRoxy Music時代に使ってたEMSってシンセを使ったりして。

──いちおうMGMTのアーティスト写真にもEMSが写り込んでますね。

基本的には研究肌のミュージシャンなんだろうね。来日したときに少し話したんだけど、日本のバンドなんかにも詳しかったよ。やっぱりJulian Copeの『Japrocksampler』を読んで勉強したって言ってた。

──Corneliusのリミックスに対する向こうのアーティストの評価って、〈なんだか冷却されて返ってくる〉でしょうね。

〈奴に頼むと荒熱が取れて帰ってくるぞ〉って?

──(笑)彼らが動物のモノマネをしているパートも、このトラックに混ざると山海塾の人たちに聴こえますし。

(爆笑)でも、その冷却度っていうのは『CM3』のほうが強いんじゃないかな。冷却してるはしてるんだけど、そこまで強くはないというか、あの頃から比べると、もう少し熱が戻ってきている感じがするかな。温度的には『CM4』のほうが高いと思う。ほんの少しだけどね。

04 相対性理論 / QKMAC - 2011

──原曲はバンド・サウンドですけど、ギターバンドがテクノポップを演奏したような雰囲気もあって、すでにリミックス的な感性で制作された楽曲ですよね。

そうだね。この曲は♪〈パラレルパラレル〉っていうサビの部分がとにかく印象に残る曲で、そこにSmiths的なギター・サウンドが入っているのが魅力だと思う。何曲かリミックス候補があったんだけど、この曲がいちばん頭の中にループしたし、だったらそのループ感を強調するようなリミックスにしようと思って。

──〈パラレル〉という言葉と裏のシンセがパラレル状に配置されている。

うん、そのアイデアを最初に思いついて、なんとなくできていったのかな。〈パラレル〉だからポリリズム的なトラックがハマるといいなって思って、別の時間軸で別のリズムが鳴っていて、たまにそれが交差するような構造になってる。

──コードの揺れも印象的ですね。大きな水槽の向こう側のパラレル・ワールドを眺めているような効果にもつながっていて。

そこに、やくしまる(えつこ)さんの存在感が入ると、不思議な風景になるんだよね。相対性理論はイベント(『解析III』)で1曲競演したんだけど、やっぱりやくしまるさんの存在感がすごいんだよね。あの、何がきても微動だにしない堂々とした感じは稀だと思う。あと、彼女は歌詞もおもしろいよね。ファンタジーだしフィクションなんだけど、それと同時に、どこかさめざめした現実感もあって。この曲もまさにそんな感じじゃない?

──田舎に住んでいる学生が、東京に出てきたくなるタイプの曲ですよね。

(笑)そうかもしれない。

──抽象的な表現の中に、ほんの少しリアリティが入ってるっていうのが、若い子には刺さるんだと思います。

最近はそういう構造の曲ってあんまりなかったかもね。あと、若い子ってことではウチの子もよく歌ってるよ。やっぱり繰り返し(の言葉)っていうのは強いよね。〈ぽにょぽにょ〉とか、〈ぱみゅぱみゅ〉とか。

──もはやCorneliusには難しい表現。

うん、43歳だし。

05 Lali Puna / Hostile To Me - 2012

──これも複雑な生い立ちのトラックですよね。

いや、これ自体はふつうのリミックスなんだけど、完成したときにすごく満足いくものができたと思ったし、テーマが輪唱だったこともあって、salyu x salyuのアルバムでカバーさせてもらって。ただ、いちばん最初に出るべきLali Puna名義の盤というのが、なかなか発売されなかった。

──ドイツ本国でCornelius Remixが出る前に、salyu x salyuのカヴァー・ヴァージョンが出てしまった。

それで出しにくくなってたら申し訳ないなぁ、って(笑)。……Lali Punaとはおもしろい縁があって、Corneliusが初めてアメリカとヨーロッパをツアーしたときに、いっしょに廻ったNotwistってバンドがいるんだけど、それがLali Punaのリーダーのマーカスのやってるバンドだったんだよね。ワールド・ツアーが終わってからはしばらく連絡を取ってなかったんだけど、ボーカルのヴァレリはマーカスの奥さんで、彼女が(高橋)幸宏さんのライヴにゲストで来たときに、え? あのマーカス? って話になって、そこからすぐにこのリミックスの話につながった。

──静かでシンプルなのに、とても情報量の多いトラックですよね。ワンコードの果てしなさに、フォレスト・ライトが見えるというか、解脱観プラス抽象絵画感、というか。

ずっと終わりが見えない感じというのは意識したかな。時間の感覚が早くなったり遅くなったりする中で、少しずつ歌がズレたり戻ったりする。

──原曲はもう少しポップというか、リズムの要素もありますけど……

僕はそこを全部カットして、ピアノとドローン、そこに輪唱っていう構成にしちゃった。リズムを抜くと輪唱感が際立つし、やっぱり輪唱といえば、合唱団であり、声楽であり、音楽室でしょ?

──あ、なるほど。

そこにドラム・セットはないからね。

06 Beastie Boys / Make Some Noise - 2011

──Beastie Boysは、とにかく声が強いんですよね。どんなトラックをブツけたとしても、ラップが入った瞬間に彼らの曲になってしまう。

James Brown(「Call Me Superbad - Cornelius Rework」/『Cm3』収録)と同じパターンだね。メンバーのキャラクターがハッキリわかるラップだし、なにより楽しそうにやってる雰囲気に持ってかれちゃう。ビースティは僕が高校生の頃に初来日して、後楽園ホールまで観に行ったんだけど、その客席の全景が翌月の『宝島』に出てて、自分も(スチャダラパーの)アニもシンコも(元キミドリ/イルドーザーの)石黒(景太)くんもみんな写ってるんだよ。当時は知り合いじゃなかったんだけどね。で、そのときの前座がTINY PANXで、こないだMCA(Adam Yauch)が亡くなったときに高木完さんたちと追悼会をやったんだけど、改めて彼らの影響の大きさとか、偉大さみたいな話になって……

──彼らのレーベル、Grand Royalが果たした役割というのも大きかったですよね。それまでのインディ観みたいなものを一気に変えてしまった。

Grand Royalは重要だよ。いろんな壁を壊したよね。だってそれまでのアーティストって、良くも悪くもロックスターっていうか、手の届かない外タレみたいな感じだったでしょ? それが、少し上のお兄さんって位置まで降りてきてくれた感じがしたし、しかもそのお兄さんが誰より好き勝手に活動しているっていうのがめちゃくちゃカッコよかった。

──『Sensuous』のツアーでは同じ会場で共演を果たしてますよね。

ドイツとフランスでいっしょになったのかな。パリでの僕らはビースティのオープニング・アクトだった。ライヴが終わった後、僕らはすぐに移動しなきゃいけなかったんだけど、MCAはバスまで見送りにきてくれて、本当に優しい人だったな。たぶん僕らだけじゃなく、世界中の若いアーティストにそうやって接してきたんだろうね。

──このリミックスも、とてもファン目線を感じる仕上がりになってますね。

ビースティの他の曲からのサンプリングが結構入ってるしね。「Fight For Your Right」の〈Kick It!〉ってイントロだったり、「So What'cha Want」のオルガンだったり。基本はバンド・サウンドなんだけど、ギターだけは人間が弾かないようなフレーズになってる。Cornelius色を出したのはそのぐらいで、あとは純粋に、好きって気持ちを音にした感じだね。

07 Maia Hirasawa / It Doesn't Stop - 2011

──彼女の歌い方はすごくBjörkに似てますけど、それでいてBjörkは絶対に歌わないタイプの楽曲というのがおもしろいですよね。

サウンドはいかにもスウェディッシュな雰囲気があるよね。タンバリン・スタジオで録音したみたいな。

──ボーカルが強いのでここまで(音)を抜いたリミックスでも伝わりますけど、オリジナルの段階でそれをやるのは難しいでしょうね。

そうかもしれない。僕のリミックスはリアレンジともいえるけど、ミュージシャン本人よりも客観的な視点で作業できるから、かなり大胆に音を選ぶことができたんだと思う。これもどんどん削ぎ落としていく感じのリミックス。後半にいくつれてコーラスが厚くなったり、ハープが登場したり、だんだんとゴージャスにはなっていくんだけど、まともなビートっていうのは一度も入らない。点描っぽい楽器の集合でリズムなりコードなりを作っていく、自分なりの手クセみたいなものが出たリミックスだね。

──作業的にはsalyu x salyuの制作時期とカブっていますか?

直後かな。震災があって、すぐにこの曲に取りかからなくちゃいけなかったんだけど、どんよりとした気持ちのまま、このハッピーな歌を何度も聴いたのを覚えてる。彼女の友だちが仙台にいるらしくて、歌詞に〈仙台〉って言葉が出てくるんだよね。それを含めて、すごく不思議な気持ちになったな。でも、今から思えば、ああいう時期だったからこそ、彼女みたいなポジティヴィティが側にあってよかったのかもしれない。もっと新しいコードをつけて、メロディの響きをガラッと変えてしまうこともできたけど、その部分は原曲に忠実になぞっているから、無意識にポップなものを求めていたのかもしれないね。

──彼女のポップさは『CM4』の中では異色ですが、中盤のこの位置に置かれることで、空気が入れ替わる感じもあって、とても新鮮に響きますね。

もしこっちで(リミックスする)曲を選べる場合は、あとで『CM』シリーズにまとめることも考慮して選ぶ場合もあるぐらいで、やっぱりあんまりポップなものが続くとお腹いっぱいになっちゃうし、その逆も疲れちゃうし、いつもは醤油ラーメンだけど、きょうは塩がいいかな、みたいなバランスで、なるべく作業を新鮮に保てるようにはしているつもり。彼女の場合は曲の指定があったんだけど、結果的にはいい位置に収まったね。

08 Arto Lindsay / The Rare - 2004

──アルバム『Salt』が出た後、1年ぐらい遅れて発売された日本盤『Salt+2』のみに収録されていた楽曲ですね。さらにはMatthew Herbertのリミックス・トラックも追加されて、泣く泣く買い直す人が続出したという。

このトラックもリミックスではなく、コラボレーションだね。だから原曲はない。アートが来日したときに突然連絡があって、1曲いっしょにやりたいって言われたんだけど、確かそのときは酷い風邪をひいていて、高熱が出ていて(笑)。そんな中、なんとかスタジオにきて、彼のノイズ・ギターをKAOSS PADにつないでリアルタイムにイジったりしているうちに、だんだんとできていったのかな。……アートは本当に飄々としていて、いつも突然に何か始まるってことが多い。Arto Lindsay Bandに僕と大野(由美子)さんが参加したときも、急に声がかかって、ライヴの前日にちょろっと音合わせしたぐらいの感じで、すぐ本番だったし。Ambitious Loversの「Privacy」なんかをいっしょに演れておもしろかったけどね。

──スタジオにも、まったくの手ぶらで現れるんですか?

いや、そのときはギターを持ってきてたし、メロディや歌詞のモチーフもあったよ。ザックリとテンポを決めて、いきなり歌い出したから。あと、この曲は最終的なミックスもアートがNYのスタジオでやってて。

──フィニッシュに立ち会わないというのは相当珍しいんじゃないですか?

たぶん初だと思う。2日間ぐらいで全部の楽器を録り終えて、その素材をアートが全部持っていったからね。でも、彼が歌うボサノヴァっていうのは、本来とてもパーソナルなものだと思うし、歌にも彼のフットワークの軽さが滲み出ていると思うから、結果的にはそのほうがよかったんじゃないのかな。たまには仕上がりを待たされるっていうのもいいなって思ったな。

09 If By Yes / Still Breathing - 2011

これもコラボレーションだけど、最初にデモがあった楽曲。(本田)ユカさんとPetra Hadenがスタジオにきて、元のトラックを聴きながら音を重ねて、彼女たちが帰ってから、僕がミックスした。もともとシミー(清水ひろたか)とあらきさんの音も入っていたし、僕が足した音っていうのはそれほどないんだよね。

──それでもCorneliusサウンドに聴こえるというのはなぜでしょう?

楽器を置く位置だったり、タイミングだったりが重要みたいだね。そこで自分の音になる感じっていうのはあると思う。リミックスには〈オリジナルをこう変える〉っていう楽しみがあるけど、いっしょに楽曲を作るというのはまたべつの楽しみがあるよね。……If By Yesはアルバムも出て、これからおもしろくなりそうってときにペトラが脱退して、活動停止しちゃったんだよね。ロス、NY、東京のインターナショナルなバンドだったから、コンスタントに活動していくのも難しかったんだろうけど、惜しいよね。

──Arto LindsayにしてもIf By Yesにしても、中目黒のスタジオを拠点に作業を進めてきたわけで、その意味『CM4』は中目黒時代の集大成的な作品とも言えますね。

うん、新しいスタジオになってからの音は入ってないからね。

──新しい環境というのはどうですか?

やっぱり全然違うね。前の事務所兼スタジオといっしょで、ここにしても一般的な居住スペースだから、部屋の作りが如実に音に出るんだよね。ちゃんと防音しているわけではないし。もちろん最終的なミックスとかマスタリングでは、プロのスタジオにいってモニターするんだけど……。

──その作業スタイルが確立されたのが『Point』ですよね。あれから数えて、もう10年以上になるんですね。

部屋っぽい環境にしたくてしてるわけでは決してないんだけど、これが性に合ってるんだろうね。〈日常の中に制作がある〉というのが自分にとっては大切なんだと思う。

10 野宮真貴 / Magic Carpet Ride - 2012

──これはピチカート・ファイヴの93年作『ボサ・ノヴァ 2001』収録曲のカヴァーですね。当時、Corneliusプロデュースっていうことでも大きな話題になったアルバムです。

懐かしい。でも、93年っていったら、僕はまだ23歳とかだからね。正直、プロデュースって何? みたいな感じだったよ。あの頃、小西(康陽)さんと高波(敬太郎)さんはほとんどいっしょに作業していなくて、僕がその間に入ってアルバムを取りまとめる、みたいな役割だったと思う。今思えば〈Corneliusプロデュース〉ってことを含めての小西さんのプロデュースだよね。

──原曲も疑似インド風味のアレンジでしたが、今回の再演でもその部分は踏襲されていますね。

カレー味ね。あとはこの歌詞が作り出す風景っていうのも特別なものがあると思うし、そこにあるイメージっていうのはなるべく壊さないようにアップグレードさせたつもり。この曲は川勝(正幸)さんの50歳の誕生日パーティで、野宮さんといっしょに演奏したこともあるし、ちょうどこのアルバム(『30〜Greatest Self Covers&More!!!』)が出た後に、川勝さんが亡くなってしまって、お別れ会でも野宮さんはこの曲を歌ってた。これは本当に、いろんな人のいろんな想いを背負った曲なんだよね。

──この曲を聴くと、あの時代がどんな時代だったのかを思い出せるような気がしますよね。

シングル・カットもされていないのにね。

──原曲は小西さんと野宮さんのデュエットですが……

うん、その部分はマストで、という注文があったので、僕が小西さんのパートを歌ってる。そこまでボーカルには自信がなかったから、野宮さんの後ろに張りつく背後霊みたいになってるけど(笑)。

──あと、ギターにあわせてテンポをとっていくと、ボーカルが半拍ズレているように聴こえて、そのぶんドラムが入ってきたときの安心感がすごいんですよね。

あ、そう? そこはあんまり意識してなかったかもしれない。相対性理論とかLali Punaもそうだけど、ひとつの楽曲の中に、同じテンポで違うリズムをあわせるというのはよくやる手法で、自分の中では完全に定番化しているから。そのほうが聴くほうも発見が多いと思うし、何度も聴いてもらえるものに仕上がると思うし。

──この曲に限らず、ものすごく凝った作りなのに、耳当たりはスムースというか、ものすごくたくさんの素材から、薄味のコンソメを仕込んでいるかのような印象も受けます。もはや簡単に聴こえるCornelius、というか。

たとえアバンギャルドな手法を使ったとしても、きちんと解決するように作ってるからね。聴き流すとシンプルに思えるんだけど、部分部分にフォーカスすると、いろんなサウンドが浮かび上がってくる。そういうものが理想かな。

11 三波春夫 / 赤とんぼ - 2007

──これは『Sensuous』の「Sensuous」であったり「Sleep Warm」、シングル『Music』収録の「The Star Spangle-Gayo」と続けて聴いてほしいトラックですね。めちゃくちゃ感動しました。

うん、別世界でのスタンダードというか、声にもすごく楽器的な響きがあるし、ここまで日本的でありながら、たぶん外人が聴いても一発で伝わるものがあると思う。ずば抜けた強さがあるよね。

──歌詞も当然日本語ですけど、〈お里〉とか〈姐や〉みたいな昔の言葉が使われていることで、かえってユニバーサルな素材になっているというか。ボーカルはモジュレーションの塊だし(笑)、その処理も交信記録っぽいですし。

このボーカルはロサンゼルス公演のライヴテイクなんだよね。そこから抽出した素材を使ってるから、余計にそう聴こえるんじゃないかな。

──それにしても圧倒的なボーカルです。

今までイジったことのないタイプの素材だったから、最初はどうしようか悩んだんだけど、この個性と戦うんじゃなく、中心には大きく三波先生を迎えるんだけど、その回りに漂うもので、こっちの世界へ持ってこれればいいなと思って。歌に寄り添いながら、背後に隠れながら、でも全体的な世界観を左右するような和音の響きであったり空間処理で……

──ステージ全体を引き寄せるというか。

そうそう。あと、「赤とんぼ」は唱歌だから、伴奏はピアノというのがセオリーなんだけど、そのセオリーに則ったまま、セオリーから外れた和音を充てるっていうバランスも、このトラックのポイントだと思う。

──その結果、誰も聴いたことがないのに、不思議な安定感のある、新しい童謡に仕上がっていると思います。この曲はオーラス以外に考えられませんね。

うん、そこはすぐ決まった(笑)。

──「Magic Carpet Ride」の疑似インドから宇宙へ(笑)。曲順を決めるというのは最後の作業になると思うんですけど、改めてここ数年の自分を俯瞰するような作業でもありますよね。

並べて聴くことで、いろいろ見えてくるね。

──たとえば小説家の場合、まず新刊が出て、それが文庫化される際に、大幅に手直しをする人もいますよね。数年前の自分の仕事を聴いて、そういう気持ちになったりはしますか?

リミックスをさらにリミックスするというアイデアはおもしろそうだけど、自分の曲ではないぶん、少し引いたところから眺めてる感じはあるかな。リミックスやプロデュースっていうのはたいてい数日、長くても数週間の作業だから、楽曲のひとつひとつは断片なわけだけど、そこにその当時の世の中の雰囲気だったり、自分の年齢だったりが透けて見えるから、それがひとつの時系列に並ぶことで、自分がどんなふうにここまで来たのかというのがわかるっていうのはあると思う。その道のりみたいなものを、あえて戻ってみたり、横道に逸れたらどうなるのかを考えてみたり、ゴールに何があるのかを考えたりすることは、自分の活動においても大切なことだと思うから、『CM』シリーズをコンスタントに出せるという状況には、すごく感謝しているんだよね。

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