2000年11月23日にシングル「マタ逢ウ日マデ」でプレメジャーデビュー。翌年3月22日に1stシングル「STEPPER’S DELIGHT」をリリースし、今年でメジャーデビューから10年目を迎えたリップスライム。
この10年間、彼らは日本の音楽史に数々の記録と記憶を残してきた。そもそも、彼らの道のりには「初モノ」がすごく多い。2ndアルバム『TOKYO CLASSIC』は日本ヒップホップ初のチャート1位獲得。その発売日翌日には日本ヒップホップ初の単独日本武道館公演を開催。2003年には日本ヒップホップ初となる野外5万人ライブ「SUMMER MADNESS」を成功させた。また、体調を崩したDJ FUMIYAの静養期間中には、布袋寅泰とJ-POP界初の本格的マッシュアップ曲(「FUNKASTIC BATTLE」「BATTLE FUNKASTIC」)を制作。最新曲「Good Times」を書き下ろした「ソニー・エリクソン」の新作携帯電話CMは、1本のCMに2つの楽曲がタイアップし、通常15秒×2曲の30秒バージョンCMしか存在しないという史上初の試みがなされている。
ユニークな活動・展開も数多い。有名なのは、デビュー以降毎年続けている企画性の高いクリスマスライブ。これまでに15歳以下限定(キッズ対象)、男子限定(ダッチワイフ数体投下)、カップル限定(演奏はカップリング曲のみ)など、面白い設定で楽しませてきた。2002年には、(ILMARIの第二の故郷ということもあるが)フィンランドをはじめ、中国、香港、台湾でライブ。アリーナクラスの会場を満員にする彼らだが、その一方でライブハウス会場をクラブ化する人気ツアー「DANCEFLOOR MASSIVE」も過去3回行ってきた。また、最新オリジナルアルバム『JOURNEY』のツアーでは全演目をバンド編成で演奏。バンド形式のヒップホップライブは日本でも増えてきたが、全編バンド(しかも同期なし)というのは(ひょっとしたら)彼らが初めてかもしれない。他には、前述の『TOKYO CLASSIC』日本武道館公演(2002年7月25日)の模様を収めたライブ盤を実施から20日後(!)という超速タイミングで限定リリースしたり、オリジナル曲をクラシック演奏とポエトリーリーディングで聴かせた『RIP SLYME ORCHESTRA+PLUS』という変則盤を発売(2003年2月)。すごい細かいところだと、『TOKYO CLASSIC』購入者を対象にした日本武道館無料招待ライブでは、剣道着で登場して1曲披露しただけで退場、残りはすべてアンコールという形でステージを行ったり、2003年のエイプリルフールには、都内5箇所で5人が同時にソロライブを行ったこともある。2004年に沖縄で開催された一夜限りの夏野外ライブ「OCEAN’S FIVE」では、会場から望む海上に約100万円分の花火を30秒という一瞬のうちに打ち上げ。その贅沢さと豪快さに思わず笑えてきちゃう演出もしてたりする。
こうして振り返ってみると、リップスライムは、大胆で、実験的で、遊び心があって、その上、エッジが効いていて機知に富んだ活動をしてきたグループだと思う。そして、それは楽曲面にも言えることだ。
「STEPPER’S DELIGHT」や「JOINT」「GALAXY」といった型破りなアップビートを作る一方、「Dandelion」や「STAIRS」「太陽とビキニ」といったスタンダード感のある曲も手がけてきたFUMIYAの天才的なトラックメイク。そんなFUMIYAの生み出す音に絶妙に合いの手を入れるように、グループにとってスパイスとなる「One」「Tales」といった叙情的なメロディを生みだしてきたPESの豊かなソングライティングセンス。リップサウンドの中核はこの二人が担ってきた。加えて、楽曲の方向付けという面では、FUMIYAは「サウンドプロデューサー」、PESは「グループ像のプロデューサー」を担っている部分がある。
過去に様々なタイプの楽曲を生み出してきたリップスライムが、果たして今、どんなものを嗜好し、これからどんなものを指向していくのか。そのヒントが伺い知れるのが、今回届いたベスト盤『GOOD TIMES』に収められた2曲の新曲「Good Times」と「SCAR」だ。
まずFUMIYAのサウンド作りに変化が訪れている。4thアルバム『MASTERPIECE』辺りから生楽器を積極的に導入し始め、アナログ感をテーマにした6thアルバム『FUNFAIR』と7thアルバム『JOURNEY』ではギターサウンドを中心に、丸みのあるレトロな風合いの音を作ってきたFUMIYA。それが、ここにきてデジタルな打ち込みサウンドに意識が向いてきたという。トランシーなシンセ音と重低音リズムが迫る「Good Times」はそうした意識変化が顕著な曲。もともとPESがスパニッシュ風味で作っていた「SCAR」に、ポップなエレクトロ調のサビを加え、リズムをグッと前面に押し出したのもFUMIYAのジャッジだった。FUMIYAは「次のアルバムは音質が固めで打ち込み色が強い作品にしたい。あとはネタ感、サンプリングで作りたい」と語る。
その「SCAR」は、ドラマ『ジョーカー 許されざる捜査官』主題歌として書き下ろされたということもあって、歌詞がシリアスで深みがあるものに。これまでのリップには健康的とか笑顔とか陽性のイメージがあるが、これは影のある感じというか、陰性な曲になっている。PESは「SCAR」を作った思いについて「リップスライムって、詞はライトなものを、っていう考え方がスタッフの中で支配的。そろそろ、それをちょっとずつ内緒で変えていかないと、って思ってる」とコメント。では、今後リップスライムとしてどんなものを作ってみたいか?と訊いたところ、ILMARIやSUはこう答えくれた。
「もうちょっと一個の題材について掘り下げたものを作ってもいいんじゃないかなと思う。もうちょっと意見のあるものをっていうか」(ILMARI)
「言葉が多くないのがやりたいです。一個だけテーマを決めたら、その言葉だけ連呼するみたいな。この曲は乗れるとか楽しいとか暗いとかっていう感情だけをバン!と伝える。今のFUMIYAみたいな四つ打ちのトラックだったら、それはチャレンジしてみたい」(SU)。
気持ちの面では「(これからは)周囲から思われてるイメージから自分たちで自分たちを解き放っていきたい」と語ったRYO-Z。そこにPESはこう続ける。
「新しいことをやろうとするときに、“リップっぽくないからちょっとなぁ”っていうのは理屈になってないと思うんです。今までと違うこと、たとえば社会的なリリックを書いて、それが“っぽくない”だとしても、それが悪いことではない。だから“リップっぽく”の再構築というか、自分たちの、どこが、何がいいのかを1回ちゃんと考えたいですね。で、考えて、ワケわかんなくなって、酒飲んで……みたいな(笑)」
「そう、ラク~にね。『うる星やつら』の(諸星)あたるクンの言葉を借りれば、“好きなものを好きでいるために、それから自由でありたい”っていう、それくらいのスタンスでやれればいいなと」(RYO-Z)
う~ん、結局最後はいつもの調子。なんともユルめな、リップスライム、デビュー10年目の決意(苦笑)。
「10年間、そのときそのときでやりたいことは違うけど、新しいモノを作りたいっていのは一貫してました。だって、好きなことは年取ってからでもできると思うから。……って、昔、倉持(陽一/YO-KING)さんが話してくれたんです」(FUMIYA)
って、最後も受け売りかよ!(笑) でも、やっぱりこのくらいの気軽さがリップのいいところだと思うのだ。やってることは画期的なのに、やってる連中は飄々としてる。そのスタンスって異色だし、だけど、異色が新しい時代を切り開く。いつの世も、そういうもんだと思うのです。
猪又 孝(DO THE MONKEY)