HOME > オフィシャル・ディーラー・インタビュー 新星堂編


今回ニューアルバムを発売するにあたり、山下達郎の発案による新しい試みとして、実際にCDを売って下さっているCDチェーン店の皆さんから直にインタビューを受けてみようという事で企画化されたディーラー・インタビュー・コーナー。
日本を代表する5大CDチェーン店の皆さんからのインタビュー質問に5週に渡り、山下達郎が答えていきます。
いよいよ5週目、ラストを飾るのは新星堂さん。さて、どんな質問が飛び出しますか、乞うご期待!
—— 「SONORITE」 のときは結構重い印象を持ってたんですけど、今回は頭からすごくしっくり来ました。
音ですよね。音圧感というか。曲の良し悪しというのも重要だけど、音圧感というのは本当にどうしようもないですから。
—— 音的に不満に思われてた 「SONORITE」 が出て、その後、まりやさんの 「Denim」 がありましたけど、あのアルバムは全部良い方に転がった録音だったんだなと思いました。
人間って経験則でしか判断出来ませんからね。歩き方とか自転車の乗り方もそうだけど。だけどその一旦身に付けたものが、新しい道具の登場によって全てリセットされたんですよね。21世紀に入って登場したプロツールスっていうハードディスク・レコーディングのシステムは、パソコンの画面では卓の形でデザインされてるけど、実は全く似て非なるものなんです。その、どこがどう似て非なるものかっていうのが分かるまで、べらぼうな時間がかかった。何故かっていうと、それまでの長い経験の刷り込みがあるから。こうすればこうなると思ってやっても、少しも今までのようにならないんですよね。
—— 「SONORITE」 に比べると、今回はすごく奥行きも出てるなと思いました。
新しくレコーディングしたものほど、出来がだんだんアナログっぽくなってきてますね。ようやく僕もエンジニアも勝手がわかってきたというか。もう本当に試行錯誤ですけどね。何年かかってるんだ、って(笑)。だけどこの先、もうちょっと良くなると思いますよ。
—— 今回のアルバムを作るにあたっては、やはり 「希望という名の光」 という曲がアルバムのセンターにあるかなと思うんですが、震災前に書いた曲とは言え、色々と踏まえてこういう形になってきたんですね。
去年9月にリリースのはずだったんですけど、1年遅れたんですよね、このアルバムは。その時点では 「WooHoo」 ってタイトルだったんです。楽器をコラージュしたジャケットのデザインもちょっと変えました。「WooHoo」 の時は顔のカタチでしたけど、震災があって、タイトルも 「Ray Of Hope」 になったので、今回は手のデザインにしたんです。
—— このデザインはマニア的にも非常にうらやましいし、参考になります。楽器はエフェクターまで配置されているんですね。
100点以上物撮りして、コラージュしてあるんです。ジャケットの中も楽器で網羅されてるんですよ。この楽器はコレクトしてるものじゃなくて、全部僕の私物で、レコーディングで実際に使ってるものです。
—— その 「希望という名の光」 もそうでしたが、震災後は 「蒼氓」 など、僕らも店頭でかなりかけさせて頂きました。
そうですか。歌って不思議なものでしてね、作った瞬間から人の手に委ねられるわけで。人の共同意識がそこに集まってくると、歌に当初とは違う意味が加味されてくるんです。それが流行歌の持つ、不思議な命運なのかもしれないですね。「希望という名の光」 もまさにそんな1曲だと思います。
—— オープニングとエンディングのアカペラは、新録ではなくサビから抜いたんですか?
でも声部は足して、厚くしてます。フェイクは全く別録りしました。
—— あと、この 「Ray Of Hope」 はソウル・ジェネレーションの曲にもありましたが。
ラスカルズですね。同名曲はたくさんあるけど、僕は完全にラスカルズ。
—— ちなみに、「WooHoo」 ってタイトルだった時はもっと違う質感だったんでしょうか?
詞のマイナーチェンジが多いですね。「NEVER GROW OLD」 とか。あと、もうちょっとアップテンポの曲もあったんですけど、それは詞がちょっとロストというか、悲しい内容だったのでやめました。曲自体は気に入ってるので、たぶん次に入れます。
—— さて、今回のアルバムはバラードが多いですよね。だけど、全然暗くないというか、すごく抜けてる感じがしました。
ここ数年のタイアップの要望が、みんなバラードなので。どうしてでしょうね。ミドル・オブ・ザ・ロードの音楽で、ドラマのタイアップとか映画のタイアップでバラードの曲を書ける50代の男性シンガーが少なくなって来てるんじゃないかと。だから小田(和正)さんとかもそうなのでは?こういう曲にして下さいって言われて、誰でも書けるかっていわれたらそんなことないので。
—— ちょっと前までは、達郎さんといえば夏だ海だって言われてたのに、僕らからすると、もうそういう印象はないのかって思ってしまいます。
時代が変わったんですよ。それに今はボーカル主体の時代だから、そこはもうグズグズ言ってもしょうがない(笑)。それにこうバラードが多いと、アップを1曲2曲増やしたところで糠に釘だからあきらめました(笑)。
—— でも逆に 「NEVER GROW OLD」 とか 「MY MORNING PRAYER」 が逆に立つ形になって。ちなみにこれは敢えてシンセベースにしたんですか?
締め切りがタイトなものは今はマシンで行くことが多いです。「NEVER GROW OLD」 は、テンポが速いので、シンベじゃないとあのベタなグルーブが出ないんです。あともう少しすれば、昔やってたようなバンドサウンドのファンクテイストなアップが増やせるのではと思ってますけどね。
—— 「俺の空」 も突き抜けててカッコよかったです。
この曲は何のために作ったかっていうと、オートチューンというボーカル用のプラグイン・ソフトをエフェクトとして使ってみたかったからなんです。最近のアイドルなんかはみんなオートチューンで歌のピッチを補正してますけど、それをもっと極端にかけると、こういうカクカクした感じになるんです。以前 「HEY REPORTER!」 って曲が昔ありましたけど、あれはディレイ。「"Queen Of Hype"Blues」 はハーモナイザーで。そういうボーカルエフェクターみたいなのにも流行り廃りがあって、今はオートチューンが主流。いちばん有名なのはPerfumeですね。ああいう効果を一度やってみたかったんです。
—— で、演奏はフル・マニュアルでやるという。
そうそう、そうですね。
—— めちゃくちゃカッコよかったです。特にあのギターは誰が弾いてるのって、社内でも評判でした(笑)。「街物語」 もテレビで鳴った瞬間に、この曲すごいって思いました。すごく抜けてる感じがしたんですけどね。
「街物語」 はどちらかというと、曲より詞の方が気に入ってるんですよね。詞のストーリー性っていうか。この 「街物語」 や 「プロポーズ」 という曲は、僕のまわりの若い世代との交流の中からインスパイアされて書いたものなんです。アラサーの男女が多いんですが、女性は結婚適齢期なので恋物語っていうのがいろいろあるし、男性も、付き合ってた子に振られたなんて話を聞いてると、自分がアラサーの頃と大して変わらなくて、それが結構面白いんですよね。ドラムの小笠原(拓海)君なんかもそうだけど、20代とか30代ぐらいの、自分の息子や娘ぐらいの世代がすごく刺激をくれます。僕は今58歳ですけど、この歳になってどういう歌を書くかって結構難しいんですよ。まさか親の介護の歌は作れないでしょ?
—— それはやってほしくないですね(笑)。
だからといって、あんまり若い世代におもねてもしょうがないし。ライナーノートにも 「いい歳をしてプロポーズの歌かよ、なんて言わないで下さい」 と書いてますが、こういう形での歌作りの発想というのは、非常に文筆家的なんですよね。それが、人間の喜怒哀楽の普遍性として表現できればと。
—— こういうアルバムですが、「プロポーズ」 のようなラヴソングはかっちりハマってる感じがしました。すごく印象的です。
結婚っていうのは、生きていく上での重要なモーメントですからね。あくまで子供を見る親の視点からのものですが、分かち合えるものはあると思います。。
—— 今回、歌詞は全部達郎さんがお書きになってますよね。前回はまりやさんと松本隆さんが1曲書かれてましたけど。
やっぱりこういう時ですからね。自分の考えてることを歌わないと、人は自分を表現してくれませんから。それに、今ってマシーン・ミュージックの全盛期でしょ?歌も直すし、ベースやドラムまで直すんですよ。そうするとだんだん、みんな同じになって来るんです。今のダンス系の音楽が特にそうですけど、カラオケを聞いただけじゃどれが誰だか全然わからない。それを防ぐには、なるべくそういうことをしないで行くしかないんですよね。だから特に作詞は自分でやらないといけない、と。
—— 曲によってはコンピューターとかもありますけど、演奏もほぼ自分の手になってきた感じですね。
ようやく(笑)。どんどんそうなっていければと思ってます。音楽に求めてるものは時代が変わればまた違ってきてますので、わかりませんけど。かつては、開放的なAOR全盛期の時代があって、あの頃はある種の空気感というか、そういうものがあればそれで良かったんだけど、今はそうじゃないから。もっと歌としての芯というか、そういうものがないといけないと思う。音に関しても、詞に関しても。演奏や編曲に関してもね。
—— 今回はコーラスもほぼひとりですか?
ここんとこコーラスはいつもひとりです。人に頼むと時間がかかるから。人に教えてる時間があったら、やっちゃった方が早いんですよね(笑)。これは今の傾向ですけど、今のレコードって基本的にはひとり多重ばかりなんですよ。下手な人でも直せますから。だからひとり多重でやらせてるんです。最近は、コーラスガールっていうのは仕事が減って困ってるみたいですよ。
—— でも、今回ドラムの小笠原君は大フィーチャーです。SING LIKE TALKINGや嵐のアルバムでも叩いてましたけど、山下達郎に認められた男として、今、非常に注目のドラマーかなと(笑)。前のツアーではドラムソロもたっぷりあって、過去にないフィーチャーっぷりでした。
ドラムソロは上手いですからね。
—— 気持ちいいですよね。ストーリー性もあるし、組み立ても抜群で。ちなみに、アルバムでは生のドラムが前半にかたまってますね。
そうですね。あれは意識的にそうしたものです。
—— では最後になりますが、今回初回限定盤のボーナスディスクとして 「JOY 1.5」 というのが付くみたいですけど、「JOY 2」 というのはどうなんでしょうか。
そろそろ出したいんですがね。オンスト(「ON THE STREET CORNER」)もやりたいと思ってますし。やりたいことはまだたくさんあります。だけどその前にまりやのアルバム出せって言われてますし(笑)、僕の方もまた大規模なツアーも始まりますからね。なるべく、また6年とか経たないようにしたいとは思ってます(笑)。

僕が新星堂本部に来てから初のアルバム 「COZY」 が98年。以来13年間、アルバムのリリース時には全てお話を聴いてきたので5回目の達郎さん取材でした。ライヴ後にちょっとお話する機会はあったものの、「SONORITE」 から6年ぶりの取材。短い時間でしたが、(いきなりのハイテンションでのスタート、失礼しました)充実した時間を共有させていただきました。
毎回、レコーディング手法、音質などの話まで、踏み込んだお話しを聴かせてもらいました。デジタル録音への対応の不満が竹内まりやさんの 「Denim」 で先が見え、ほぼ解消されたことによる今作の質感の良さ。バラードは多いものの納得の楽曲達、「MELODIES」 以来継続の作家性。震災という大きなファクターで大分コンセプトも変化し、メッセージ性の証左としても本当に素晴らしいアルバムが完成したと思います。「58歳になって」 という言葉をライヴのMC含めて、今回の取材でも多用されていました。58歳以上の現役男性シンガーソングライターは、数名しか一線にいらっしゃいません。僕は、変わらない歌声を聴き 「この声の凄さを出来る限り、いつまでも聴いていたい」 と改めて思いました。最近さらに充実のライヴを始め、新作は 「オンスト4」、BEST企画、リマスター、そして竹内まりやさんの作品と要望もエンドレスですので、これからの活動も期待しています。
新星堂商品部 副部長/WEB戦略室 室長
野々口 敏之

震災をきっかけにトランジスターラジオが我家のリビングに登場し、達郎さんのラジオ番組を聴くことが日曜日の午後の習慣になっています。今作のタイトルが 「WooHoo」 から 「Ray Of Hope」 になったことも、ラジオからの達郎さんの声で知りました。レコーディングのエピソード、リスナーとのQ&Aなど、あわただしい日々の中で音楽の楽しみ方を改めて教えてもらいました。
今回、直接お話しをさせて頂き、今作に漂う達郎さんの人間味を生で感じさせて頂いた印象があります。音楽を愛し、音楽の将来を案じ、感謝を忘れず希望を捨てない。お話の中に見える“しょうがない”と“諦めない”のバランスも素晴らしい!この感触をユーザーの皆さまには、フリーペーパーなどを通じてお伝えできれば、と思います。
あくまでも個人的な感想ではありますが。若い頃、達郎さんの作品から抱いた憧れの大人の世界から時は流れ、身の丈に近い日常の世界を質の高い音と声で味わうことが出来ました。40歳を目前にした私にも、皆さまそれぞれの年代全方位に通じる素敵なアルバムです。是非、多くの方に聴いてもらいたいと強く願います。
最後に、あの美声とチャーミングな笑顔には、作品同様、心が輝きました☆
新星堂商品部 販売促進チーム 企画担当ディレクター
涌坂 千草

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