ホーム >> Another Side of Music >> 第45回 Dr.John / ドクター・ジョン 『GUMBO / ガンボ』
Another Side of Music

第45回
Dr.John / ドクター・ジョン
『GUMBO / ガンボ』

『GUMBO / ガンボ』

昔の彼女に謝りたい

ロック・シーンへニューオリンズ旋風を巻きおこしたドクター・ジョンの出世作(1972年作品)。良き時代のニューオリンズ・ミュージックの快感!
http://wmg.jp/artist/drjohn/WPCR000013256.html


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出された料理がまずかったとき、どういう態度をとるべきか。これはなかなか難しい問題だ。にこにこ笑顔の彼女に「美味しい?」と聞かれたりすると、なおさらだ。まずいもんはまずいと素直にいってやるのが愛なのか、いやいや、作ってくれたことに感謝して、まずくても笑顔で「美味しい!」というべきか、人によって意見のわかれるところだろう。

個人的には、まずいとはいわないようにしている。ただし、美味しくないものを美味しいともいわない。じゃあどういうのかというと「もうちょっと塩を抑えた方が、もっと美味しくなるかも」などと前向きな回答をするようにしている。するとどうなるかというと、こっちは気を使ったつもりなのに、相手は逆にそれがカチンと来るらしく「じゃあ今度はアンタが作ってみてよ」となり、いつの間にか「作る側」になっていたりする。逆に「美味しい?」って聞いたりして。立場逆転しとるがな。

しかし、若かりし頃はこうではなかったような気がする。そういうときは強気でバッサリ斬り捨てていた。さすがに「まずい」とはいわなかったが、「いまいち」くらいは平気でいっていたような。こっちの口がお子ちゃまで、好き嫌いが多いだけなのに、そんなことはすっかり棚に上げて。

音楽に対してもそうだった。あれはたしか、20代前半の頃に付き合っていた彼女だったろうか。あるとき、「ねぇ、これいいよ。私、好きなの。聴いてみて」と1枚のCDを貸してくれた。その当時、自分的にはブリティッシュ・ロックこそがすべて(しかもかなり狭い範囲)だと思っていたので、そのCDをちょろっと聴いただけで、「古くさい」と突き返してしまった。彼女は、伏し目がちに「そう……。」とつぶやいたのだった。

さて、今回紹介したいのは、そんな切ない思い出の残る1枚。ドクター・ジョンの『ガンボ』というアルバム。毎度毎度、前置き長くてごめんなさいよ。ドクター・ジョンとは、1940年ニューオリンズ生まれのミュージシャン。幼少期からギターを学び、ギタリストとして活動するが、21歳のときに喧嘩に巻き込まれたかなんかして、左手を銃で撃たれて薬指がうまく動かなくなったため、ピアニスト(最初はオルガン)に転身したというツワモノ。

自身の名前でアルバムを出すいっぽう、セッション・ミュージシャンとしても数多くのアーティストのアルバムに参加しており、ミック・ジャガーやエリック・クラプトンが彼のファンであることを公言するなど、ミュージシャンの間でも評価の高い人物。そんなドクター・ジョンが1972年に発表したのが、このアルバム『ガンボ』というわけです。

その昔「古くさい」のひとことで片づけたこのアルバム、これが今ちゃんと聴いてみると、実にいいんです。ま、古くさいという意味ではそうかもしれないんだけども、それもそのはず、このアルバムに収録されている楽曲のほとんどが1950年代から1960年代のニューオリンズ黄金期のヒット・ソングを焼き直したものだから。ただ、その古くささというのが、今は「古き良き」的な感じに思え、それもちゃんとドクター・ジョン・テイストになっているので、それがまた聴いていてなんとも心地いいんです。機会があれば、ぜひ聴いてみてください。

しかし、我ながらなんという手の平の返し方だろう。昔、彼女から勧められてばっさり斬り捨てたものを、今こうして連載で紹介するとは。あの頃は、視野が狭く、こういう音楽の良さもわからなかっただけなのだ。なんと愚かなことだろう。今も狭いのかもしれないが、少なくともあの頃より視野は多少広がったということなのか。どうなのか。とりあえず、彼女には悪いことした。謝らないと。あのときは、ごめんね「○○りちゃん」。読んでないと思うけど。

<お知らせ>
なんと、この連載が書籍になることになりました。しかもCD付きで。詳細は『コチラ』にも書きましたが、とりあえず頑張ります、ゆるい感じで。

今回紹介した1枚

『GUMBO / ガンボ』 Dr.John / ドクター・ジョン
『GUMBO / ガンボ』

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ロック・シーンへニューオリンズ旋風を巻きおこしたドクター・ジョンの出世作(1972年作品)。良き時代のニューオリンズ・ミュージックの快感!
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穴澤 賢 (あなざわまさる)

プロフィール

穴澤 賢 (あなざわまさる)
1971年大阪生まれ。
ブログ「富士丸な日々」の作者。
高校生の頃からバンドに明け暮れ、28歳という微妙な年齢で上京するが、音楽の道から挫折するという経歴を持つ。現在は文筆業でかろうじて食いつないでいる。口癖は「ま、いいじゃん」。著書に『ひとりと一匹』(小学館)、『富士丸な日々~明日は天気か?』(小学館)、『富士丸 おでかけ日和』(日経BP社)などがある。

「富士丸な日々」 http://fujimaru.blog16.fc2.com/
「Another Days」 http://anazawa222.blog13.fc2.com/