先日、ある方から引っ越し祝いにと「エレファン」というものをいただいた。そいつは、丸い筒がジャバラになっており360°好きな方を向かせることができる送風機なのだが、なるほどいわれてみれば象の鼻のようでもある。取説には、ゆるいイラストの横に「いい風、いただきだゾウ」とある。そうなのか。
早速箱から出して、ぶーんと心地良い風を浴びていたのだが、ふと見ると箱にスポンジで出来たボールが入っている。はて、これは、なんなのか。送風機にスポンジボール? いったいなんに使うのだろう。再び取説を見てみると、最後の方にその使い方が載っていた。そこには「スポンジボールを浮かせることができます」とある。そうか。つまり、送風口を真上に向けた状態で風を送り、そこにスポンジボールを持っていくと、風の力で浮くということらしい。それはわかるが、そこになんの意味があるというのだろう。
とりあえず試してみる。どれどれ。送風口を上に向けてと、ボールを乗っけてと。すると、見事に空中に浮かぶスポンジボール。ふわふわとゆらめきながら手品のように宙に浮いている。これは凄い。しかし、ちょっとでも中心からずれるとぽとりと落ちてしまうスポンジボール。これはちょっとしたコツがいるのかもしれない。風量を調節しながら特訓することしばし。結構上手にボールを空中でキープできるようになった。風の力で浮いているとわかっていても、それはどこか不思議な光景だった。落ちそうで落ちないスポンジボール。何も考えず、ただふわふわと。あぁ、こんな風に生きたいな。
そこではたと我に返った。俺は、いったい何をやっとんだ。いいおっさんが部屋でひとり送風機にボールを乗っけて何が嬉しい。しかも送風口が上向いてるから全然風こないし。本来の役目すら果たしとらんがね。それでも、不毛な時間だとわかりつつ、なかなかやめられない。悔しいが、なんか楽しい。恐るべしスポンジボールの威力。というか脱力さ加減。しょうがないので開き直って、よりリラックスできる音楽をかけることにした。
こういうときはマイケル・フランクスの『スリーピング・ジプシー』なんかがいいかもしれない。ゆったりとしていて、何もやる気がしなくなる。決して上手くはないけど、すーっと耳に溶け込むようなヴォーカルが心地いい。ジェイムス・テイラーあたりが好きな人はきっとこのアルバムも気に入るんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、ぼんやりとスポンジボールを眺めていたのでした。しかし世間では、過半数がどうだとか、ねじれがどうたらと慌ただしい中で、俺は何をしているんだろう。ま、仕方ない。ゆっくりするときは、ゆっくりしないとね。というわけで、どこかギスギスしたような世間にややうんざりぎみの方は、このアルバムでも聴きながら、思い切ってぼけーっとしてみてはどうでしょう。そんなことしてちゃ駄目な気もするけども。
Michael Franks / マイケル・フランクスボサノヴァの創始者、アントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた名曲「アントニオの歌(虹を綴って)」を含んだ2ndアルバム(1977年作品)。ラリー・カールトン、ジョー・サンプル、デイヴィッド・サンボーン他参加。
http://wmg.jp/artist/michaelfranks/WPCR000013251.html

穴澤 賢 (あなざわまさる)
1971年大阪生まれ。
ブログ「富士丸な日々」の作者。
高校生の頃からバンドに明け暮れ、28歳という微妙な年齢で上京するが、音楽の道から挫折するという経歴を持つ。現在は文筆業でかろうじて食いつないでいる。口癖は「ま、いいじゃん」。著書に『ひとりと一匹』(小学館)、『富士丸な日々~明日は天気か?』(小学館)、『富士丸 おでかけ日和』(日経BP社)などがある。
「富士丸な日々」 http://fujimaru.blog16.fc2.com/
「Another Days」 http://anazawa222.blog13.fc2.com/










