
シーク(シック)の来日が決まると、僕は先ずカメラの三脚とカフェインレス・インスタント・コーヒーの所在を確認する。
2009年の四月三日から八日にブルーノート東京で行われたシーク・フィーチュアリング・ナイル・ロジャーズ(ロジャース)の公演。彼等の来日は、1996年の「JTスーパー・プロデューサーズ」から数えて九回目となる。その初来日公演は、双頭リーダーの片割れと言えるナイルのパートナー=ベイスのバナード(バーナード)・エドワーズの客死というまさかの悲劇で幕を閉じたのだが、翌年ナイルはシークとしての活動継続を決断した。その頃から変わらないメンバーは、リーダー=ナイルを含めて十名のうち六~七名。現在のシークはその時に始まった新バンドと言えるだろう。僕は「本人ナイルをフィーチュアした、オリジナル・シーク及びバナードへのトリビュート・バンド」だと思っている。よく「(当時のメンバーは)ナイルしか居ないなんてシックじゃないよ」という声を耳にするが、それはナイル自身が一番解っている。だから「Chic featuring Nile Rodgers」「Nile Rodgers & Chic」等の名義にしているのだと思う。バナードも、ドラマーのトニー・トンプスン(トンプソン)も死んじゃったんだから、それを言っちゃあオシマイよ、アナタ。
「おしゃれフリーク」「グッド・タイムズ」「アップサイド・ダウン」等が大ヒットしていた時期に中学生だった僕は、それらを契機として本格的に洋楽にのめり込んだ。彼等の手掛けたデイヴィッド・ボウイーやマドンナ、ジュラン・ジュラン(デュラン・デュラン)等は、洋楽ファンでなくとも知っているという位の、十代半ばから後半だった我々の共通言語だった。僕はずっと彼等が好きで、関連作品を集めてきた「単なる大ファン」なのだけれど、‘95~‘96年の来日前後にあった色々が切っ掛けで、有難い事に「公認追っ掛け」転じて「準現地クルー」的な立場となり、彼等が来日する度に行動を共にさせて頂いている。外食や買い物の際にはなんちゃって通訳となり、「今日は静かに部屋で軽食」という場合にはそれらを調達する。コーヒーを飲みたい、しかしカフェインレスでないと、というメンバーの為にインスタント・コーヒーを用意しておくのも僕の役目の一つ。演奏中はメンバーから預かったヴィディオ・カメラで撮影をしている。自宅の三脚はメンバーの私物を預かっている形だ。
彼等と居ると、本当に音楽大好き人間の集まりだという事が分かって嬉しい。考えてみれば友人のウワサ話をするにしてもその友人はミュージシャン。仕事の話は楽しかろうが辛かろうが音楽の話。昔話も同様。シーク史の生き証人であるナイルは昔のバンドの話をとても楽しそうにするし、現メンバーもとても興味深く聞く。普通の音楽雑談も楽しい。
今回、特に嬉しかった名言:「レッド・ゼプリン(ツェッペリン)で一番大事なのはジョン・ポール・ジョーンズだ。あいつの才能は凄い。スティーヴ・ウィンウッドより凄いと思うよ。初めて『カジミーア(カシミール)』を聴いた時は感動したね。(ナイル・ロジャーズ)」
今回、特に嬉しかった楽屋での出来事:”Groovin’ “ “How Can I Be Sure” “People Got to Be Free” “A Ray of Hope” 等、何故かザ・(ヤング・)ラスカルズの曲を口ずさむメンバーが多かった。誰かが歌い始めると数名が合流し合唱へ。 彼等の殆んどは東海岸の人である。
彼等のライヴは基本的にはヴェテラン・バンドの常である「グレイテスト・ヒッツ・ライヴ」だ。ワン・ステージが一時間強なので、外せない大ヒット曲だけで一杯になってしまうのは致し方無い。来日の度に足を運ぶ常連からは、「そこを思い切って地味な曲(非シングル曲)を演って貰えないか」という声も聞かれる。僕も大賛成! 最近多い「アルバム丸ごと再現ライヴ」とかね。四枚目『リアル・ピープル』全曲なんて聴きたいなぁ、とっても。
ちなみにナイルがライヴで使用しているギターは昔からスタジオでも使用しているとても大事なもので、「ヒットメイカー」と名付けられている。「レッツ・ダンス」や「ライク・ア・ヴァージン」「ノトーリアス」等を少し遊びで弾いてくれた日があったのだが、本当にあのギターの音がして鳥肌ものだった。
’92年の再結成アルバム『シーク=イズム』時に加入したシルヴァー・ローガン・シャープはハスキーな迫力ある声の持ち主で、歴代最高のリード・シンガーだ。ステージMCもナイルと共に担当しており、ライヴでの彼等は「ナイル&シルヴァー」+「バンド」という構図が出来上がっている。彼女による「プロデューサーはナイル・ロジャーズと偉大な故バナード・エドワーズ!」という敬意溢れる紹介はほぼ毎回聞かれ、その度に涙腺が緩む。
ひときわ見せ場を作るのはパカッションのジェラード・ヴェレース。タンバリンを胸で叩き、タンバリンでシンバルを叩き、激しいアクションで客席を煽り、「グレイテスト・ダンサー」に至っては前に出てきて女性陣とダンスをする! キャリアは古く、1969年の「ウッドストック」でのジミ・ヘンドリクス(ジプシー・サン&レインボウズ)、スパイロ・ジャイラの結成メンバーとしても知られ、現在はデオダートにも在籍している。
今回のお楽しみコーナーは、前々回に続きショウの半ばにフェンダーのサポートで開催された「『おしゃれフリーク』ギター・コンテスト」。観客から数名をピック・アップし、「おしゃれフリーク」を十六小節弾いてもらうというもの。ナイルのギターで(流石に上記「ヒットメイカー」ではないサブのギターだったが)、ナイルのカウントで、バンドと共に「おしゃれフリーク」が弾けるのだ! ナイルや他のメンバーも面白がっていた。最終日には決勝が行われ、チャンピオンにナイルのサイン入りストラトキャスターが贈呈されていた。
日程はいつもタイト。毎回のパターンで、初日の前日に来日し、最終日の翌日に帰国の途につく。時差ボケしたままライヴをこなし、慣れたかな?という頃に帰ってしまう。
再び三脚とインスタント・コーヒーは僕に託される。「フリーザーに入れておいて、今度来る時に持ってきてね」と。かくして少量しか消費されなかった(あらら)赤い蓋のコーヒー瓶は我が家の冷凍庫に収容された。
彼等の次の来日への準備が早くも始まったという訳だ。
最後に、彼等のオリジナル・アルバム(アトランティック七枚、ワーナー一枚)のリマスター・紙ジャケ仕様・ボートラ(シングル・ヴァージョン)入り再発の実現と、次回の彼等の来日を心より待ちつつ、筆を擱きたい。
2009年4月 人見欣幸
http://hit2japan.exblog.jp/
入国時 成田空港にて
photo by Yoko
from L. to R.: Richard Hilton, Nile Rodgers, Gerardo Velez, Sylver Logan Sharp, Folami Thompson, Jerry Barnes, Bill Holloman, Sweet Cherie Mitchell, Curt Ramm (I’m sorry, Mr. Ralph Rolle.)
photo by Takako
photo by Yoko
photo by Yoko
photo by Yoko
photo by Yoko
photo by Yoko
Chic featuring Nile Rodgers (2009 Japan tour personnel)
NILE RODGERS (guitar & vocal)
SYLVER LOGAN SHARP (lead vocal, 1990-)
RICHARD HILTON (keyboards, 1989-)
GERARDO VELEZ (percussion & the greatest dancer, 1990-)
BILL HOLLOMAN (saxophone, 1996-)
JERRY BARNES (bass, 1997-)
SWEET CHERIE MITCHELL (keyboards & vocal, 2003-)
CURT RAMM (trumpet, 2003-)
RALPH ROLLE (drums, 2007?-)
FOLAMI THOMPSON (vocal, 2008-)
set list (April 3rd-8th 2009, Blue Note Tokyo)
OPEN UP (from “Real People,” ’80. )
EVERYBODY DANCE (from “Chic,” ’77. )
DANCE, DANCE, DANCE (YOWSAH, YOWSAH, YOWSAH)(ダンス・ダンス・ダンス) (from “Chic,” ’77. )
I WANT YOUR LOVE(愛してほしい) (from “C’est Chic,” ’78. )
medley:
I’M COMING OUT (from “Diana /Diana Ross,” ’80. )
UPSIDE DOWN (from “Diana /Diana Ross,” ’80. )
HE’S THE GREATEST DANCER(グレイテスト・ダンサー) (from “We Are Family /Sister Sledge,” ’79. )
WE ARE FAMILY (from “We Are Family /Sister Sledge,” ’79. )
(CHIC ♪Le Freak guitar contest supported by Fender)
medley:
CHIC CHEER(陽気な仲間) (from “C’est Chic,” ’78. )
MY FORBIDDEN LOVER (from “Risque,” ’79. )
LE FREAK(おしゃれフリーク) (from “C’est Chic,” ’78. )
GOOD TIMES (from “Risque,” ’79. )




