70'sウエストコースト&シンガーソングライター・シーンにおける最重要楽器、アコースティック・ギターをとことんフォーカスしたコンピレーション・アルバム『アコースティック・ギター・デイズ~The Days Of Acoustic Guitars』。懐かしくもエヴァーグリーンな魅力を有する名曲64曲に加え、全曲のコードネームや演奏を際立たせるためのワンポイント・アドバイスが記載されたスペシャル・ブックレット付きの画期的なアイテムだ。そんな聴くもよし、弾いてもよしの同作の魅力に迫るべく、制作者へのインタビューを実施。監修・選曲・解説を手掛けた音楽評論家の宇田和弘氏、企画立案者であるワーナーミュージックの堤潔氏に、聴きどころ、楽しみ方、苦労話などなど、とことん語り尽くしてもらった。
司会進行:宮治淳一(ワーナーミュージック・ジャパン)

宮治淳一: そもそもなぜこういうCDセットを考案したのでしょうか。
堤潔: 思いついたのは、ちょうど1年ほど前。出発点は、若い頃はすごい音楽が好きだったけど、もう何十年も遠ざかっている中高年の方々に、どうしたらもう一度聴いてもらえるんだろうかということなんです。そんな中、常日頃思っていたのは、ワーナーミュージックには、70年代のいわゆるウエストコースト、シンガーソングライター系のいい音楽がたくさんあるのに、コンピレーションという形では出てないなと。コンピという形態にすれば、オリジナルとは違って買いやすい人がいっぱいいるはずだけど、なかなかリリースに至ってない。
宮治: 確かにそういったコンピレーションはあまりないですね。
堤: リリースされない理由の1つは、70年代に活躍されたアーティスト全般に言えることなんですが、コンピレーションに自分の曲が収録されることを喜ばないというか、許諾しない傾向があるんです。正直、言っちゃうと、ニール・ヤングを筆頭に、彼らはオリジナル・アルバムしか認めないという主張なんですね。「自分の曲を1曲だけ、ましてやほかの人と一緒にするなんて!」というね。詳しくは後ほどお話しますが、許諾を得るのは大変苦労しましたね。
宮治: 収録曲を見ただけで、その苦労がひしひしと伝わってきます。
堤: それで出すとしたら、どういう括りにしたら面白いのかなとアレコレ思案する中、アコースティク・ギターという切り口ってあるんじゃないかと思ったわけです。当時の音楽を考えても、アコースティック・ギターってかなりの頻度で使われていましたし、そういうカテゴリーでCDを作れないものだろうかと。とはいえ、昨今CDが思うように売れないという状況があるわけじゃないですか。会社の方針にも "ミュージック・プラス・ワン"とありまして、やはり代わり映えのしないコンピではなかなか難しい。ゆえに音楽にまつわるあらゆるものを取り込んでいけたらいいのではと思ったわけです。
宮治: 「音楽だけでいいなら、配信でいいや」ということになりますしね。
堤: そうなんですよ。CDというパッケージをより魅力あるものにするのも1つの手なわけです。で、僕の世代とか僕よりちょっと上の世代には、今は音楽をほとんど聴いてない、ギターも何年も触っていないという方々がかなり多くみえるんです。で同時に、もう一度、音楽に夢中になりたい、ギターをもう一回弾いてみたいっていうお話もよく聞くわけです。そんな状況の中で、アコースティック・ギターをフィーチャーした曲を集めつつ、ギターのコードや弾き方を丁寧に書いたブックレットが一緒にくっついたものがあればいいなと思ったんです。人間って、若い時に好きだったものって、何年経っても変わらないじゃないですか。音楽も、新しいものをアレコレ聴くんだけれど、やっぱり原点に戻っちゃうんですよね(笑)。
宮治: 趣味のものですからね。いいものはいいと。
堤: それとですね、高級ギターが売れているという話を聞くわけですよ。
●曲解説・ギター指導:宇田和弘氏
宇田和弘: いわゆる退職金とかで、アコースティック・ギターを購入する傾向がここ数年顕著なんですよ。50代、60代の方たちが30~50万もする高いギターをばんばん買うという。
宮治: マーチンのギターなんて、学生時代や新米サラリーマン時代は高嶺の花で買えっこないと思っていたんだけど…。自分に対するご褒美。人からもらうんじゃなくてね。でも、買った以上はやっぱり何かを弾かなくちゃいけないですよね。ギターをとりあえず買ってみて、もう1回弾いてみようっていう人口が増えつつある中で、本作は、その人たちに「これでやってください」という絶好のアイテムなんですね。
堤: そうですね。オヤジバンドとか今、流行ってるじゃないですか。でも、実際にスタジオを借りたり、バンドを組むことができる人たちってやっぱりすごく恵まれているわけですよ。なかなか、そうはいかないんですね。だけど、CDかけながら自分の家でアコースティック・ギターをつま弾いて、同じように弾けたらいいなというニーズは相当あるはず。で、以前NHKのBSで日本のフォークの特集を見たんですが、アルフィーの坂崎幸之助が、その場で弾きながら歌うんです。そうすると、視聴者からどんどんFAXが来て「ここのところをもう1回見せてくれ」とか、反響がすごいんですよ。みんなギターを持って、その番組を見ているんですよね。なるほどなぁと思いました。
宮治: 潜在的なギター人口が表に出てきたんだけれども、その人たちのニーズに応えられるような商品が実はあまりないんじゃないかと。そのためには、ギターという切り口のコンピレーションが、ワーナーミュージックの潤沢なアーカイヴを使って展開できるんじゃないかというのがそもそもの発想なんですね。
堤: そうです。それともう1つは、もしかして若い音楽ファンが買ってくれないかなと思うんですよ。ほとんど願望なんだけど、そうしてくれたら嬉しいなと。というのは、例えばSuperflyとか、おおはた雄一とかああいう人たちが、70年代の音楽、我々が好きだった音楽、彼らが生まれる前の音楽をいいって言ってくれてるわけじゃないですか。あれってすごいなと思うわけ。Superflyがジャクソン・ブラウンの「Late for the Sky」を、おおはた雄一がボビー・チャールズの「Small Town Talk」とかをやっているわけですよ。もう、抱きつきたくなりますね。「よくやったね」って(笑)。
宮治: それをきっかけに彼らの若いファンが興味をもってもらえたらと。
堤: 予備的な話ですけれども、少しぐらいは…と実は思っているんです。それで、僕らが本当に好きだったあの頃のアーティストを好きになってもらえるというね。そんなことが起きたらいいなと。この話は付け足しみたいですけどね。これが最初に来ちゃうと、相当困難な話ではあるけれども。

● 制作担当:堤潔氏
宮治: そんなこんなで構想1年。ようやく実現するわけですね。宇田さんはどのくらいのタイミングからこの企画に入っていったんですか?
宇田: 僕は今年の年明けくらいですかね。「たまには飲みましょう。少しお話もあるし」ということで初めてこの企画を聞きました。普通、この手のブックレットって、五線譜があったり、タブ譜があったりしますよね。でも、それらを入れると大変なので、コードネームとダイアグラムだけでいきましょうと。堤さんは昔からよく知っているし、どんな意図なのか、ニュアンスがすぐ伝わったんですよ。「あ、この辺の音楽だな」と。で、最初は、ちょっと難しいかなとも思ったんですね。やはり、歌詞が載っていて、そこにAだのDだのEだのコードを書くのはいいんですが、歌詞がないイントロはどうしようとかね。あと、自分もバンドやってたときにこういうコード探しみたいなことはよくやっていたんで概ねイケるとふんでたんですが、難しい曲の場合、もしかしたら聴きとれないコードがあるかもしれないという不安とかね。
宮治: これ全部耳で聴いてやったんですか?
宇田: すべて聴いてとりました。
堤: これが大変素晴らしい出来栄えなんです。実は以前にも日本のフォーク全集とかで、何回か試みているんですよ。5枚組100曲の全部にコード譜を付けたりとか。その時に、これって思ったよりもかなり難しい仕事だなってわかったわけです。最初にでき上がったものをチェックした際、どうもこれコード自体が違うんじゃないかっていうのが、いくつかあったんですね。あと、コードチェンジの位置が微妙にずれているとか。それで、プロの採譜専門の人に頼んで全部やり直したんですよ。で、その方がたまたま日本のフォークシーンに参加されてた人物で、しっかりと直してくれたんです。で、「なるほど、これはイージーにやると間違えるな。ちゃんと曲の良さやニュアンスを理解してる人じゃないとまずいな」と考えたわけです。
宮治: 曲を知っていると知らないとではかなり違いますよね。
堤: それと、どういうことに気を使って作ったかって話なんですけれど、いの一番に、字の大きさね。中高年にモノを買ってもらうイロハの「イ」は、字が大きいことなんだそうです。以前、ある中高年向けの雑誌の編集長の講演に行ったことがあるんですよ。その時、最初に「皆さん、アダルト・マーケティングとかって知ったように言っていますけれど、字が大きくなければ話になりませんよ」と。なるほど、これは肝に銘じなければと。CDって小さいじゃないですか。もちろんコストの問題とかいろいろ出てくるんですけど、とにかく字は大きくしなければならないと。
宮治: なるほど、基本中の基本。
堤: それと、こういう仲間うちで盛り上がっちゃうと、本当にスキモノだけの世界に入って行っちゃう可能性がある。これは一応仕事なんで(笑)、それは回避したいと。ただ、どうしてこういうものを作ろうかと思ったのかというと、確かに俺がほしかったっていうのも大きい(笑)。
宮治: なんだかんだ言って、それはすべての原動力ですよ。それをどうビジネスとして昇華していくかというのがプロの腕の見せどころなんですけれども。
堤: そうなんです。情熱もあり、かつビジネスとしても成立させるというね。
宮治: 今回、アコースティック・ギターという括りの中で選曲されたわけですが、いろいろ苦労も多かったのではないでしょうか。
宇田: このジャンルにおいても、アコースティック・ギターが入っていない曲って意外とあるんですよ。やはり、ある程度アコースティック・ギターが入っていないと成立しないんでね。選曲で苦労したのは、その点です。例えば、ライ・クーダーなんか、たくさんありそうですけれど、割と有名なのはみんなエレキで弾いているんですよ。あと、有名曲でもインストはNG。歌詞がないとコードが付けようがないわけですよ。
宮治: 全部歌モノなんですか?
宇田: 基本は歌モノで、アコースティック・ギターが入っているものですよね。例えば、リトル・フィートは今回「Willin'」を選びましたが、「Dixie Chicken」とか、「Tripe Face Boogie」とか、ああいうのはアコースティック・ギターが入ってないですから。ウォーレン・ジヴォンなんかでも、割とピアノが多いですよね。ですから、アコースティック・ギターがバックでかなり入っているとなると、「Carmelita」しかない。だから何を選ぶかにあたって、最初は思いつきで選ぶんです。でも、実際にちゃんとアルバムを聴いてみないとわからないですよ。カーリー・サイモンなんて、「You're So Vain」なんて、一番流行った曲なんだけど、あれってそれほどアコースティック・ギターが聴こえない。そういう制約の中で、これはいい感じだなという曲を探さなければいけませんでした。
宮治: その苦労は、収録曲リストを見ているとわかります。
宇田: 結構渋い曲が入っているなと思われるかもしれませんが、そういう理由なんですね。
堤: それとね、気を付けていたのは、いくらアコースティック・ギターが今回のテーマといえど、ギターの教則CDみたいなものにはしたくなかったんですよ。皆がギターを弾くとは限らないわけだからね。CDを聴くだけで十分楽しいわけですよ。それがまずありき。ヘンにそっちばっかり気を取られちゃって、演奏しやすい曲が先にきちゃうとおかしくなるから。
宮治: まずはコンピレーション・アルバムとして十分、鑑賞に値すると。

宮治: 選曲もさることながら、演奏するにあたってのワンポイント・アドバイス的な解説文も素晴らしいです。これ字数に制約があるなかでよくやられているなと。
宇田: コードネームを書いて、ダイアグラムが載っているだけじゃなかなか弾けないですよね。例えば、Dadd9って字面そのものが難解そうですが、要するにDの1弦を離しただけなんです。「何だって?聴いたことねえよ」って知らないとあきらめてしまいそうですよね。だから、ちょっとしたアドバイスが必要だと思うんです。難しければここはGのままでいいですよとか、そういうのもたまに書いています。それと、キーは完全に音源と同じにしてあります、そうじゃないと一緒に弾けないから。
宮治: それは嬉しいですよね。
宇田: だから、CDと一緒に弾いても同じ音がしますと。特殊な押さえ方は、スペースが許す限り押さえ方を示しましたので、同じDでも、こんな押さ方をしているよというのがわかるようになってます。
宮治: 同じコードでも、おさえ方がいくつもありますからね。鳴りがもっとも近い押さえ方が記載されていると。それはものすごい労作ですよね。
宇田: でも楽しいですよね。普通に原稿、ライナーノーツを書いていると言葉に詰まったりするけれど、聴きながらコードをとっていると、「よし、やってやろうじゃないか」って燃えてくるんですよね。音をとっていくこと自体、私は好きなんですよ。僕の手に余る難しいのはどうしようかなと思いますけど。
宮治: すでにあるものを参考にしているんですか? 譜面とかあるじゃないですか。
宇田: 譜面は、ほとんどあてにしてないすね。よく誤りがありますから。一番参考にしたのは、DVD。ライヴの演奏シーンを見て、どの辺を押さえているのかチェックしてました。例えば、PP&M(Peter,Paul and Mary)がそうなんですよ。「Leaving on a Jet Plane」ってあるでしょう。ちょっとせっかくだからやってみましょうか。
宮治: ありがとうございます。
宇田: こんな感じでしょう、イントロ。これなんですよ。
一同: おお!
宮治: これはなんていうキーですか?
宇田: これはAmaj7を開放弦を利用しながら押さえているだけ。
宮治: なんか、昔からヘンな、ドローンとした、はっきりしない音だと思ってました。
宇田: こうしたほうがそれっぽいでしょう。よくわからないのはなぜかというと、ピーター・ヤーロウはこのフレーズ12弦で弾いているから。6弦でやると違うんですよ。だからちょっとわからないなと思いますよね。「そういえば、この曲DVDに入っていたな」と思って見たら、「え、こんな風に押さえているの?」っていう(笑)。この類の情報って、どこの本にもほとんど載っていないですよね。ネットにはよくコードが出てるけど、ほとんどが誤り。 ネットだと「Leaving on a Jet Plane」はもう、AとDの繰り返しですよ。まあ、それでもいいけどね。
宮治: 急に本物になった感じがするんですよ。A→Dよりもね(笑)。それにしても、このPP&Mが入っただけでもすごいですよね。この人たちからの許諾、めったに下りないですよ。彼らが今回の趣旨に賛同してくれたんですか?
堤: 実は、このコードが合っているかどうか、PP&Mに本当に送ってチェックしてもらったんです。許諾申請を出した時に、ライノからPP&Mに話が行って、PP&Mは「この企画自体は素晴らしいけれども、コードが本当にあっているかどうか知りたい」というんですよ、それで宇田さんの付けたコードをライノ経由で送ったの。そしたら、PP&Mから100点という評価を付けていただき、それと同時に許諾のOKも来たわけです。だから、もしコードが間違っていたら……(笑)。
宮治: 素晴らしい。僕も長年この仕事をやっているからよくわかるんですけど、PP&Mは、コンピレーションのOKをめったに出さないですよ。言ってみれば、この企画がどの程度、本物なのか試されたわけですよね。
堤: そうですね。これはいわばアーティスト公認のコードなんですよ。これね、目からウロコっていう人がいっぱいいると思いますよ。PP&Mって、皆こぞってコピーしていたから。
宮治: さらに、押さえてみると実はそれほど難しくなかったというから二重でビックリ。他にも、今回採譜していて、えぇ!と思ったことはあるんですか?
宇田: いっぱいありますよ。例えば、リトル・フィートの「Willin'」。あれはたぶん、オープンGチューニング。でも、こうやって押さえるんですよ。こんなに高いポジションを押さえないとあの音は出ない。ただ、それをやっちゃうと普通の人は弾けないでしょう。しかも、それでもどうも若干違うみたいなんです。だから、きっと独特のオープン・チューニングをやっているんでしょう。だからそれに近いのをレギュラー・チューニングで考えたんです。
宮治: あくまでも近似値。イコールじゃないと。
宇田: それはおことわりしてあります。で、こんな感じ(と「Willin'」のイントロを演奏する)。
宮治: 確かに、アノ感触。似てますねぇ。
宇田: 似てるでしょう? 似ているのを考えたんです。
宮治: やっぱりウエストコースト系を見ていると、ジョニ・ミッチェルを筆頭に、オープン・チューニングにしちゃう人が多いぶん、その人オリジナルの押さえ方も多いんですよね。だから、よっぽど本人に教えてもらわないとわからない。でも、正直な話、こんなことをちゃんとやっていると1日に何曲もできないですよね。
宇田: 全部で64曲、1日最大で3曲くらいですね。1曲ごとに、コードをとり、歌詞を聴き比べて修正し、解説を書いて、弾き方のアドバイスも書くわけです。やはり1日3曲が限度ですね。1日1曲っていうのもありましたよ。ウェンディ・ウォルドマンの「Western Lullaby」は1日かかかりました。キーBmの曲をカポなしのオープンGチューニングでやってるなんて、なかなか気づきませんよね。
宮治: 普通にコンピレーションとしても聴けるし、「あ、これいい音色しているな」というのがあれば、これを見ればほぼそれと同じ音が出るかもしれないという楽しみもある。1曲全体でカヴァーしようと思っても、丸ごとって難しいじゃないですか。だけど、アコースティックの曲には、イントロが非常に象徴的なナンバーってありますよね。オーリアンズの「Dance with Me」とか。それがちょっとできただけで、1日がバラ色になりますよ(笑)。初心者の場合、どうしても大まかなコードを押さえて歌うっていうレベルで終わるんですよね。ところが、こういうのを少し見てやってみて「ああ、いい音してる」ってなれば、世界が広がりますよ。また「今度はこれに挑戦してやろう」っていう気分にもなりますしね。50の手習いに是非。老化防止にもなるかと(笑)。

堤氏が実際にライノへ提出した企画書
宮治: 先ほど、PP&Mの話が出ましたが、許諾関連の苦労も多かったのでは?
堤: 今回、ハナから難航するのがわかってたんで、作戦を考えましたね。普通のやり方で許諾を取るんじゃなくて、主旨をまとめた企画書を作ったわけです。どういう人たちに向けたコンピで、コードをこういう風に入れるんだとかね。それをライノ経由で難しいアーティストに送ってもらいました。実はこれがアメリカに送った企画書なんですけど、タイトルが少し違うんです。これは宇田さんのアドバイスで、アメリカ人受けするには、あえてちょっと日本にない英語のほうがいいよと。だから「Days of Acoustic Guitars」じゃなくて、どっちみち仮タイトルだから、あとで変えちゃえばいいかな(笑) ということで「Precious Songs and Acoustic Guitars」にしました。これを付けて、交渉役のライノの担当者に送ったわけです。加えて、「このパッケージはFSC認証紙というエコなものを使っていますよ」という裏ワザも。このFSCというのは、Forest Stewardship Council(森林管理協議会)というところで適切に管理された森林を認証する制度でして、要するに、このコンピに協力することは、環境保護にも貢献してるんですよと(笑)。
FSC認定マーク
宮治: 許諾しないと、環境保護に協力しないことになるよってわけですね(笑)。
堤: だから許諾のために、あの手この手をいろいろ考えましたね。普通はこんなことはしないんですが、私も気合いが入っていましたのでやりきりました。それで許諾が下りたり、ダメだったり、といろいろありましたね。1曲目に持ってきたCS&Nなんて、宮治さんもよくご存じかと思われますが、コンピの許諾がめったに下りない人たちですよ。
宮治: Yなしでも入らないですものね。
堤: そう、ヤングなしでも入らないんですよ。これはライノの担当者が一生懸命口説いてくれて、やっとのことで取れたの。で、彼女の言い方がいいんですよ。「まるでオリンピックみたいだ。自分は4年間、こういう仕事をしているけれど、CS&Nを口説けたのは初めてだったからね」と。だけど僕は調子に乗って、その人に「もうひと頑張りして、スティーヴン・スティルスのソロを取ってきてくれないか」って。したら、もう勘弁してくれと(笑)。相当なエネルギーを使ったみたいで、ちょっとこれ以上は無理だと。
宮治: 許諾においても大変苦労した文字通り労作であったわけですね。
堤: 70年代のアーティストは特に難しいですよ。でも、企画そのものへの共感やら理解が得られれば話は早い。PP&Mはまさにそうで、かつてPP&Mの曲を沢山使ったドラマがありまして、それをDVD化するにあたって、アーティストの許諾を取らなければいけないということがありました。これは1年近くかかりました。途中で、ライノがサジを投げちゃって、直接やれっていう話になり(笑)、マーサ・ハーツバーグというマネジャーと2人でやり取りしてました。で、「何をあの人達はこんなにこだわるのか」と思ったら、やっぱり今回の件とすごく似てるんですよ。検討する前にドラマのビデオを全部送ってほしいと。メンバー3人とマネジャーの分で4セットね。いわく、自分たちの曲がどう使われるか見たいと。それで送ったんですが、今度は日本語だから何にも意味がわからないので、ストーリーを書いてくれって(笑)。それで、ストーリーを全部書いて、やっとOKをもらえました。大変でしたね。
宮治: でも、今日ここで、いろいろとその苦労話を聞いて改めて思うのは、それだけの愛情と情熱があってこそなせるワザだなと。素晴らしい作品だと思います。Vol.2、3も、もしあればまた聴きたいなと。大変だと思いますけれど(笑)。貴重なお話の数々、ありがとうございました。