
ニール・ヤング・マニアの間では長年にわたり話題となっていた、本人監修によるBOXセット『ニール・ヤング・アーカイヴ』の第1弾が、遂に全貌を現した。出身地であるカナダのトロントで高校時代に活動していたバンドから、バッファロー・スプリングフィールド、CSN&Yを経て、ソロデビュー、72年の『ハーヴェスト』までのニール・ヤングの軌跡が詰めに詰め込まれた大ヴォリューム作。全128曲を収録(うち43曲が未発表)。
なお、本作は音質に応じて、3種類のフォーマットでリリースされる。まずは、Blu-Ray Disc10枚からなる『Blu-Ray EDITION』、DVD10枚による『STANDARD DVD EDTION』、CD8枚で構成された『CD EDITION』という3タイプ。お値段が張るほど高音質というわけだ。なお、Blu-Ray版とDVD版には、1973年の公開以来初パッケージ化となる幻の映画『Journey Through the Past』を収めたディスクを封入! さらにあらゆるデータが網羅された236ページのフルカラー小冊子ブックレット、そしてポスター付いているという。
今回ワーナーミュージック・ライフでは、ファン垂涎のBOXセット『NEIL YOUNG ARCHIVES VOL.1』のリリースを記念して、業界きってのニール・ヤング通として知られる音楽評論家の萩原健太氏を招聘。同BOXセットの意味、魅力、通ならではの楽しみ方をお伺いした。
司会進行:宮治淳一(ワーナーミュージック・ジャパン)、井本京太郎(ワーナーミュージック・ジャパン)
宮治淳一: まずは、ニール・ヤングはどうしてこういうものを作ろうと思ったのか、というところから話を始めましょうか。
萩原健太: 真相は、ニールさんじゃないとわかんないけど、77年にリリースされた3枚組のベストアルバム『Decade』の第2弾の制作から派生したプロジェクトではないかなと。制作自体はかなり前に始まってたんだけど、それがそもそものきっかけではないかと思います。
宮治: 20年くらい前くらいですか。
萩原: おそらく20年くらい前には始まっていたんだけど、その間、アナログからCDの時代になっちゃったんだよね。CDっていうフォーマットを彼自身、あまり気に入ってなかったらしくて、「CDの音は気に食わない!」と。それで、再発も何枚かはずっと出ないままになってたりしてね。『オン・ザ・ビーチ』とか。で、それまでCDでリイシューされた音源を聴いてて、ちょっとイマイチだな、みたいな感じだったのが、HDCDという高音質のフォーマットが誕生した時期に、ニールさんが「これはなかなかいいんじゃないか」と。で、リリースされなくてたまっていた音源を彼自身が「リマスターは俺がやる!」と、マスター音源を持って行っちゃって…。
井本京太郎: それがニール・ヤングの再発が遅々として、なかなか進まない根本の原因なんですよね。
萩原: そう。その頃にボックスセットも出るんじゃないかと言われてたんだけど、全部持って行っちゃって、いろいろいじった挙句、まったく音沙汰がないと(笑)。
井本: 僕がワーナーに入ったのが90年なんですが、その90年の段階ですでに制作予定リストに載っていましたからね。
萩原: 検討しっぱなしというね。その頃から、ウダウダ言って、いろいろいじっていたみたい。それで、HDCDフォーマットでマスタリングをやっているらしいと囁かれていた頃、DVDオーディオっていう新しい技術のが出てきてしまい、今度は「あ、こっちの音がいいじゃない」と(笑)。それと並行して、『ディケイド2』を作るっていう計画自体がだんだん変化してきたと。
宮治: またしても、振り出しに(笑)
萩原: この人はどうも、ルックスのせいなのか、いい加減な性格に見えますよね。でも、実はかなりしっかり者みたいなんですよ。例えば、自分の昔の資料をちゃんとストックするタイプで、佐野元春さんが昔、ニール・ヤングの農場へ行った時に、昔の膨大な資料群を見せてくれたらしいんです。何から何まで全部とってあるというね。牧場だからスペースはいくらでもあるし。だから、本当のニール・ヤングは、きちんとしてないと気がすまない類の人間であると。
宮治: 見かけによりませんね。ゆえに、ベストを尽くすという意味で、当時のDVDオーディオという新技術をおざなりにできなかったわけですね。
萩原: で、当時、今度はDVDオーディオ・フォーマットで仕切り直しということになり、ファンの間では、どうも今度はDVDオーディオの8枚組になるらしいぞという噂が流れてきたわけ。その時期に、リマスター音源はDVDオーディオ形式で何作かリリースしてたので、「じゃあ、この流れで出るのか」と思っていたら、今度ブルーレイっていうさらに上をいく技術が出てきて(笑)、さらに数年…。
宮治: そんな20年もの紆余曲折を経て今回、ようやく日の目を見ることに。
萩原: 結局、さっきも話しましたが、CDの音自体、彼は気に入ってないんですよ。自分が目指す音はブルーレイのほうに近いと。要するにアナログに近い音を目指しているらしくて、デジタルの時代になった際、アナログに近い音をどうやって出したらいいだろうかっていう課題の1つの結論がブルーレイだったわけ。ビット数的にもいいんじゃないかっていうところに至って、ようやくこう形になったと。だから、僕たちが本当に心配していたのは、ブルーレイに変わる新しいフォーマットの出現(笑)。新作の『フォーク・イン・ザ・ロード』が急遽リリースされることになって、またこのボックスの発売が2ヶ月くらい先延ばしになったでしょ。あのとき、もし新しいフォーマットが出てきて、またそっちのほうがいいってことになったらこれはもう終わりだと(笑)。結局、事なきを得て胸を撫で下ろしましたね。その間はとにかく、ハードメーカーさんには黙っててほしかったです(笑)。リスナーの気持ちとしては。
宮治: そして、ここでようやく皆さんとご対面。
萩原: まさしく、ご対面って気分ですよね。写真でしか見てなかったから。
宮治: アーカイヴ・シリーズのあくまでも第1弾という位置付けなのに、なんなんでしょうか、このヴォリュームは?(ブルーレイ版、DVD版にはDVDアルバム盤9枚に加え、幻の映画『Journey Through the Past』を収めた映像ディスク、詳細データが満載の236ページものフルカラー小冊子ブックレット、ポスターが付いている) 箱もデカいですし。
萩原: ミュージシャンって2種類いてね、作ったら全部過去のものにしていっちゃう人と、自らの軌跡としてすべてを抱え込む人。ニール・ヤングって時代によってサウンドをどんどん変えていってるから、前者かなという風に考えている人が多いと思うんですよ。でも、実は全部引きずっていこうというタイプなのね。パンクとかやってる時期もあったけど、別に何にも否定していなくて、すべて過去やったこととか、過去に自分が影響を受けたこと、それらすべてを抱え込んだまま、いろんな新しいものを取り込みつつ、現在に至っているというという人なんです。時代と共に変わっているようでいて、何も変わっていない人。だから今回のアーカイヴ・シリーズって、その引きずってきたものすべてをこう、包み隠さず出していこうという意思の表れじゃないですかね。
宮治: とにかく、自身のすべての軌跡をここに詰め込んだというわけですよね。中身的には、何が一番、響きましたか?
萩原: やっぱり初期のものが多いです。あとは、デモテープは面白い。ライヴ映像とか未発表ライヴ音源って、いっぱい出してくれてるから、もう慣れちゃったところがあるじゃん。彼の場合ありがたいことに慣れてきてるから(笑)。やはり、基本的にはデビューするまでの道のりを記したものがアレコレ入っているのは、いいですね。まあ、ネタが満載なんで飽きないです。あと、『Journey Through the Past』ね。これまでひどい画質でしか見たことなかったんだけど、むちゃくちゃきれいでビックリした。
宮治: 長らくお蔵入りになってた作品ですよね。
萩原: 映画としては、どうってことはない作品なんだろうだけど、映画への情熱が強いニール・ヤングだから、入れたかったんだろうね。この前も、映像作家の森達也さんとニール・ヤングの話をしていて、ニール・ヤングの映像編集の力量ってどうなんですかって聞いたら「素人以下ですね」って(笑)。だから、作品としては正直かなり微妙なんですよね。でも、ファンだったら反応するシーンは多いと思うよ。例えば、『ハーベスト』の裏ジャケットに写ってる牧場の納屋で演奏をしているシーンがあって、あの絵が動いているんだよ(笑)。その何ともいえない、「アーッ!『ハーベスト』の裏側が動いてる!」っていう、マニアック感動は相当得られるかと思うね。
井本: あの納屋は、ここにあったんだっていう。CDエディションだとこれが見られないので、是非、DVDかブルーレイ版をお勧めしたいですね。
萩原: 『Journey Through the Past』に関して言うと、これは本当にしょうもない映画なんだけど、魅力は作品そのものじゃないんですよ。もう『ハーベスト』。とにかく『ハーベスト』を思わせるシーンがいっぱいあるんで、ちょっと感動する(笑)。
井本: 市場価値としてはすごいぞと。
宮治: 動く『ハーベスト』。
萩原: やっぱり素晴らしいですよね。映像には説得力がある。ニール・ヤングは自分の歩みっていうか、自分のある時期の活動をこういったかたちで一気にまとめたんだろうけど、やっぱりリスナーの多い僕らの世代にとっては、自分が好きでずっと接してきたものをもう一度、再確認したりとか、あと自分が何を聴いてきたのかを確かめるとか。そういう意味でも重要ですよね。必ず、新たな発見があるから。
井本: これほどのキャリアがあると、どれだけ熱心なファンであっても抜けてたり、忘れてたりする部分がありますよね。それを確認できるというのはいいですね。しかも、フルヴォリュームでまとめてくれているっていう。
萩原: あとリスナーとしては、レコーディングのシーンはやはり興味深い。相当楽しめるね。そんなに楽しんでどうするって言われると、あまり説得力がないんだけど(笑)。でね、やっぱりこれを見ると、いろんなミュージシャンにも「とっておいてくれ」と言いたい(笑)。まとめて出してくれと。ニール・ヤングってやっぱりこういうのがわかっていると思うんだよ。全部入れるっていう発想に近くなっていると思うんだ。わりとコンピューターへの造詣も深い人だから、送り出す側、売る側が取捨選択したものではなく、とにかくデータを全部出すと。そして見るほうがそこからチョイスするっていうね。今、ハードディスクで音楽を聴く時代になってくると、それのほうがいいじゃないですか。アーカイヴに関しては、エッセンシャルじゃなくて、コンプリートっていう発想。そういう時代になっているから、その先駆けとしても評価できると思うよ。だって、まだ73年までしか来てないんだよ、この量で(笑)。
井本: ゆくゆくは、これを家に10とか個並べなければいけないことになりますね。このまま行ったら確実に置けないですね。
萩原: まだ、ヴォリューム1ですからね。73年までで。だって『Decade』はそのへんまでなんだから。『Decade』すら、もう消そうとしているというか(笑)。アルバムは全部買えと、ちゃんと出しとくから。それ以前でもこんだけあるぞと。俺のことが好きなら全部聴けと。
ニール・ヤング初期アルバム4枚が待望のデジタル・リマスターで発売決定。詳しくはこのページで

![萩原健太氏が語る『NEIL YOUNG ARCHIVES VOL.1』の魅力、その意義とは!?[前編]](img/main_h2_01.jpg)









