ライ・クーダー来日記念特集

ライヴ体験者に聞く! 来日公演の楽しみ方
世界中のルーツ・ミュージックに光をあて続ける孤高のギタリスト、ライ・クーダーが、長年の盟友であり英国ロックの良心こと、ニック・ロウとともに来日公演を行なうことが決定! 偉大なるレジェンダリー・ミュージシャン2人による夢のライヴ。その見どころに迫るべく、実際に生でライヴを体験した音楽評論家の五十嵐正氏にインタビューを敢行。ライ・クーダー&ニック・ロウ夢のライヴの楽しみ方、醍醐味をお伝えします!


インタビュー:小澤直人(ワーナーミュージック・ジャパン)


ライ・クーダーのファンは大満足

ライ・クーダー来日記念特集
小澤直人氏(左)/五十嵐正氏(右)

小澤直人: ライ・クーダーの来日公演が決まりました。往年のファンにとっては、今回は一体どんなライヴになるんだろうと期待は膨らむばかりなんですが、実際に本ツアーを一足早くご覧になったという五十嵐さんに見どころを聞いてしまおうというのが今回のインタビューの主旨です。日本公演を楽しみにしている人たちに向け、どんなものなのか教えてください。まず、五十嵐さんがご覧になった公演というのはいつ頃ですか。

五十嵐正: 2009年のツアーのロンドン公演は7月5日と6日の2日間だったんですが、5日はドゥルリー・レーン・ロイヤル・シアター(Drury Lane Royal Theater)っていう、有名なロンドンで一番古いシアターでやりました。現在はアンドリュー・ロイド・ウェバー(イギリスの作曲家)が所有している有名な劇場です。平日は『オリヴァー!』(ディケンズの「オリヴァー・ツイスト」を基にしたミュージカル)を上演しているんですが、日曜だけこういったコンサートなどもやるんですよ。ロンドンはニック・ロウの地元ですからね。ニックが出てきて開口一番「今日はブレントフォードからチューブ(地下鉄)に乗ってやってきた」って(笑)。

小澤: ジョークなのか、ほんとうにそうなのかわからないけれど。

五十嵐: 本当にそうかもしれないよね。たぶん家には帰っていると思う。ニック・ロウって、2、3年前に若い女性と再婚して小さい子供がいるんです。だから、近年あまりツアーをしないのは、そのことが大きな理由だと聞きました。それと僕が今回の来日公演の話にびっくりしたのは、去年ライ・クーダーの新譜『I, Flathead』が出た時に『ミュージック・マガジン』誌で電話インタビューをしたんだけど、その際「もう、ツアーは出ないと聞いてますが、何とか日本に来てくれませんか?」って尋ねたら、「いやー、音楽のために旅に出るのは本当にしんどいんだ」と(笑)。「ただ花見のシーズンなら、行ってもいいかなー。チェリー・ブロッサムが咲く頃ね」って。なんかもう、まったくツアーする気がないみたいだから、これはもうありえないなと思ったんですよ。だから、「温泉でも入りに来て、ついでに数回だけやってくださいよ」って話したら「それならな」って(笑)。ニック・ロウもさっき言ったような事情で、近年ライヴの数自体が減っているんですよ。数年に1回のペースでアルバムを出すと、バンドを従えてイギリス国内とアメリカをそれぞれ短いツアーで回って、あとは年に1、2度、アコースティック・ライヴを数ヶ所で行なうくらい。だから、そんな状況の中で、突然2人でツアーするって聞いたときは本当にびっくりしたね。ことの発端は、去年秋にサンフランシスコでやったチャリティー・コンサートですけど、まさかツアーまでやるとは思わなかった。まあ驚きましたね。


ライ・クーダー来日記念特集
ライ・クーダー来日記念特集

小澤: セットリストから判断すると、ライ・クーダーのバンドにニック・ロウが参加するという感じなのでしょうか。

五十嵐: フラーコ・ヒメネスを含めた4人編成が最初の予定だったみたいだけど、フラーコが腰が悪いという理由で抜けて、3人の「パワー・トリオ」でやってるんですよ。ちなみに息子のヨアキム・クーダーがドラムね。で、前半は2人のそれぞれのナンバーを交互にやっている感じだけど、後半からはもう完全にライ・クーダーのコンサート、ほとんど彼の曲ばっかり。もちろんソロは彼のギターだから、そういう意味ではライ・クーダーのファンは大満足だと思いますよ。ただ、ニック・ロウのファンにはちょっと物足りないかも。

小澤: ライ・クーダーの曲をやっている時は、ニック・ロウが合わせるという感じですか。

五十嵐: ニック・ロウがベースでバックアップしているという感じですね。まあコーラスは2人女の子がいるから、ベースを黙々と弾いているという。もともと、ブリンズリー・シュウォーツ(Brinsley Schwarz)のベーシストでしたから、プレイヤーとしても申し分ない。ちょっと堅めのトーンで、ヨアキムのドラムともよく合っていましたよ。

小澤: ニック・ロウにとっては地元ですけど、一方のライ・クーダーはアメリカのギタリスト。オーディエンスはどうでしたか?

五十嵐: 年齢層は圧倒的に高いですよ。爺さん婆さんばっかり(笑)。ただ、70年代のこういうルーツロック、カントリーロックとか、ウエストコーストのロックって、当時からイギリス、オランダ、ドイツとかですごく人気が高かったんですよ。逆にアメリカよりも支持層が厚い。あと、イギリスはルーツ、フォーク、ワールド・ミュージックのファンが多いから、当然人気は抜群ですよ。

小澤: イギリスってコマーシャルな音楽とは距離を置く、ちょっとアカデミックなファンが多いですよね。

五十嵐: 一生懸命に自分で探すんだよね。特に70年代なんて、今みたいにネットがなかったから、「ZigZag」みたいなマニアックな雑誌を読んだり、アメリカからの輸入盤を置いてあるレコード屋に行って探したりしたんだね。日本と同じで、熱心なファンがたくさんいますよ。

やっぱりスライド世界一はライ・クーダー

小澤: ライヴ自体、トータルで何分くらいだったんですか。

五十嵐: 休憩をはさんで2時間くらいだったと思いますよ。だから、結構盛りだくさんな内容。ただ、ニック・ロウの楽曲がもう1、2曲多くてもいいかなって気もしますが…。ライ・クーダーは、70年代初頭から80年代の頭にかけての有名曲ばかりなんですよ。新作の曲もやらない。あれはコンセプト・アルバムだったんで流れの中でやりづらいというのはあったかもしれないけど、久しぶりのライヴってことで、有名な曲を並べたのではないかと。だから、当然盛り上がるわけです。3曲目で「Vigilante Man」を演奏しまして、僕はのけぞりましたよ。これはウディ・ガスリーの曲なんですが、とにかくライ・クーダーのボトルネックのプレイが素晴らしい、初期の名演です。多くの人は「おおー、もうコレ来ちゃうのか!」みたいな。「Crazy 'Bout An Automobile」とか「Jesus On The Mainline」とか、聴きたい曲が次から次へと来るから(笑)。皆「待ってました!」という感じ。


ライ・クーダー来日記念特集
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小澤: ワールド・ミュージック期以前の代表曲がメインと。

五十嵐: もちろん「Chinito Chinito」のようなラテンぽいリズムのナンバーも披露しましたけど、基本的にはそういうワールド・ミュージックへの展開前のライ・クーダー。だから、スライドギターたっぷりなんですよ。とにかくスライドがいっぱい聴けるから、のけぞりますよ。ナマでエレキのライ・クーダーを聴くと「やっぱりスライド世界一はライ・クーダーだなあ」って改めて思っちゃいますよ。この味わいがたまらんなぁと。

小澤: それは楽しいですね。特に日本は、スライドギターの人気が高いですよね。あのなめらかで微妙なニュアンスは日本人の琴線に触れる世界ではないかと。

五十嵐: ソロもスライドを多用してましたね。ニック・ロウの曲でも、名曲「Peace, Love and Understanding」でライ・クーダーがスライド・ソロを弾いたりね。このあたりは今回の共演の醍醐味だと思います。あと注目すべきは、ほとんどエレキで弾いてたこと。アコースティック・ギターは1回も弾かなかったんじゃないかな。マンドリンは弾いたけど。久しぶりにライヴでエレキを持っている姿を見られて嬉しかったですよ。

小澤: 日本のファンにとっては満足度の高いライヴになりそうですね。

五十嵐: そうだと思います。それと、日本人にはわかりづらいかもしれないけど、ライ・クーダーの音楽ってすごくユーモアがあるのね。そういう部分もライヴの大きな楽しみかも。彼のユーモアはブルースとかから学んだと思うんだけど、ブルースって黒人の抑圧されたところから生まれてきたものだけど、別に泣いたり叫んだりするだけじゃなくて、泣きながら笑うとか、笑いながら泣くみたいなところがあるわけです。あと、市井の人々が、世の中への不満や批判を歌う時、ユーモラスに歌ったりする感じとかね。そういうのを体験して、自分の中に吸収しているんです。ライ・クーダーならではユーモア・センスもライヴの醍醐味。例えば、初期の代表曲「How can a poor man stand such times and live」をプレイする際、今の不景気な世相に合わせて、そういう話が前フリに来るわけです。あと、唯一の新曲の「Biggest Fool Yet」の前に“愚かな人間”について言及したときも、「ニクソン(元大統領)がウォーターゲート事件で失脚して“愚かな大統領”だというレッテルを貼られたけど、ニクソンもまさか自分より愚かな奴が出てくるとは思わなかっただろう」って。ブッシュのことを言っているんですけど(笑)。とにかく、ユーモアを交えつつ、うまくトークしながら曲に繋げていく様はさすがです。職人肌のギタリストというイメージよりもずっとステージ・パフォーマーとしての才もありますね。

小澤: 来日公演のセットリストはどうなるのでしょう?

五十嵐: それほど変化ないんじゃないかな。ただ、ニック・ロウって日本ですごく人気があるんで、彼の曲は少し増えるかもしれない。ニックも03年のフジロック以来、来日していないんでね。あと、見てて思ったんですけど、ニック・ロウはライ・クーダーとライヴするのがものすごく楽しいんだと思う。彼は、イギリス人然としたイギリス人だけど、音楽自体にはすごくアメリカの音楽の影響があるよね。ブリンズリー・シュウォーツはイギリス版ザ・バンドをねらったようなバンドだったし、若い頃はライ・クーダーみたいな音楽に憧れていたんですから、彼みたいなギタリストをバンドに入れたいと思っていたはず。夢がかなったっていうね(笑)。ライ・クーダーが自分の曲のリードギターを弾いてくれるなんて、それは嬉しいだろうなという感じで僕は見ていたけどね。

小澤: 数々の興味深いお話、ありがとうございました。来日公演が俄然楽しみになってきました。

五十嵐: ありがとうございました。


ライ・クーダー&ニック・ロウ RY COODER & NICK LOWE│来日情報

11/4 Wed. Zepp Nagoya (名古屋)
11/5 Thu. JCB HALL (東京)
11/6 Fri. グランキューブ大阪 (大阪)
11/9 Mon.-11 Wed. Bunkamura オーチャードホール (東京)
詳しくは ウドー音楽事務所


リリース情報

■ライ・クーダー アンソロジー
ライ・クーダーのキャリアを惜しみなく収録した究極のベスト!
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■ライ・クーダー 紙ジャケットコレクション 第2弾
80年代の名盤6タイトルが紙ジャケにて登場!!
全編2009年デジタル・リマスターによる音源で登場です。


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