
プログレッシヴ・ロックやジャズ・シーンで大活躍する鬼怒無月と、かの武満徹氏も認めたクラシック/現代音楽界の気鋭ギタリスト、鈴木大介による至高のギターユニット、The DUO。2010年4月21日にリリースされたニューアルバム『SEASONS』は、2人の豊潤すぎる個性がとことん混ざり合った、エヴァーグリーンな魅力にあふれる一枚だ。クラシック、ジャズ、ラテン音楽、ロック……と自由自在かつナチュラルにクロスオーヴァーする様は圧巻。そんな同作の魅力に迫るべく、鬼怒&鈴木両氏に直撃インタビューを敢行した。
――本日はよろしくお願いします。今回、ワーナーミュージック・ライフ初登場ということなので、まずは自己紹介と専門分野などをお教えいただけますでしょうか。
鈴木大介:僕はクラシック・ギタリストです。自分のメインというか、主軸にしているのは、日本の現代音楽とバッハとかのいわゆるバロックのものです。
――現代音楽の巨匠、武満徹氏を取り上げた作品がずいぶんありますよね。その経緯を教えてください。
鈴木:95年に留学先のザルツブルグから日本に帰って来たんですが、卒業制作みたいな感じでオーストリアの田舎の教会でアルバム音源を作ってきたんです。それを持ち帰り、出版してくださる会社を探しているときに、たまたま武満さんの手に渡ったんです。僕が伝え聞いた話ですけど、「このギタリストで自分の作品集を作ってほしい」みたいなことをおっしゃられたのがきっかけで、ギタリストとして生活できるようになったんです。それで、「じゃあ、やりましょう」ということになり、武満さんの新作を待っていたら、96年に武満さんが亡くなられてしまい……。以降、いわゆる武満さん周りの方たちから演奏の機会とか発表の場を頂いて、今日に至るという感じです。
――現代音楽の方たちとの交流は日本に戻って来てからなんですね。
鈴木:本格的にはそうですが、留学前にも現代音楽のアンサンブルの仕事はよくやってました。あと留学中もキューバ人の前衛作曲家と交流があったり、学校の学長が現代音楽の作曲家で、その方のアンサンブルに内緒で入れてもらいローマに演奏旅行に行ったりもしてましたね。だから、現代音楽とは何かと縁はありましたね。
――ちなみに鈴木さんっていわゆる音大の出身ではないんですよね?
鈴木:その頃、ギター学科のある音大がなかったんですね。今は東京音大とかではあるみたいですけど。それと、うちの母があまりプロのギタリストにはなってほしくないみたいな感じで、なんかもう少し応用がきくところに行きなさいみたいな、ね。それで、早稲田大学の第一文学部に行ったんです。哲学科の中に人文専修っていう、美術史とか絵画史とか何をやってもいいところ。
――結局、応用のきかないところを選んでしまったという(笑)。
鈴木:そうそう(笑)。そうこうしているうちに、3年から4年になる春休みに、海外のコンクールで入賞したりして少しずつ欲が出てきたんです。もうちょっと続けてもいいかな?みたいなことになりました。で、1年間、さっき言ったような現代音楽のアンサンブルの仕事だったり、いわゆるレストランとかでギター弾く仕事だったりとか、そんな活動をしつつ音楽の道を模索してたんです。
――いわゆる修行時代ですよね。
鈴木:その時点ですでに、ドロップアウト気味だったんですけど(笑)。で、当時まだやっぱりバブルの名残がって、同級生の奴らは、新聞社や証券会社とかいいところに就職していくわけです。で、そいつらと酒飲んだりしても話が全然かみ合わなくなっていくんですね。卒業後の1年間で、周りとの意識の変化に愕然としました。「俺はこれを死ぬまでやってくのかな?」って疑問がわいたところに、留学の話がきたんです。奨学金ももらえるというので、これで1年間は食いつなげるなと。で、帰ってきてからは武満さんがほめてくださったので、なんとか仕事にありつけて、と。だから、いわゆる"わらしべギタリスト"(笑)。
――では鬼怒さんはどうですか?
鬼怒無月:もともと僕はインディーズから出発して、現在もバイオリニストの勝井祐二と、<まぼろしの世界>というミュージシャン自身によるインディー・レーベルをやってます。良かったところも悪かったところもあるとは思うんだけど、もう最初から自分の音楽を一から自分自身で作ろうというスタンスですね。
――いわゆる既成のレコード会社とか、そういったものじゃなくて、あくまでも自分で作って……。
鬼怒:ハナから僕らのやっている音楽はちゃんとした商売になるとは思わなかったので。
――<まぼろしの世界>を作ったのは何年くらいですか?
鬼怒:91年あたり。僕は大学を卒業してから、3年間サラリーマンをやっていました。それから会社員を辞めて、もう本当になんにもないところから始めましたね。<まぼろしの世界>を作らざるを得なかったという(笑)。そこで、ボンテージ・フルーツという自分のグループの作品を6枚、リリースしています。
――鬼が怒るで鬼怒、この名前から来るイメージと、ボンデージ・フルーツでやっているプログレッシヴ・ロックや即興音楽から醸し出される世界観。一般の方からするとちょっととっつきにくそうな感じがする一方で、鬼怒さんって女性ヴォーカリストとかからとても支持されてますよね。鬼怒さんのスウィートな側面も、女性シンガーたちは見抜いているのかな。伴奏って、包容力って必要じゃないですか。
鬼怒:そうなんですかね。
――だから決して、「攻撃的でエクスペリメンタルなエレクトリック・ギタリスト」というだけではないなと。
鬼怒:だから、音楽って結局のところ人間関係じゃないですか。攻撃的な側面ももちろんあるんですけど(笑)、でもやっぱり、"素直に一緒にやってほしい"って言われたらね。若いときは「いや、そんな音楽はできません」とかあったし、今でもたまにありますけど、その一方で、やってみたらこういう音楽も自分には合うなとか、楽しいなっていうね。なんかサポート・ギタリストを通じて教えられた部分もすごくありますね。そうやって人に助けられて、ここまでなんとか(笑)。
――ギターを始めた当初からエレキがメインですか?
鬼怒:実はクラシックを習ったのが最初なんです。10歳から1年半。本当はフォークギターがほしかったんですが(笑)。
――じゃあガットギターはある意味、原点回帰でもあるんですね。
鬼怒:そうなんです。僕の好きなギタリストっていうのは、例えばレッド・ツェッペリンとかもそうなんですけど、エレキとアコースティックの両方弾くっていう人が多かったので、やっぱりアコースティック・ギターっていうのが常に傍らにあったんですよね。
――こうお話をうかがってると、かなりタイプの違う2人のギタリストがユニットを組んでいるなと。そのあたりはどう思いますか?
鬼怒:確かにまったく違うんだけど、実はいっこだけ共通している要素があって……。言葉にすると陳腐に聞こえるかもしれないけど、主流から外れるってこと、音楽的に自由であることに対して、恐怖を抱いていないという部分。そういう共通項がないとやっぱり、出会わなかったですよね。
鈴木:日本のクラシック界に身をおいてみてよく感じるのは、もともとクラシックはヨーロッパのもので自分たちのものではないからか「こうあるべきだ」みたいな考えがとても強いということ。そこから外れた人を異端扱いしがちなんですね。もしそれが日本文化だったら、「ああ、そういうやり方もあるんだね」くらいの許容性はあると思うんですが……。
――日本にいると、どうしても本場からは入ってきた基本的なモデルっていうのに縛られてしまいがちですよね。「こうすべし!」と。
鈴木:そうなんですよね。セオリーに則ってないと"変わってる"とか言われちゃうんです。
『SEASONS』
――今回のアルバム『SEASONS』は非常にロマンティックで美しい作品集ですね。単なる伴奏とリードという組み合わせではなくて、自在に攻守を変えてのインタープレイの有機的なつながりはほんとうに素晴らしい。シビレました。聴きどころと代表曲をお2人から話していただけますか。
鬼怒:僕は1曲目の「四月の思い出」は、すごくThe DUOらしいと思います。どっちが弾いているんだかよくわからない、2つのギターが徹底的に溶け合っているようなサウンドが出来ましたね。意外とこういうのって、ありそうでなかったなと。やっていること自体はわりと普通で、ただ「四月の思い出」のメロディを弾いているだけなんですけどね。"プラウド・オブ・デュオ(The DUOの誇り)"みたいな感じがするかな。
――今のThe DUOを象徴する上がりになったと。鈴木さんはどうですか。オリジナル曲でもいいですよ。
鈴木:僕は「ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング」です。
――最初と最後ですね。しかも両方ともいわゆる"ど・スタンダード"(笑)。
鈴木:これも同じような意味で、からんでいるっていうギターっていうか、混ざり合っているサウンドがいいなと。
――今まで3枚やってきて、最初は酸っぱいところもあったんだけど、だんだんいい甘味が出てきたみたいな感じがしました。今、まさに食べごろ。
鬼怒:たぶん、The DUOサウンドみたいなものが確立されてきたから、気負いがなくなったっていう感じはするんですよね。やっぱり1枚目とかは結構"頑張ってやりました"みたいな感じもあったんですけどね。
――それと、同作を引っさげてのライヴツアーがあります。今回はサポート・ミュージシャンを入れてやりますよね。この前、観させていただいたんですが、パーカッションとベースが入ったアンサンブルも、またグッとおいしいものでした。どんなライヴになりそうか、お聞かせください。
鬼怒:まず、The DUOとして、東京以外は初めてす。しかも連続して演奏することも初めてなんでとても新鮮ですね。あと、やっぱり東京でのライブだけですが、リズム・セクションのサポートが入るのは、自分たち自身がすごく楽しめますね。例えば「オリジナルがさらにこんないい曲になっちゃった」とかね。
――吉野(弘志)さんのベースと岡部(洋一)さんの気持ちのいいパーカッションが加わわった立体的なサウンド、これは楽しみですね。今日はありがとうございました。