
大学時代に先輩とファンク・ソウルのバンドでヴォーカルやっておりました。「You've Got A Friend」をやりましょうということになり、ダニー・ハサウェイのヴァージョンしか知らなかった当時の僕は、先輩からこの曲を研究するためにこれを聴けと言われキャロル・キングの『つづれおり』を初めて聴くこととなりました。その衝撃度は、普通の人が一生のうちに聞く回数を1週間で聴きました……くらいの大きさだったのですが、お目当ての「You've Got A Friend」は、ジェイムス・テイラーも歌っていた曲だとその時に知り、『マッド・スライム・スリム』を聴いたのが始まりでした。
以来、彼の大ファンにもなったわけですが、それは、黒人のようなソウルフルな声でも、抜群の歌唱力で勝負しているわけでもなく、淡々とキレイでわかりやすい英語で歌ってくれるので歌詞も覚えやすく、何となくシンパシーを感じる……というポジティブなのかネガティブなのかわからん理由からでした。でもとにかく、すっと心に入ってくる歌だったのです。
JTが『スウィート・ベイビー・ジェイムス』で一躍有名になったのは1970年のこと。ベトナム戦争が泥沼化し、ジミヘンやジャニスは薬の過剰摂取で他界、サイモン&ガーファンクルが「明日に架ける橋」を歌った時代。彼自身は薬物や精神病で病んでいた時期もあり、それを乗り越えて作られた彼の名盤たちは、そんな病んだ時代を大仰に斬るわけでもなく、淡々とパーソナルな世界観を歌ったものではありますが、ちゃんと時代と向き合ったものだったと今になって思います。
しかし、僕がジェイムス・テイラーを初めて聴いたのは1986年というバブルの予兆の時代で、遊んでばかりいた大学生。それらが混沌とした時代と自らの苦悩の末に産み落とされた作品であるということも気付かぬまま、ただ何となく聴いていたのかもしれません。
今聴くJTは、若いときに聴いたJTよりも心にしみるのは、ようやく彼の楽曲の背景にある何かが理解できるほどに成長したのかな?と思うのです。また、2010年は1970年と同じくらい、時代が病んでいるからなのかなぁ…なんて思うことも。
話が変わりますが、『スウィート・ベイビー・ジェイムス』『マッド・スライム・スリム』などは、今普通に聴いても"これが本当に40年前の作品か?"と思うほど音が良いです。
最近リリースされるオーガニック・テイストな作品よりも全然音が良い。ちなみに、僕(口笛太郎)が自分の作品をマスタリングしてもらいに、マスタリングの大御所、JVCマスタリングの原田さんを訪ねた時のこと。作業が終わって世間話をしてるとき、「何かこの部屋で最高の音を聴かせて下さい」とお願いしたら、ニコっとしてJBLのゴッツいスピーカーとアナログ・プレーヤーで、ジェイムスの元奥様、カーリー・サイモンの『ノー・シークレッツ』のレコードをかけていただきました。これはジェイムスも曲を提供したり、演奏にも参加した1972年の作品。1曲目と5曲目は、カーリーがジェイムスに捧げた曲。やはり愛のある音楽はいい音になるのでしょうか?――ということはさておき、環境も技術も技術者もバック・ミュージシャンも最高に上手く、当時のLAの音楽シーンって、こんな良い音が街に溢れてたのかなぁ……と思うと、本当に羨ましい限り。
今回のキャロル・キングとジェイムス・テイラーの来日公演が楽しみなのは、もちろん二人に会いたいから。おまけに、バック・メンバーも、あの頃のメンバーだったりするそうです。ようやく彼らの当時の音楽をちゃんと受け止められる自分になって、当時のメンバーで目の前で演奏してくれる時がすぐそこまで来てる……。あまりにも楽しみなので、チケットは2枚買いました。
でも、誰と行くかはまだ考え中です。男の友人と行くのは避けたいが、女の子といくのも気が引ける。もしかして一人で行くかもしれません。――そんな大事な時間になると思います。
口笛太郎(口笛奏者)