出席者:平本肇、細川利孝、佐々木雄三、宮治淳一
ワーナーブラザーズ・レコード50周年記念企画、『フォーエバー・ヤング・スペシャル・リリース』の編成プロデューサー、宮治淳一氏の呼びかけで、ヴァリアント・レコードが発売したシングル盤を番号順に聴きまくるリスニング・マラソンを敢行しました。ヴァリアントは1960年バリー・デヴォーゾンがロサンジェルスで設立したレーベルで全米の販売をワーナーブラザーズに委託、66年ワーナーブラザーズに買収されるまで良質なポップス・レーベルとして数多くの「聴くに値する」楽曲を世に輩出しました。今回の音のマラソンはUS・オリジナル・レコ−ド・コレクターとして著名な平本氏秘蔵のヴァリアントのシングル・レコードを自由に使用させていただきました。参加者はその秘宝館館長・好事家、平本氏、古い音楽のマニア細川氏、宮治氏、わたくし佐々木の4人。単純にシングル・レコードを番号順にドンドン聞いて、あーじゃない、うーじゃない、と率直な感想や見識が長時間に渡って披露されましたが、ここでは紙面の関係上、主だった代表曲についてレポート致します。(佐々木雄三)
宮治:おそらく、日本そして世界の音楽史上、類を見ない特定レ−ベルを聴きまくるイベント、リスニング・マラソンの始まりです。題して、ヴァリアントな夜っ! 早速スタ−トいたしましょう。

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1.「Angel On My Shoulder」Shelby Flint (6001)
宮治:なぜ、6000番台から始めたんですかね? それと、これ、私が持っているシングルとはレーベル・デザインが違いますネ。初めて見ました。いきなり「秘宝」登場ですね。
細川:宮治さん、これに書いてありますよ。なんと、ヴァリアントは6001番だけが、オリジナル・レーベルで6002番以降6013番まで、ワーナーのサブ・レーベルと一緒になったと資料に書いてあります。
宮治:最初のシングルが幸先よくヒットしたので、ワーナーが急に出資したのかも。ヴァリアントとしての純粋オリジナル・レーベル・デザインはこれだけなのかもしれないナァ。曲調はティーン・ポップというより、米国の古いフォスタ−の作品とか、フォーク・ソングに近いような世界だね。シェルビーの歌い方は、ジョニ・ミッチェルが影響を受けたと言われるように、一切シャウトしない、何か正統派の歌手としてのム−ドが感じられます。アレンジャーがバニー・ボトキンと表記されてるけど、これペリ−・ホドキンJr.の変名かな? それとも本名とか…?
(注:その後の調べで二人は同一人物と判明。また6002番から6013番まではワーナー傘下のサブ・レーベル、モントクレアと番号をシェアしていたことも判明した。よってディスコラフィで抜けているもの中で同番号帯のものはモントクレア・レーベルのシングルの可能性が高い)
宮治:曲は誰が書いてるのかな?
平本:本人ですね。シェルビーはこの曲だけでなく、すべてティーン・ポップ風ではないけど、いい雰囲気の曲が多いですね。
佐々木:この曲は、60年12月発売で61年に最高位22位です。
(注:その後、細川氏の調査で、この曲は、「ささやく天使」との邦題で69年4月、東芝EMIからモコ、ビーバー、オリーブの女性トリオのシングル曲(EP−1170)としてカヴァー・リリースされていることが判明、この曲の日本でのヒットは確認さていないが、この曲の良さを認識していた日本人がいたことを知る)
2. 「Magic Wand」c/w「A Broken Vow」Shelby Flint (6014)
平本:次を聴いてみましょう、よく見てみると、ヴァリアントの6004番と6014番は実は同じです。
宮治:そうか、出し直ししたんだっ! 6014番からなにか体制が変わったんだね、きっと。
(曲が始まるや否や…)
平本:もう、完全ペリー・ボトキンJr.っていう感じでしょう…。こちらがA面ですけど、B面もいい曲だよ。
宮治:アン・マーグレットの「ヘイ・リトル・スター」(D・ゲイツ作品)のようだね。アルバム未収録の曲というのも気になるね。
(ここで、B面の"A Brooken Vow"を試聴)
平本:最初、ヴァリアント6004番ではこちらがA面だったようです。
宮治:森山良子の曲のような感じですね…。
細川:日本では、「A Brooken Vow」がA面扱いで、日本コロンビアが“破れし誓い”という邦題で出してますね。
平本:聴いてみると、曲としては「Magic Wand」が勝ちだねぇ。
3.「I Will Love You」Shelby Flint (6010)
宮治:これもとても、良い曲だなぁ。レーベル・オーナーのバリー・デヴォーゾンの奥さんになる人の作品だからどれも、力が入っている(笑)。
佐々木:この曲は、一般には、ロビン・ワ−ドのヴァージョンが有名ですね…。
宮治:彼女にとって、自分で作ったデビュー曲で、最初はケーデンス・レ−ベルで出したんだけど、全然売れなくて、もう一度新しく、ヴァリアントで再録音したのがこれ。曲自体は悪くないからねぇ…。
細川:こういう曲は、いつの時代に聴いても素晴らしいですよね。
4.「Second Best」The Cannon Sisters (6020)
平本:本日、一番のお薦め楽曲の登場ですっ!!
宮治:Secondと言いながら、ティーン・ポップのイチバンの最高傑作に近いかなァ、62年、デヴォーゾンの作品だけど、相方はいつものチャンドラーではありません(クレジットはDeVozon−Landau)。
佐々木:B面の「I Do」もいいけど…。
平本:A面のこちらが良すぎちゃうんだよね…。ディーン・キャノンっていうのが、リード・ヴォーカルなのかなぁ。ソロ名義でシングル出してるものね。
宮治:AB面ともいいね。この事実を知らずこのシングルをオ−クションで安く落札して買った人は、本当の“ミっけもん”という感じできっとニンマリするはずだよ。
細川:アーティスト単体でアルバム復刻はできないけど、是非、宮治さん50周年記念オムニバスに、Valiant Teen Popsの代表として、この曲、お願いもうしあげますね。
宮治:ハイハイ。
平本:キャノン・シスターズはどの作品も良いので、是非CD化してほしいですネ。
5.「I'm Sorry I Went」The Cannon Siters (6024)
平本:この曲もフィレス・サウンドで良いけど、いかにも白人ヴォーカルという印象ですね。
佐々木:日本でもこれはリリースされていたような記録がありますが…。
細川:当時、東芝はワーナーブラザーズを7B−1番はアルディラで、2番をコニー・スティーブンスという順でリリースしています。それでこのキャノン・シスターズは7Bー12で出ていました。
宮治:ヒットしてないと思うけど、邦題の“お先に失礼”は、いいよね。村上さんという当時の東芝さんの担当ディレクタ−さんがつけたのかなぁ? 確かおニャン子クラブのタイトルでパクッてたような記憶があるけど…。
6.「There's A Reason」The Cascades (6021)
平本:このカスケ−ズの盤のB面、「Second Chance」を聴くと、大分、サウンドとか曲調が変わってきているような…。
宮治:純粋無垢なティーン・ポップ時代がそろそろ終局を迎えるようなムードがありますね。
7.「I'm Gonna Forget You」The Tiaras (6027)
宮治:63年の作品だけど、ダーレン・ラブがいるようなフィレス風で、これは完全黒人のグルーフ゜だよね。
平本:62年のヴァリアントにはなかったサウンドが急に出てきたような印象だけど、これもいいなぁ…。
佐々木:アメリカン・ポップスの世界では、62年と63年では時間としては、たった1年のことなのに、何か全く世界か変わってしまうような…。
宮治:63年と64年もかなり違うよ。例えばシャンティーズやサーファリスのサーフィンの全米ヒットが63年に生まれるけど、64年になるともうビーチ・ボーイズあたりはサーフィンやめてホット・ロッドをテーマにしちゃうんだよね…。
佐々木:大変、目まぐるしい変化のなかで、ヴァリアント・レーベルも試行錯誤していたかな。ところで、カスケーズのシングル・クレジットに出てくるビリー・シャーマンという人は誰なのかな?
宮治:デヴォーゾンと一緒に音楽出版社を作った人で、それがヴァリアントのもとになったんだ。でも音作りには、この人は全く出てこないですね。
8.「I Wonder What She's Doing Tonight」Barry & The Tamerlanes (6034)
宮治:ヴァリアント最大のヒット・アーティスト、カスケーズが63年にはRCAに移籍してしまうという事件が起きるんだ。
佐々木:たびたびシングル・クレジットに登場してくる、ボディ・チャンドラーは、バリー・デヴォーゾンがUCLAに通っていたときに知り合った人のようですが。
宮治:作家として、あるいはプロデューサーとしてデヴォーゾンは自らのレーベルに寄与してたんだけど、この予期しないカスケ−ズの移籍で急遽、チャンドラーともうひとりの友人、テリー・スミスと結成したのがこのタマレーンズでしょ。思わぬ現役復帰だね、本来この曲はカスケ−ズが歌う作品だったかもしれないね。
平本:63年に21位までチャートを上った曲ですけど、もう明らかに62年には全くなかったサウンドですね。
9.「Kick Out」Safaris (6036)
平本:ヴァリアント唯一のサーフ・インスト・シングルです。
宮治:曲の作者クレジットを見ると、全くデヴォーゾンとかチャンドラーが出てこないし、メンバーの作品なんだろうね。外部からのマスターの持ち込み作品をリリースしたのかな?
平本:いきなり、“キック・アウトォゥー!!”と叫んで曲が始まって、演奏は迫力あって、いいね。120位くらいまて上っているみたい。
宮治:演奏が上手いね。高校生バンドじゃないね、これは。目標にされた大ヒット曲「Wipe Out」の大人ヴァージョンだな。
平本:スタジオ・ミュージシャンのグループだったようです。B面の「Lonely Surf
Guitar」はスロー・バラードだけど、これも良いですよ。A面が真昼間のビーチとすると、夕方5時ごろの凪の時間のビーチを思わせるムードです。
佐々木:あのSurfarisと同名異グループですか?
細川:いや、スペルがSurではなくて、Saなのでまったく違うグル−プですね。むしろエルド・レ−ベルから「イメージ・オブ・ア・ガール」をヒットさせたヴォーカル・グループのサファリスと同じスペルじゃないかな?
宮治:曲のクレジツトにまったくそれまでのヴァリアントのスタッフ陣の名前がないので、持ち込まれたアンサー・サーフィン・インスト作品に、63年という時節柄飛びついたように思えるね。きっとエルドのスタッフからもちこまれたものでヒットにあやかりSAFRIS名義で出したんだろうね。
10.「How」The Chiefs (6038)
宮治:まったく知らないアーティストです。
細川:日本の宇賀田がやっているエル・カミーノスというバンドがなぜか、カヴァーしている曲だね。米国のDel−Fiから彼らは、シングル・レコードを出してるんだよ…。
宮治:このレコ−ドのクレジットをよ−ぅく見ると、作者のD.GalleseはさっきのSafarisの曲の作者でもあって、どちらもEldo-Gallese Productionのシングルということになります。
平本:推測するに、どちらも、Galleseという人がプロデュースしたということと、SafarisもChiefsも同じサーフィンなので、同じメンバーで演奏しているのかも。
宮治:曲を聴くと、どちらのバンドも、ドラムがいいので、D.Galleseがドラマーで、リーダーなのかもしれないね。
11.「Butterfly」c/w 「Roberta」Barry & The Tamerlanes (6040)
宮治:「Butterfly」はとても良い曲ですねぇ…。ヴァリアントのレーベル面は、この盤のシングルからクレジットが金字になります。
佐々木:「Roberta」がアルバムA面の1曲目なので、こちらがやっぱA面ですかね。
平本:これ、どちらがA面かよく解らないんだよ。この盤は…あっ、ただ「Butterfly」は当時、127位になっているだね。
宮治:正確にはタマレーンズは2曲全米ヒットがあったんだね(笑)。
細川:発売当時のジューク・ボックスでのかかり具合ではレコード会社の思惑とは違った面がクローズ・アップされたりしたんじゃないのかな?
宮治:改めて聴いてみると、本当にこのシングルはどちらの面も良い曲ですね。
12.「Big T」c/w 「Me And My Spider」The Reveres (6041)
佐々木:目隠しで聴いたら、もろビーチ・ボ−イズですよ、これは!! こんな曲を知らなかったなんて。
宮治:この曲はなんと、意外にもボディ・チャンドラー作品で“もうフォークなんかやっていられない”そんな感じが伝わってくるな。ファルセット・コーラスがきれいで、どちらかというと、ビーチ・ボーイズというよりは、ジャンとディーンかなぁ。素晴らしいとしか言いようがない、シングルですね。
平本:ビーチ・ボーイズを意識して作ったような、ブライアン・ウィルソンやロジャー・クリスチャンがやりそうな世界だね。
佐々木:B面もすごい。なんか、ファンタスティック・バギーズの作品のような、どちらもグレート!!
宮治:今日の一番かもしれない、両面ともいい、ツーサイダー45'sとは、こういうのを言うんだよね。
平本:7月6日、武蔵小山Againでのイベントでは、この曲をかけますよ…。サーフィン・ヴォーカルがAB面とも収録されたヴァリアントはこれだけかもしれない。
佐々木:未確認ながら、Againのレコード・プレイヤーが良くなったようですからね(笑)。期待してます。
(注:後日行われたAgainでの「爆音オールディーズ」イヴェントでは2曲とも無事披露された)
13.「I Still Love Him」The Joys (6042)
平本:64年になると、これまた良い曲が出てくるですよ。
佐々木:これも良い曲だなぁ。さっきのが、ジャンとディーンなら、こっちは、女性ヴォ−カルでジル・ギブソンの「It's Easy As 1・2・3」のような世界ですよね、これは…。
宮治:バックはかなりフィレス・サウンドになっていて、かなり、お金がかかったサウンド作りになってるね。
細川:B面はどうですか?
宮治:あっ、B面はカラオケになっていますね。シングル1曲のコストが、かかり過ぎたのかな? この曲じゃぁ、お金がかかるもんね。
佐々木:とても重厚なサウンドで圧倒されます。
細川:結局、両曲ともチャンドラー=デヴォーゾン作品だけど、64年という年の流行のスタイルを大変意識しているのかね。
14.「Don't Go」Danny & The Memories (6049)
宮治:あっ!! これは問題のシングルです。
佐々木:バリーとタマレーンズの「Don't Go」として、その昔アルバムに間違えて収録されてしまったシングル曲として有名ですね。でも、オケはふたつとも一緒ですね。
宮治:テープをコピーしたスタジオのスタッフが間違えたんだろうね。
細川:リーダーのダニー・ウィットンがその後、クレイジー・ホースに行くのかな?
宮治:そう、そういうこともあってこのメモリーズは昔から注目されていて、シングルは高いですよネ。B面の「Can't Help Lovin' That Girl Of Mine」も“情念のあるレターメン”って感じで好きです。
15.「Wonderland」Shelby Flint (6052)
宮治:いい。実にいい。もうわたしは今晩からシェルビーの大ファンになってしまいました。曲もアレンジも最高。作曲はこのころやたら登場するアドリシ・ブラザーズです。
佐々木:アドリシ兄弟はインド系アメリカ人で、芸歴も長く今後研究するに値する音楽家です。
平本:ほう!これから注目してみよう。
約2時間50曲以上を聴きまくり、改めてヴァリアントの魅力を再確認いたしました。平本さん、秘宝の数々ご提供ありがとうございました。この記事をよりよく理解してもらうために2008年7月までにこちらで知りうるヴァリアントのシングルを網羅したディスコグラフィーを掲載しました。「不完全」ながら結構楽しめます。(佐々木雄三)