アナトリアの織物の伝統において、「チェスト（胸／箱）」のモチーフは、結婚適齢期に達した若い女性たちの実際の嫁入り道具箱を表しています。このモチーフを絨毯に織り込むことで、彼女たちは結婚の準備が整ったこと、持参金が用意されたことを世界に向けて表現していたのです。

しかし、私にとってこの「チェスト」は二重の意味を持っています。一つは物を収める「箱」として、もう一つは呼吸や声の源である「人間の胸部」として。この繋がりは、今回の作品でより深い意味を持ちました。というのも、大学時代に初めて学んだアナトリアの管楽器「ネイ」を、この作品で初めて取り入れたからです。胸から生まれる息をネイに吹き込むという行為が、このモチーフの本質と強く結びついていると感じたのです。

「チェスト」は、単なる準備の象徴ではなく、「移行」の物語でもあります。そこには待ち望まれた結びつきの喜びがある一方で、家を離れ、自らのルーツから一歩離れるという別れの意味も含まれています。このことは、ルーミーの有名な詩句――「葦笛の声を聞け、それは別離を語っている」――を思い出させました。葦笛が葦の原から引き抜かれた悲しみを歌うように、このモチーフを織る女性もまた、結婚によって得られる再会と同時に、別れの感情を抱いているのかもしれません。そう考えながら私は、ネイの息吹をこの作品に吹き込みました。この「チェスト」のモチーフに結びつけることで、「希望」「憧れ」「移り変わり」といった複雑な感情を表現したかったのです。