ワーナーミュージック・ジャパン(以下、WMJ)は、2024年12月に就任した岡田武士代表取締役社長 兼 CEOのもと、アーティストやビジネスパートナーに信頼され、選ばれる企業に進化することを目指し、様々な改革を進めています。
この一環として、アーティストの夢や目標に寄り添い、チームとしてこれを実現するためには、高い専門性とモチベーションを持った人材に選ばれ、彼らが最大限に力を発揮し、成長できる環境を作ることが重要と考え、人事・報酬制度や働き方の改革を推進しています。
当社の様々な取り組みやその舞台裏、音楽への情熱を胸に日々挑戦を続ける社員たちの思いなどを紹介する「Backstage Pass」の第一弾として、山本真 人事部長にインタビューを実施し、ワーナーミュージック・ジャパンが目指す会社や組織の姿や、さまざまな制度改革の背景について解説してもらいました。
透明性を高めながら、最後は「人」が介在することの大事さ
まずは、山本さんのこれまでのご経歴と、WMJに入社された理由からお聞かせいただけますでしょうか。
山本私はこれまで人事として外資系企業・日系企業の双方で、また業界も異なる様々な企業で経験を積んできました。その中で培ったベストプラクティスを、それぞれの会社の文化や事業に合わせて取り入れながら組織づくりを進めてきました。
エンターテインメントビジネスに携わる機会も多くありましたが、音楽業界に真正面から挑戦するのはWMJが初めてです。音楽が好きだったことももちろんありますが、エンターテインメントは生きていくためには必ずしも必須なものでないけれど、人の心を動かし、人生を豊かにする、とても人間らしい価値を持ったやりがいのある分野だと感じてきました。
加えて、WMJには、新たに就任した岡田社長のもと、音楽業界が長年培ってきた良い文化や慣習を大切にしながらも、新しい時代により大きな成長をするために、勇気を持って変革にも挑戦していこうという機運が感じられました。私自身も、採用、労務、人事制度、報酬制度など、これまで培ってきた経験を全方位で生かし、外資・内資、そして様々な業界で得たベストプラクティスを取り入れながら、組織づくりに貢献したいと考え、入社を決めました。
実際に入社されてから、外から見ていた音楽業界と入社後に感じたWMJの現状にギャップはありましたか。
山本入社して印象的だったのは、音楽制作の最前線では、長年一緒に仕事をしてきたチームの間に、言葉にしなくても通じ合えるような強い信頼関係が築かれていたことです。これは音楽業界ならではの魅力であり、クリエイティブな現場を支えてきた大きな強みだと感じました。
一方で、社員の世代やバックグラウンドが多様化し、組織も変化していく中では、期待やフィードバックをこれまで以上に言語化し、透明性を高めてお互いの考えを丁寧に伝え合うコミュニケーションがより重要になってきています。
だからこそ人事としては、現場ごとの育成スタイルを尊重しながらも、マネジメントの考え方や双方向のコミュニケーションの土台となる全社共通の仕組みを整え、誰もが成長を実感しやすい環境をつくることが重要だと考えています。それが、入社して感じた最も大きな発見であり、人事として貢献できる余地でもあると感じました。
具体的には、どのような仕組みから着手されたのでしょうか。評価制度の透明化についてもお聞かせください。
山本一番シンプルに心がけたのは、評価や目標に関する透明性を高めることです。マネージャーには単なる「評価者」ではなく、部下の育成やモチベーション向上にしっかりと責任を持てる、本当の意味での「マネージャー」になっていただくことでした。
以前は、個別の評価結果は伝えられていても、その判断プロセスが十分に可視化されているとは言えませんでした。そこで、評価基準や目標をよりオープンにし、「会社業績」「チーム業績」「個人業績」がどのように評価や報酬につながるのかを、マネージャーが論理的に説明できる仕組みにしました。これにより、マネージャーには評価を説明する責任が生まれ、社員も「なぜこの評価になったのか」を具体的に質問し、対話できるようになります。評価を「伝える」だけではなく、「対話する」ものへと変えていくことが社員の成長、そして組織の成長に繋がる重要な要素だと考えています。
エンターテインメント業界は定量化しにくい定性的な部分も多いと思います。その点、評価はどのように工夫されているのでしょうか。
山本エンターテインメントの仕事は、数字だけでは測れない価値が多くあります。だからこそ、私たちは数字だけでも、人の感覚だけでも評価しない「ハイブリッドな評価」を大切にしています。WMJでは、会社の売上や利益といった業績に応じて自動的に個人のインセンティブの額が決まるような仕組みにはしていません。各部門での売上や利益率、事業戦略との整合性や各部門の役割なども踏まえて、経営陣とファイナンス、人事で各部門毎の賞与原資を決定します。その上で、個々の社員への配分については、日々の仕事を最も近くで見ているマネージャーの裁量を尊重しています。
もちろん、結果を出すことは大前提ですし、成果に対して責任を持つことはどの部門にも求められます。一方で、エンターテインメント、とりわけ音楽業界では、市場環境やトレンドなど、社員個人ではコントロールできない要因も少なくありません。また、大きな成果につながるまでに、数年単位で準備や挑戦を積み重ねることも珍しくありません。そうした環境も踏まえながら、社員が不公平感を抱かないよう、会社としてバランスを取りながら運用しています。最終的には、人が人を評価する以上、制度だけですべてを解決することはできません。だからこそ、評価の背景や期待を丁寧に伝え、納得感のある対話につなげることを何より大切にしています。
そうした透明性の高い評価を行うためには、日々のコミュニケーションがより重要になりますね。
山本はい。評価だけではなく、それぞれのキャリア構築について納得感を持ってもらうためには、年に1回の評価面談だけでは十分ではありません。だからこそ、日頃から継続的に対話を重ねることが何より重要だと考えています。そのため、1 on 1ミーティングを実施することを、全マネージャーの年間を通した職責として定めました。1 on 1を実施することそのものが目的ではなく、マネージャーが部下と責任あるコミュニケーションを継続的に行うことを当たり前の習慣にすることが目的です。今では日常のマネジメントの一部として、継続的な対話を行う文化が定着しつつあります。
また、改善が必要な点も、年に一度の評価の場で突然伝えるのではなく、継続的な対話の中でタイムリーにフィードバックし、一緒に方向性を確認しながら成長を支援できるようになりました。そうした対話を重ねる中で、中長期的にキャリアの可能性を広げる選択肢についても前向きに検討できるようになり、適材適所の実現にもつながっていると感じています。
フルフレックスを取り入れ、部署間コラボレーションをプラス評価として査定する理由
働き方や雇用形態についても、大きな変革があったと伺っています。特にコアタイムのないフルフレックス制度の導入には、どのような狙いがあったのでしょうか。
山本音楽業界はライブやレコーディング、アーティストやビジネスパートナーとの打ち合わせなど、業務の性質上、一般的な定時勤務にはなじみにくい面があります。その特性を踏まえつつ、フルフレックス制度を導入した最大の狙いは、社員を一人のプロフェッショナルとして信頼し、自ら時間をマネジメントできる環境を整えることでした。
社員には、働く時間だけでなく、家族との時間や自己研鑽、趣味などライフの時間も含めて自らマネジメントしてほしいと考えています。そうした一人ひとりに合った働き方を実現できてこそ、中長期的に納得感のあるキャリアを築いているという個々の実感につながるのだと私は考えています。また、現在では、チャットやWeb会議などコミュニケーションの手段も大きく変化しています。私たちが重視しているのは、働く時間ではなく、プロフェッショナルとして成果に責任を持つことです。そのため、時間の使い方は社員一人ひとりに委ねています。
この考え方は職種を問わず全社共通です。現場で働く社員だけでなく、バックオフィスで働くコーポレート部門も含め、全社員が自律的に働ける環境づくりを進めています。
制度の導入にあたって、現場からの反発や壁などはなかったのでしょうか。
山本制度と合わせてガイドラインを明文化したことで、「何が認められていて、何が認められていないのか」が整理されたという声が多くありました。一方で、法令遵守やガバナンスの観点をより明確にしたことで、「これまでのやり方で業務を成り立たせることが難しい」といった声があったことも事実です。
むしろ、そうした声こそが組織課題を教えてくれました。「なぜ特定の人に業務が集中しているのか」「なぜその働き方でなければ成り立たないのか」といったチャレンジが可視化され、人員配置の見直しや業務の棚卸し、不要な業務の廃止など、働き方そのものを見直す前向きな議論につながりました。制度は社員を縛るためのものではなく、組織の課題を可視化し、改善につなげるためのものだと考えています。
そうした柔軟な働き方の推進には、若くしてトップに立つ岡田社長の存在も大きいのでしょうか。
山本非常に大きいです。岡田社長とは「社員一人ひとりが納得感を持ってWMJでキャリアを実現することが、個々の成果を最大化し、それが会社の持続的な成長につながる」という考え方を共有しています。音楽業界を熟知している一方で、従来の慣習にとらわれず、社員一人ひとりがライフとキャリアの双方を充実させられる環境づくりを大切にしています。
私たちは「音楽業界だからこういう働き方が当たり前」という固定観念によって、ポテンシャルのある人材が挑戦をためらったり、本来の力を十分に発揮できなかったりすることは避けたいと考えています。そのため、一人ひとりが自分らしいキャリアを築きながら成長できる環境をつくるという考え方を、社長自らが全社に向けて発信し、トップと人事が同じ方向を向いて取り組めていることは、組織として大きな力になっていると感じています。
雇用形態の多様性についても、正社員だけでなく様々な働き方を取り入れているそうですね。
山本私がWMJに入社する前は、無期雇用化を進める流れがありました。もちろん無期雇用として働くことには大きな価値があります。一方で、私たちは「正社員であること」自体を目的にはしないという考え方で、社長とも議論を重ねてきました。
音楽業界は、複数のレーベルやレコード会社と関わりながら、長年築いてきたネットワークや専門性を活かして活躍している方が数多くいらっしゃいます。そうした方々に一律で正社員という働き方を求めることが、必ずしも本人にとっても会社にとっても最適とは限りません。そのため、業務委託や派遣契約、アルバイトなど、一人ひとりの事情や求めるキャリア形成に応じた柔軟な選択肢を提供できる環境を整えています。
私は、一人ひとりが「この働き方が今の自分のキャリアに合っている」と納得して働けることが、最も高いパフォーマンスにつながると考えています。そのため、WMJでは雇用形態にかかわらず、それぞれが専門性をはっきしながら、同じチームの一員として働く文化を大切にしています。
評価制度の中で「部門間のコラボレーション」を目標に組み込んでいるというお話も興味深いです。
山本はい、今年の目標設定(OKR)では、売上や利益などの数値目標だけではなく、部門をまたいだ協業によって全社にどのような貢献をできたかという「コラボレーション目標」を全員に設定してもらっています。
部門や個々のジョブディスクリプションごとに仕事を区切り「ここから先は自分の仕事ではありません」と徹底してしまうと、組織がサイロ化してしまい、会社全体として大きな成果は生まれません。一方で、他部署と協力して新しい価値や仕組みを生み出し、「ありがとう」と言われる経験は、個人の成果のみを追い求めるだけでは得られない、日々の仕事への納得感やエンゲージメントにつながると考えています。そうした行動を会社として評価することで、部署を越えて相談したり、一緒に企画を考えたりするために、必要があれば自然とオフィスに集まり、対面でコミュニケーションを取る。そんな「出社すること」ではなく、「コラボレーションが生まれること」を大切にする文化を重視しています。
「入社後に『気づけば英語で仕事ができる』ということも十分あり得る」
ダイバーシティの推進や、グローバルとの連携についても教えてください。
山本WMJの特徴は、ダイバーシティに関するいくつかの基準を数値目標として追いかけるというよりも、事業に必要な人材を採用した結果として、自然と多様な組織になっていることです。小さいお子さんを育てながら活躍している社員も、育児に主体的に関わるために育休を取得する社員も、ごく自然な日常の風景です。外国籍の社員も多く、オフィスでは英語や韓国語が日常的に飛び交うなど、多様なバックグラウンドを持つメンバーが協働しています。
もう一つの特徴は、グローバルとの距離が非常に近いことです。日本市場だけでなく、海外拠点のメンバーとも日常的に議論を重ね、「グローバルとのシナジーをどう最大化するか」という視点で仕事を進めています。
異なる経験や価値観を持つ人が協働することで、新しいアイデアやイノベーションが生まれ、それがWMJの成長につながる。その環境が自然に根付いていることが、この会社の大きな強みだと感じています。
そうした環境では、やはり高い英語スキルが求められるのでしょうか。
山本社長の岡田も「日本のアーティストを世界に輩出するナンバーワンの会社にしたい」と常に発信しており、英語力はグローバルで活躍する上で大きな強みになります。
最近の社員を見ていると、必ずしも英語が得意ではなくても、翻訳ツールやAIを活用しながら、グローバルのメンバーと難易度の高いやり取りを堂々とこなしています。今や、英語力だけで可能性が決まる時代ではありません。「自分が実現したいことのために必要だから学ぶ」という情熱があれば、ツールを活用しながらいくらでもバリアを乗り越えられる環境があります。
会社としても、もちろん、入社後に英語学習を支援する福利厚生を用意しており、多くの社員が自発的に活用しています。最も大切なのは「やらされる」のではなく、自分のキャリアに必要だと感じ、主体的に学ぶモチベーションを維持することです。WMJでのキャリアを通じて、気づけば英語で仕事ができるようになっている、ということも決して珍しくありません。
最後に、キャリア採用や若手人材に向けて、業界他社と比較したWMJならではの魅力をお聞かせください。
山本音楽業界は非常にクリエイティブでスピード感が求められる世界です。その中でWMJがもつ大きな強みは、組織がフラットで意思決定が速いことです。社長や決裁権限を持つエグゼクティブ層との距離も近く、文字どおりすぐ近くで仕事をしていますので、良いアイデアは直接相談して、スピーディーに実現に向けて動くことができます。自分の提案が形になり、アーティストやビジネスにインパクトを与えていく過程を間近で実感できる環境があります。
これからの時代、AIの活用によって定型的なオペレーション業務はますます効率化されていくでしょう。だからこそWMJでは、自ら考えて戦略を描き、専門性を持ちながら部門を越えて周囲を巻き込み、人とのリレーションで価値を生み出せる人材がますます重要になります。一人ひとりに大きな裁量が与えられ、仕事の成果がアーティストの成功や会社の成長に直結していることを実感しながら、自身も総合的に大きく成長できる環境だと思います。そして、ワークに果敢に挑戦することとライフを大切にすることを両立していただくために、制度や環境づくりにも力を入れています。
もちろん、業界経験は必須ではありません。私たちが何より大切にしているのは、音楽への情熱と「自分の経験やスキルをこの場所で活かしたい」という主体的な思いです。キャリア採用に加え、インターンシップからの社員登用も積極的に行っており、多様なバックグラウンドや新しい視点をもつ人材が活躍しています。
音楽は、人生を豊かにし、社会に感動を届ける力を持っています。その最前線で、自らのキャリアに主体的に向き合いながら、新しい価値を生み出していきたい、そんな挑戦に伴走するパートナーとして「WMJを選んでよかった」と感じていただける会社でありたいと考えています。新しい出会いを心より楽しみにしております。