GOSPELS OF JUDAS
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【GOSPELS OF JUDASオフィシャルインタビュー】 GOSPELS OF JUDAS、氷室京介から受け継いだ音楽への思い。最新作を紐解く。
2018.8.8
GOSPELS OF JUDAS(ゴスペルズ・オブ・ジュダ)が7月18日に1stアルバム『IF』をリリースした。GOSPELS OF JUDASとは、2012年に氷室京介と親交の深いクリエイターたちが集まり、完全アーティスト主導のもと自由な遊びから生まれた音楽を、デジタルツールを使ってリスナーに届けたいという思いから立ち上げた音楽の遊び場=Music Play Groundとして機能する『DiGiTRONiX(デジトロニクス)』から派生したプロジェクトのひとつだ。
http://www.himuro.com/digitronix/
本作『IF』は、“もし宇宙的且つ非現実的な世界が存在したなら”というコンセプトが込められており、『DiGiTRONiX』で発表された楽曲を軸に、2012年以降『LAST GIGS』など氷室京介バンドのギタリストを担当したYT(Yukihide Takiyama)を中心としたコンセプチュアルな作品に仕上がっている。参加アーティストにはYT、氷室京介、TESSEY、Charlie Paxson、GODBROTHER、Jun Inoue、Gin等が名を連ねていることも氷室ファンには気になるポイントだろう。しかし、氷室京介名義のオリジナル作品ではみられない音楽的アプローチがなされていることに着目したい。
そこで、氷室京介のレコーディングやライブにギタリスト兼アレンジャーとして参加するなど幅広く活躍しているLA在住の日本人ギタリストYT、そして、プロジェクトの立役者でもあるJun InoueにGOSPELS OF JUDASについて話を聞いた。
●GOSPELS OF JUDASの結成。YTやJunの音楽的ルーツについて
――GOSPELS OF JUDASは、どんなイメージからはじまったんですか?
Jun:最初はYTとTESSEYさん(エンジニア)と氷室さんでスタートしたユニットでした。動き出すとなったところでYTから連絡をもらって。じゃあ共同プロデュースで、というところで音源作りがはじまりました。それが2012年ですね。
YT:氷室(京介)さんから「GOSPELS OF JUDASっていうユニットをやるから」って。もちろん「ぜひ!」という感じで。今回、それら作品がアルバムに融合したというか、ひとつにまとまりました。
――アルバム作品としてまとめて楽曲を聴いていると、コンセプチュアルNA世界観を感じました。それこそ、SF映画『ブレードランナー』のイメージが浮かんでくるというか。様々なバッググランドな物語を感じました。
Jun:そう言ってもらえると非常に嬉しいです。
YT:曲を書くとき、近未来的なイメージを思い浮かべていました。『ブレードランナー』的な世界観は好きで、影響は間違いなくあります。そんな話をJunとやりとりして。
――YTさん、SF的な世界観がお好きだったりするんですか?
YT:めちゃくちゃ好きですね。典型的ですけど『スター・ウォーズ』シリーズは大好きですし、『ブレードランナー』のリドリー・スコット監督はフェイバリットです。
Jun:アルバムにするにあたって、最初に話したよね。『ブレードランナー』の世界観って。歌詞のモチーフにもなっています。あと、インスト曲の雰囲気もね。シンセサイザーの感じとか。
――その辺、わかるとニヤッとしちゃいますよね。そもそも、YTさんと氷室さんの出会いを教えてもらえますか?
YT:それも実は、Junが氷室さんを紹介してくれたんです。
Jun:僕は19歳の時からYTを知っていて。バークリー音楽大学で一緒だったんですよ。
――そうなんですね。
Jun:僕はアメリカでバンドをやりたくて大学に行って。ギタリストいないかなって探していたら、日本人のすごいヤツがいて……っていう。
――びっくりですね。
Jun:はい(笑)。当時からこのギタープレイですから。「なんだこいつ」みたいな感じで。氷室さんとは、たまたま他の件で面識を持たせてもらうようになって。いつか紹介したいなってずっと思っていました。
――何年ぐらい?
YT:2009年頃ですね。
Jun:ロサンゼルスのレストランで。
――初氷室さんは、どんな印象でしたか?
YT:むっちゃ緊張したんですよ。半端なくオーラがある人っていうか。
――どんなことを話しをされました?
YT:「どんな音楽が好きなの?」とか「ラジオは聴くの?」とか。氷室さんってすごいラジオを聴く人なので。常に新しい音楽を探している方なんです。僕はあんまりラジオを聴いてなかったんで。そこで「ラジオ聴かないの? こっちにいて、ラジオ聴かないのもったいないよ」って言われて「わかりました聴きます!」って即答して。オルタナティブ・ロックがかかっている局を教えてもらったり。
――YTさんは、もともとはどんな音楽がお好きなんですか?
YT:子供のときはバイオリンを習ってました。途中からヴァン・ヘイレンをうちの兄貴から教えられて。ヴァン・ヘイレンの『5150』(1985年発売)のアルバムを聴いて。サミー・ヘイガー加入後の1枚目なんですけど、これはすごいってなってロックに移りました。だから、ロックのはじまりはヴァン・ヘイレンですね。
――根っからのギター少年ってことですね。そこからは?
YT:リフ物のロックが好きで。ちょっと遡ってレッド・ツェッペリンとか。ブルースも好きになって、スティーヴィ―・レイ・ヴォーンにハマって。そこからアルバート・キングとか、マディ・ウォーターズを聴くようになって。ブルース・ギタリストに興味が移っていきました。と、同時にテクニカルなイングウェイ(イングウェイ・マルムスティーン)とかも聴いていました。
――バークリー音楽大学に通われていたそうですが、学校へ行くきっかけは?
YT:日本でロックっぽいものをやっているところがなかったというか。とはいっても、バークリーではアレンジ&オーケストレーション科を専攻していました。
――将来的には、こういうことをやってみたいっていうイメージは当時からあったんですか?
YT:バンドをやりたかったですね。デカいとこでやりたい、みたいな。
――JunさんはYTさんのどんなところに惹かれたんですか?
Jun:ギターを持つと人が変わるところですね。そこがすごいな〜って。19歳の時に会って、彼はいつか日本だったら武道館や東京ドームでギターを弾く人だろうなって思いました。スケール感が大きいなって。
――Junさんは、どの辺の音楽がルーツなんですか?
Jun:僕はシンセサイザーが大好きで、小・中学校はずっとシンセサイザーを触ってました。そこから友達とBOØWYのカバーバンドをやったり。そしたら日本にバンドブームが来て。そこからハードなのにいって、ヴァン・ヘイレンやガンズ・アンド・ローゼスにいって。アメリカに行きたいっていう一心で渡米しました。
――海外だと、高い志で音楽活動されている方とお会いできるものですか?
Jun:そうですね。でも、当時はインターネットもなかったので、連絡に時間がかかったんですよ。人と会うにも手紙を送って、3週間待つみたいな世界(苦笑)。だから最初は、こんな遠くに日本人なんていないだろうなって思っていたぐらいで。でも、GOSPELS OF JUDASのライブでベース弾いてるGin Kitagawaとも海外で出会ったんです。
――今回、氷室さん周辺に集まったミュージシャンが一同に集まられているのが面白いと思います。ちなみに、氷室さんの歌唱曲はライブ活動中止前に録っていたんですか?
Jun:そうですね。
――レアな音源ということですね。アルバムとしてリリースに至ったきっかけは?
YT:今回、あらためてGOSPELS OF JUDASを進めるにあたって、氷室さんから「お前引きついでやってけ」って言われまして。
Jun:氷室さんのヴォーカル音源がまた凄いんです。それを聴くと背筋が伸びるっていうか。姿勢を示してもらったっていう感じです。
――アルバムには氷室バンドでおなじみのドラマー、Charlie Paxsonも参加?
YT:叩いてますね。ロスの地下のスタジオで録りました。
Jun:氷室さんのご自宅のスタジオです。使っていいよって言っていただいたので。
YT:機材やマイク、プリアンプとかいいもの揃えてあって、レコーディングできるようにセットアップされているんです。
――YTさんは、B’zのシングル「声明」の編曲を担当されていますよね。それもロスつながり?
YT:そうですね。ギターの松本孝弘さんを、氷室さんに紹介していただいたのがもとで。氷室さんとご飯食べる機会があったときに松本さんもいらっしゃって。「こいつ、ツアーでギター弾いたんだよ」と紹介していただいて。その後、何回か松本さんとは会って「アレンジや打ち込みとかできるの?」って聞かれて。「仕事でやってます」っていう。「じゃあ、今度頼もうかな」って、本当にオファーをいただいて。
――アメイジングな経験ですよね。
YT:そうですよね。
――そんな様々な経験を重ねてアルバム作品『IF』がリリースされるというわけですが、1曲ずつ制作秘話を伺わせてください。
●1曲目「Nexus 〜Overture〜」
――オープニングを飾る「Nexus 〜Overture〜」は、インストによるイントロダクションで。物語がはじまろうとしている映画的なこだわりを感じました。
YT:もとはもうちょっと長かったんですけど。でも、イントロだから短くしたのかな。
Jun:そうだね。ライブでは長くやると思うんですけど。幕開けの序曲。YTが映画音楽好きなので、オープニングは何か欲しいねって。
YT:盛り上がったとこできれちゃうけどね(笑)。でも、その次がもっと盛り上がるんで。
●2曲目「Mystic Beauty」
――「Mystic Beauty」はたたみかけるような展開で。こちら氷室さんがヴォーカル参加されていますね。
YT:けっこう初期段階で書いた曲なんですよ。ダイナミクスに勢いのある曲にしたかったっていう。勢いよくはじまって真ん中でドラマチックな展開にして。
Jun:歌詞が氷室さんの「ONE LIFE」を書いたGinなんです。
――Ginさんは、どんな方なんですか?
Jun:生まれながらのミュージックマンですね。すべてが音楽中心で回っている。ベーシストなんですけどギターもすごい上手ですし、ドラムも叩けますし、歌も歌います。
YT:「Mystic Beauty」は、氷室さんのヴォーカルがすごいの一言です。データを送っていただ時に「やっぱりかっこいいわ」って。全然イメージの先を越してきますよね。
Jun:細かいところなんですけど、聴いてるとミリセック単位のタイミングにこだわられていて、リバーブの重なり具合とか立体的だし。完成度がとにかく高いんですよ。
●3曲目「Area 51」
――「Area 51」は、YTさんらしさが詰め込まれた曲なんじゃないですか?
YT:そうですね。でも、もとの曲の形は全然違ったんですよ。もっとラフなオルタナティヴ・ロックっぽい感じのアレンジで。そこを、イメージを変えたい思いがあってTESSEYさんにお願いして、こういう感じに仕上がりました。
Jun:最初に「Area 51」っていうタイトルがあって。歌詞は、SF的なイメージから膨らましていきました。それこそ、アメリカの起業家イーロン・マスクが火星移住を語るなど、現実味を帯びてきて。そこに『機動戦士ガンダム』のアムロが住んでいたスペースコロニーが妙に自分の中でシンクロして。地球に住めなくなった人たちが住んでる場所のイメージ。そこの名前がArea 51で、でももうそこには住めなくなって脱出しなくちゃいけないというお話。それと自分たちの日常を重ねた歌詞にしました。
YT:そういうSF的な設定とか物語が大好きなんですよ。
Jun:偶然なんですけど『ブレードランナー』の世界観と重なっていて。あと制作時に、ミケランジェロの話をしたんです。そしたら偶然、ミュージックビデオやジャケット・アートワークがミケランジェロのモチーフで、システィーナ礼拝堂の中心にあるシーンを使っていて。それはびっくりしましたよね。そこが繋がるんだ!って。
●4曲目「Interlude 1」
――インストが差し込まれてきました。
YT:曲と曲を繋いでいきます。
Jun:僕がYTにプレゼンして、インストを入れたいんだけどっていう。アルバム全体をプロデュースするにあたって、氷室さんとYTのヴォーカル曲があった後に1回物語を仕切り直したいなって。
●5曲目「Pris' Dream」
――「Pris' Dream」は泣きのロック感がありますよね。ブルージーな感じも。
YT:アイディアはけっこう前からあって。レコーディングにあたって、詰めていく段階でまとめていきました。
Jun:曲をもらってラブソングにしたいなって思ったんです。主人公の彼女の名前を考えてほしいってYTにオファーして、そこで“Pris”って名前が返ってきまして。何人かわからない“Pris”っていう女性なんですけど、Area 51から逃げてくるときに離れ離れになっちゃう2人なんです。
――ここは、なんとなく日本詞でいこうっていうイメージがあって?
YT:いや、俺は別になかったんだよね。あったっけ?
Jun:日本語も英語もそんな話はしなかったね。
YT:でも、日本語にしてよかったと思うんです。俺が歌う曲に関しては、英語にしちゃうと違う感じになりそうというか。日本語の方がしっくりくるんですよね。
●6曲目「LIAR ~世界中の哀しみ集めて~」
――「LIAR ~世界中の哀しみ集めて~」は、Junさん参加ユニットGOD_BROTHER名義によるクレジットですね。ヴォーカルはGinさん。この曲は『DiGiTRONiX』で、すでに発表してた作品ですよね。どんな経緯でのリリースなんですか?
Jun:『DiGiTRONiX』という実験の場があって作った作品ですね。氷室さんに声をかけていただいて「じゃあ、メンバー集めて作ります!」といった感じで。聴いていただいて「いいね、これでやってみようか」って言ってもらった曲です。
YT:2012年の曲ですね。いろいろ世の中も動きはじめて。
――タイトルにもあらわれていますね。
JUN:そうですね。日本で2011年3月11日のあとですから。
――そういう時代にアーティスト自身が自由な発表の場を持つという発想は新しいと思いました。
YT:氷室さんみたいな方が「音楽に立ち返ろうよ」って言ってくれたことに影響を強く受けていますね。
●7曲目「Bloody moon」
――次が「Bloody moon」。ゲーム『龍が如く5 夢、叶えし者』の主題歌にもなった曲ですね。
YT:氷室さんとGOSPELS OF JUDASとして一緒に作業した最初の曲で、俺にとってとても思い入れの強い曲です。もう本当に感動しかなかったです。最初はサビがもっとマニアックだったんですけど、氷室さんにプレゼンして「どうですか?」って聞いたら「全体的にいろんなのがゴシャッてなってるからサビをシンプルにしようよ」って話になって。結果、やっぱりいい曲になりましたよね。
Jun:ライブでやると凄さがまた違って感じましたね。聴いてるのとやるのとではこんなに違うんだと。
YT:ファルセットすごいですよね。歌詞もすごい艶めかしいので。
●8曲目「Artificial Selection」
――8曲目が「Artificial Selection」。爆裂感が爽快な、YTらしさが炸裂するギターソロ。
YT:僕は実のところあんまりギターのインストものをやろうっていう感覚は持ってないんですよ。どちらかというと、バンドでヴォーカリストがいてっていうスタイルで。今だと自分で歌ってたりもしますけど、そっちのほうがしっくりくるんですよね。
Jun:だからこそ「絶対にギターソロ入れたい」ってYTに言って。
YT:正直、今回この曲をやって「ギターソロ作品もいいかも」って思ったんですよね。
●9曲目「Star Fire」
——9曲目が「Star Fire」。
YT:すごい好きな曲で。けっこう初期段階にできた曲なんですけど、最初はギターが入ってなくて。もともとTESSEYさんがシンセで全部打ち込みで作った曲を、氷室さんが「聴いてみて、どう思うか言って」って。「ギターとかパーツを思い浮かぶようだったらアレンジしてみて」って感じだったんです。「ギターが入ったほうが膨らむんじゃないですかね」って話をして。そうしたら氷室さんも「俺もそう思うんだよね」みたいな感じで。
――そんなやりとりがあったんですね。
Jun:TESSEYさんのループがすごいかっこいいんですよ。5個6個のレイヤーが重なって、ひとつのグルーヴを生み出していて。緻密なんですけど、ぶっとい音でさすがだなと。
●10曲目「Interlude 2」
――「Interlude 2」は、まさに『ブレードランナー』風の世界観を音像であらわした感じで。
Jun:『ブレードランナー』のサントラのイメージに近いですよね。
●11曲目「White Moon」
11曲目が「White Moon」。ロックンロールなナンバーですね。
YT:単純に、かっこいいと思います。この曲は1番最初にギターのリフができたんですよ。GOSPELS OF JUDAS用に曲を作ろうと思って、リフを考えていたんです。あと、コーラスのコード進行のこだわりですね。ジャズじゃないけど、ロックじゃないコード進行なんです。そういう気づかれないようなところのこだわりが気にいってますね。
Jun:歌詞は、回想シーンというか時間軸を少し巻き戻して、Prisとの別れが来る前の話なんです。ハイウェイを描いているんですけど、BOØWYの「ハイウェイに乗る前に」のアンサーソングのつもりで書いたんです。個人的には、そんなトリックを意識しながら。
●12曲目「Silent Train」
――12曲目が「Silent Train」。歌詞はJunさん、ヴォーカルはYTさんですね。
YT:モチーフは『銀河鉄道999』だよね。
Jun:そう『銀河鉄道999』だね。それに宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』も掛け合わせたイメージ。Area 51が破滅してしまって、その前に飛び立っていた電車(宇宙船)は旅をしているっていうのを、関係のない世界から見上げてるイメージですね。その電車には切符がなくて乗れないんですけどね。
――曲から派生した様々なイメージが、すごい具体的に膨らんでいるのですね。
Jun:YTといろいろ話しながら書きました。
●13曲目「Tears in Rain」
――13曲目が「Tears in Rain」。切なさを持つミドルなロックチューンは、アルバムのなかでは異色なテイストですね。
Jun:YTのギターリフによって、救世主のモーゼじゃないですけど道がガッて開いていくイメージがあったんです。ギターから歌詞のイメージが広がっていきました。
YT:この曲の歌詞をもらったときには“先に道はない 後ろについていく”とか。歌詞の内容がしっくりときたんで好きだったんですよ。歌詞は後付けなのですが、“前に進んでいく”っていう意識は曲作りの段階から持っていました。
――タイトルは決まってたんですか?
YT:タイトルは最初に決めてました。「Tears in Rain」って、もろ『ブレードランナー』のイメージですね。もともと、「Tears in Rain」っていうフレーズ自体がすごい好きなんですよ。そのイメージをうまく歌詞に活かしてもらいました。
●14曲目「RAIN」
――「RAIN」は、GOD_BROTHER名義ですね。
Jun:その曲もGOD_BROTHERでDiGiTRONiXの時に作っていて、氷室さんに「いいじゃん!」って言っていただいた曲ですね。Charlie(Paxson)のドラムがかっこいいです。
YT:このテンポでそれをやるかっていう。
Jun:Charlie(Paxson)のドラム、ああ見えて緻密なんですよ。ゴーストノートの使い方がすごいんです。
●15曲目「Play within a play」
――「Play Within A Play」は氷室さんヴォーカルで、作詞は森雪之丞さんというスペシャルな組み合わせで。
YT:「Bloody Moon」のときと同じように、漠然と近未来のイメージがあって。ちょっと未来のバーというか。ファンキーにしたかったんだよね。
Jun:病みつきになるテンポ感とグルーヴですね。
YT:真ん中のソロの前のところで壊れるっていうのをやりたかったんです。
Jun:歌詞は合わせ鏡みたいなイメージ。裏の裏は表じゃないというすごいトリッキーな仕掛けがあるんですよ。
――職人技がいっぱい詰め込まれているナンバーですね。
YT:そう。深いんですよ。
●16曲目「Cryin' with my guitar」
――16曲目の「Cryin' with my guitar」が好きで。YTさんの素があらわれたナンバーですよね。
YT:アルバムのなかで唯一はじまりからでき上がるのに2時間くらいしかかからなかったんですよ。イントロから終わりまで、自分で部屋で夜中にぼ〜っとアコギを弾いてたら一気に全部できちゃって。言われてみれば、素の自分がでてるかもしれませんね。
Jun:ギターソロがすごい印象に残って。まさにYTらしさがあらわれた曲ですね。そこから逆算して歌詞を書こうと思いました。何をそれまでに歌ったらギターソロへと1番よく繋がるのかというストーリーテリングを優先して。でも、色々言っても言葉じゃないよねってところでギターソロにいくんです。YTのギター讃歌ですね。彼はギターで世界を切り開いてきた人なので、僕らにこれからもどんな世界を見せてくれるのかなって。そんな希望と期待をこめて。
――盛りだくさんの全16曲となりました。音楽が細分化し、シーンが乱立する時代、GOSPELS OF JUDASがアルバム作品をリリースすることに関して、どのような思いがありますか?
Jun:僕らが氷室さんからもらったメッセージは“音楽にだけ向き合って作れ”なんです。音が呼んだもの、メロディーが呼んだ歌詞を表現してきましたね。シーン云々とは真逆な考え方かもしれません。
YT:よいと思うものだけを作る。自分で作っていてあれですけど、歌詞もいいですし。氷室さんがヴォーカリストとして参加してくださったことでよりプロジェクトとして引き締まったと思うんです。多くのリスナーにアルバムを聴いてもらいたいですね。
Jun:映画や小説などいろいろな表現がありますけど。“音楽で物語をつくる”。そこはYTと一緒にこだわったポイントです。音楽好きな方に是非聴いてもらいたいですね。
テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
http://www.himuro.com/digitronix/
本作『IF』は、“もし宇宙的且つ非現実的な世界が存在したなら”というコンセプトが込められており、『DiGiTRONiX』で発表された楽曲を軸に、2012年以降『LAST GIGS』など氷室京介バンドのギタリストを担当したYT(Yukihide Takiyama)を中心としたコンセプチュアルな作品に仕上がっている。参加アーティストにはYT、氷室京介、TESSEY、Charlie Paxson、GODBROTHER、Jun Inoue、Gin等が名を連ねていることも氷室ファンには気になるポイントだろう。しかし、氷室京介名義のオリジナル作品ではみられない音楽的アプローチがなされていることに着目したい。
そこで、氷室京介のレコーディングやライブにギタリスト兼アレンジャーとして参加するなど幅広く活躍しているLA在住の日本人ギタリストYT、そして、プロジェクトの立役者でもあるJun InoueにGOSPELS OF JUDASについて話を聞いた。
●GOSPELS OF JUDASの結成。YTやJunの音楽的ルーツについて
――GOSPELS OF JUDASは、どんなイメージからはじまったんですか?
Jun:最初はYTとTESSEYさん(エンジニア)と氷室さんでスタートしたユニットでした。動き出すとなったところでYTから連絡をもらって。じゃあ共同プロデュースで、というところで音源作りがはじまりました。それが2012年ですね。
YT:氷室(京介)さんから「GOSPELS OF JUDASっていうユニットをやるから」って。もちろん「ぜひ!」という感じで。今回、それら作品がアルバムに融合したというか、ひとつにまとまりました。
――アルバム作品としてまとめて楽曲を聴いていると、コンセプチュアルNA世界観を感じました。それこそ、SF映画『ブレードランナー』のイメージが浮かんでくるというか。様々なバッググランドな物語を感じました。
Jun:そう言ってもらえると非常に嬉しいです。
YT:曲を書くとき、近未来的なイメージを思い浮かべていました。『ブレードランナー』的な世界観は好きで、影響は間違いなくあります。そんな話をJunとやりとりして。
――YTさん、SF的な世界観がお好きだったりするんですか?
YT:めちゃくちゃ好きですね。典型的ですけど『スター・ウォーズ』シリーズは大好きですし、『ブレードランナー』のリドリー・スコット監督はフェイバリットです。
Jun:アルバムにするにあたって、最初に話したよね。『ブレードランナー』の世界観って。歌詞のモチーフにもなっています。あと、インスト曲の雰囲気もね。シンセサイザーの感じとか。
――その辺、わかるとニヤッとしちゃいますよね。そもそも、YTさんと氷室さんの出会いを教えてもらえますか?
YT:それも実は、Junが氷室さんを紹介してくれたんです。
Jun:僕は19歳の時からYTを知っていて。バークリー音楽大学で一緒だったんですよ。
――そうなんですね。
Jun:僕はアメリカでバンドをやりたくて大学に行って。ギタリストいないかなって探していたら、日本人のすごいヤツがいて……っていう。
――びっくりですね。
Jun:はい(笑)。当時からこのギタープレイですから。「なんだこいつ」みたいな感じで。氷室さんとは、たまたま他の件で面識を持たせてもらうようになって。いつか紹介したいなってずっと思っていました。
――何年ぐらい?
YT:2009年頃ですね。
Jun:ロサンゼルスのレストランで。
――初氷室さんは、どんな印象でしたか?
YT:むっちゃ緊張したんですよ。半端なくオーラがある人っていうか。
――どんなことを話しをされました?
YT:「どんな音楽が好きなの?」とか「ラジオは聴くの?」とか。氷室さんってすごいラジオを聴く人なので。常に新しい音楽を探している方なんです。僕はあんまりラジオを聴いてなかったんで。そこで「ラジオ聴かないの? こっちにいて、ラジオ聴かないのもったいないよ」って言われて「わかりました聴きます!」って即答して。オルタナティブ・ロックがかかっている局を教えてもらったり。
――YTさんは、もともとはどんな音楽がお好きなんですか?
YT:子供のときはバイオリンを習ってました。途中からヴァン・ヘイレンをうちの兄貴から教えられて。ヴァン・ヘイレンの『5150』(1985年発売)のアルバムを聴いて。サミー・ヘイガー加入後の1枚目なんですけど、これはすごいってなってロックに移りました。だから、ロックのはじまりはヴァン・ヘイレンですね。
――根っからのギター少年ってことですね。そこからは?
YT:リフ物のロックが好きで。ちょっと遡ってレッド・ツェッペリンとか。ブルースも好きになって、スティーヴィ―・レイ・ヴォーンにハマって。そこからアルバート・キングとか、マディ・ウォーターズを聴くようになって。ブルース・ギタリストに興味が移っていきました。と、同時にテクニカルなイングウェイ(イングウェイ・マルムスティーン)とかも聴いていました。
――バークリー音楽大学に通われていたそうですが、学校へ行くきっかけは?
YT:日本でロックっぽいものをやっているところがなかったというか。とはいっても、バークリーではアレンジ&オーケストレーション科を専攻していました。
――将来的には、こういうことをやってみたいっていうイメージは当時からあったんですか?
YT:バンドをやりたかったですね。デカいとこでやりたい、みたいな。
――JunさんはYTさんのどんなところに惹かれたんですか?
Jun:ギターを持つと人が変わるところですね。そこがすごいな〜って。19歳の時に会って、彼はいつか日本だったら武道館や東京ドームでギターを弾く人だろうなって思いました。スケール感が大きいなって。
――Junさんは、どの辺の音楽がルーツなんですか?
Jun:僕はシンセサイザーが大好きで、小・中学校はずっとシンセサイザーを触ってました。そこから友達とBOØWYのカバーバンドをやったり。そしたら日本にバンドブームが来て。そこからハードなのにいって、ヴァン・ヘイレンやガンズ・アンド・ローゼスにいって。アメリカに行きたいっていう一心で渡米しました。
――海外だと、高い志で音楽活動されている方とお会いできるものですか?
Jun:そうですね。でも、当時はインターネットもなかったので、連絡に時間がかかったんですよ。人と会うにも手紙を送って、3週間待つみたいな世界(苦笑)。だから最初は、こんな遠くに日本人なんていないだろうなって思っていたぐらいで。でも、GOSPELS OF JUDASのライブでベース弾いてるGin Kitagawaとも海外で出会ったんです。
――今回、氷室さん周辺に集まったミュージシャンが一同に集まられているのが面白いと思います。ちなみに、氷室さんの歌唱曲はライブ活動中止前に録っていたんですか?
Jun:そうですね。
――レアな音源ということですね。アルバムとしてリリースに至ったきっかけは?
YT:今回、あらためてGOSPELS OF JUDASを進めるにあたって、氷室さんから「お前引きついでやってけ」って言われまして。
Jun:氷室さんのヴォーカル音源がまた凄いんです。それを聴くと背筋が伸びるっていうか。姿勢を示してもらったっていう感じです。
――アルバムには氷室バンドでおなじみのドラマー、Charlie Paxsonも参加?
YT:叩いてますね。ロスの地下のスタジオで録りました。
Jun:氷室さんのご自宅のスタジオです。使っていいよって言っていただいたので。
YT:機材やマイク、プリアンプとかいいもの揃えてあって、レコーディングできるようにセットアップされているんです。
――YTさんは、B’zのシングル「声明」の編曲を担当されていますよね。それもロスつながり?
YT:そうですね。ギターの松本孝弘さんを、氷室さんに紹介していただいたのがもとで。氷室さんとご飯食べる機会があったときに松本さんもいらっしゃって。「こいつ、ツアーでギター弾いたんだよ」と紹介していただいて。その後、何回か松本さんとは会って「アレンジや打ち込みとかできるの?」って聞かれて。「仕事でやってます」っていう。「じゃあ、今度頼もうかな」って、本当にオファーをいただいて。
――アメイジングな経験ですよね。
YT:そうですよね。
――そんな様々な経験を重ねてアルバム作品『IF』がリリースされるというわけですが、1曲ずつ制作秘話を伺わせてください。
●1曲目「Nexus 〜Overture〜」
――オープニングを飾る「Nexus 〜Overture〜」は、インストによるイントロダクションで。物語がはじまろうとしている映画的なこだわりを感じました。
YT:もとはもうちょっと長かったんですけど。でも、イントロだから短くしたのかな。
Jun:そうだね。ライブでは長くやると思うんですけど。幕開けの序曲。YTが映画音楽好きなので、オープニングは何か欲しいねって。
YT:盛り上がったとこできれちゃうけどね(笑)。でも、その次がもっと盛り上がるんで。
●2曲目「Mystic Beauty」
――「Mystic Beauty」はたたみかけるような展開で。こちら氷室さんがヴォーカル参加されていますね。
YT:けっこう初期段階で書いた曲なんですよ。ダイナミクスに勢いのある曲にしたかったっていう。勢いよくはじまって真ん中でドラマチックな展開にして。
Jun:歌詞が氷室さんの「ONE LIFE」を書いたGinなんです。
――Ginさんは、どんな方なんですか?
Jun:生まれながらのミュージックマンですね。すべてが音楽中心で回っている。ベーシストなんですけどギターもすごい上手ですし、ドラムも叩けますし、歌も歌います。
YT:「Mystic Beauty」は、氷室さんのヴォーカルがすごいの一言です。データを送っていただ時に「やっぱりかっこいいわ」って。全然イメージの先を越してきますよね。
Jun:細かいところなんですけど、聴いてるとミリセック単位のタイミングにこだわられていて、リバーブの重なり具合とか立体的だし。完成度がとにかく高いんですよ。
●3曲目「Area 51」
――「Area 51」は、YTさんらしさが詰め込まれた曲なんじゃないですか?
YT:そうですね。でも、もとの曲の形は全然違ったんですよ。もっとラフなオルタナティヴ・ロックっぽい感じのアレンジで。そこを、イメージを変えたい思いがあってTESSEYさんにお願いして、こういう感じに仕上がりました。
Jun:最初に「Area 51」っていうタイトルがあって。歌詞は、SF的なイメージから膨らましていきました。それこそ、アメリカの起業家イーロン・マスクが火星移住を語るなど、現実味を帯びてきて。そこに『機動戦士ガンダム』のアムロが住んでいたスペースコロニーが妙に自分の中でシンクロして。地球に住めなくなった人たちが住んでる場所のイメージ。そこの名前がArea 51で、でももうそこには住めなくなって脱出しなくちゃいけないというお話。それと自分たちの日常を重ねた歌詞にしました。
YT:そういうSF的な設定とか物語が大好きなんですよ。
Jun:偶然なんですけど『ブレードランナー』の世界観と重なっていて。あと制作時に、ミケランジェロの話をしたんです。そしたら偶然、ミュージックビデオやジャケット・アートワークがミケランジェロのモチーフで、システィーナ礼拝堂の中心にあるシーンを使っていて。それはびっくりしましたよね。そこが繋がるんだ!って。
●4曲目「Interlude 1」
――インストが差し込まれてきました。
YT:曲と曲を繋いでいきます。
Jun:僕がYTにプレゼンして、インストを入れたいんだけどっていう。アルバム全体をプロデュースするにあたって、氷室さんとYTのヴォーカル曲があった後に1回物語を仕切り直したいなって。
●5曲目「Pris' Dream」
――「Pris' Dream」は泣きのロック感がありますよね。ブルージーな感じも。
YT:アイディアはけっこう前からあって。レコーディングにあたって、詰めていく段階でまとめていきました。
Jun:曲をもらってラブソングにしたいなって思ったんです。主人公の彼女の名前を考えてほしいってYTにオファーして、そこで“Pris”って名前が返ってきまして。何人かわからない“Pris”っていう女性なんですけど、Area 51から逃げてくるときに離れ離れになっちゃう2人なんです。
――ここは、なんとなく日本詞でいこうっていうイメージがあって?
YT:いや、俺は別になかったんだよね。あったっけ?
Jun:日本語も英語もそんな話はしなかったね。
YT:でも、日本語にしてよかったと思うんです。俺が歌う曲に関しては、英語にしちゃうと違う感じになりそうというか。日本語の方がしっくりくるんですよね。
●6曲目「LIAR ~世界中の哀しみ集めて~」
――「LIAR ~世界中の哀しみ集めて~」は、Junさん参加ユニットGOD_BROTHER名義によるクレジットですね。ヴォーカルはGinさん。この曲は『DiGiTRONiX』で、すでに発表してた作品ですよね。どんな経緯でのリリースなんですか?
Jun:『DiGiTRONiX』という実験の場があって作った作品ですね。氷室さんに声をかけていただいて「じゃあ、メンバー集めて作ります!」といった感じで。聴いていただいて「いいね、これでやってみようか」って言ってもらった曲です。
YT:2012年の曲ですね。いろいろ世の中も動きはじめて。
――タイトルにもあらわれていますね。
JUN:そうですね。日本で2011年3月11日のあとですから。
――そういう時代にアーティスト自身が自由な発表の場を持つという発想は新しいと思いました。
YT:氷室さんみたいな方が「音楽に立ち返ろうよ」って言ってくれたことに影響を強く受けていますね。
●7曲目「Bloody moon」
――次が「Bloody moon」。ゲーム『龍が如く5 夢、叶えし者』の主題歌にもなった曲ですね。
YT:氷室さんとGOSPELS OF JUDASとして一緒に作業した最初の曲で、俺にとってとても思い入れの強い曲です。もう本当に感動しかなかったです。最初はサビがもっとマニアックだったんですけど、氷室さんにプレゼンして「どうですか?」って聞いたら「全体的にいろんなのがゴシャッてなってるからサビをシンプルにしようよ」って話になって。結果、やっぱりいい曲になりましたよね。
Jun:ライブでやると凄さがまた違って感じましたね。聴いてるのとやるのとではこんなに違うんだと。
YT:ファルセットすごいですよね。歌詞もすごい艶めかしいので。
●8曲目「Artificial Selection」
――8曲目が「Artificial Selection」。爆裂感が爽快な、YTらしさが炸裂するギターソロ。
YT:僕は実のところあんまりギターのインストものをやろうっていう感覚は持ってないんですよ。どちらかというと、バンドでヴォーカリストがいてっていうスタイルで。今だと自分で歌ってたりもしますけど、そっちのほうがしっくりくるんですよね。
Jun:だからこそ「絶対にギターソロ入れたい」ってYTに言って。
YT:正直、今回この曲をやって「ギターソロ作品もいいかも」って思ったんですよね。
●9曲目「Star Fire」
——9曲目が「Star Fire」。
YT:すごい好きな曲で。けっこう初期段階にできた曲なんですけど、最初はギターが入ってなくて。もともとTESSEYさんがシンセで全部打ち込みで作った曲を、氷室さんが「聴いてみて、どう思うか言って」って。「ギターとかパーツを思い浮かぶようだったらアレンジしてみて」って感じだったんです。「ギターが入ったほうが膨らむんじゃないですかね」って話をして。そうしたら氷室さんも「俺もそう思うんだよね」みたいな感じで。
――そんなやりとりがあったんですね。
Jun:TESSEYさんのループがすごいかっこいいんですよ。5個6個のレイヤーが重なって、ひとつのグルーヴを生み出していて。緻密なんですけど、ぶっとい音でさすがだなと。
●10曲目「Interlude 2」
――「Interlude 2」は、まさに『ブレードランナー』風の世界観を音像であらわした感じで。
Jun:『ブレードランナー』のサントラのイメージに近いですよね。
●11曲目「White Moon」
11曲目が「White Moon」。ロックンロールなナンバーですね。
YT:単純に、かっこいいと思います。この曲は1番最初にギターのリフができたんですよ。GOSPELS OF JUDAS用に曲を作ろうと思って、リフを考えていたんです。あと、コーラスのコード進行のこだわりですね。ジャズじゃないけど、ロックじゃないコード進行なんです。そういう気づかれないようなところのこだわりが気にいってますね。
Jun:歌詞は、回想シーンというか時間軸を少し巻き戻して、Prisとの別れが来る前の話なんです。ハイウェイを描いているんですけど、BOØWYの「ハイウェイに乗る前に」のアンサーソングのつもりで書いたんです。個人的には、そんなトリックを意識しながら。
●12曲目「Silent Train」
――12曲目が「Silent Train」。歌詞はJunさん、ヴォーカルはYTさんですね。
YT:モチーフは『銀河鉄道999』だよね。
Jun:そう『銀河鉄道999』だね。それに宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』も掛け合わせたイメージ。Area 51が破滅してしまって、その前に飛び立っていた電車(宇宙船)は旅をしているっていうのを、関係のない世界から見上げてるイメージですね。その電車には切符がなくて乗れないんですけどね。
――曲から派生した様々なイメージが、すごい具体的に膨らんでいるのですね。
Jun:YTといろいろ話しながら書きました。
●13曲目「Tears in Rain」
――13曲目が「Tears in Rain」。切なさを持つミドルなロックチューンは、アルバムのなかでは異色なテイストですね。
Jun:YTのギターリフによって、救世主のモーゼじゃないですけど道がガッて開いていくイメージがあったんです。ギターから歌詞のイメージが広がっていきました。
YT:この曲の歌詞をもらったときには“先に道はない 後ろについていく”とか。歌詞の内容がしっくりときたんで好きだったんですよ。歌詞は後付けなのですが、“前に進んでいく”っていう意識は曲作りの段階から持っていました。
――タイトルは決まってたんですか?
YT:タイトルは最初に決めてました。「Tears in Rain」って、もろ『ブレードランナー』のイメージですね。もともと、「Tears in Rain」っていうフレーズ自体がすごい好きなんですよ。そのイメージをうまく歌詞に活かしてもらいました。
●14曲目「RAIN」
――「RAIN」は、GOD_BROTHER名義ですね。
Jun:その曲もGOD_BROTHERでDiGiTRONiXの時に作っていて、氷室さんに「いいじゃん!」って言っていただいた曲ですね。Charlie(Paxson)のドラムがかっこいいです。
YT:このテンポでそれをやるかっていう。
Jun:Charlie(Paxson)のドラム、ああ見えて緻密なんですよ。ゴーストノートの使い方がすごいんです。
●15曲目「Play within a play」
――「Play Within A Play」は氷室さんヴォーカルで、作詞は森雪之丞さんというスペシャルな組み合わせで。
YT:「Bloody Moon」のときと同じように、漠然と近未来のイメージがあって。ちょっと未来のバーというか。ファンキーにしたかったんだよね。
Jun:病みつきになるテンポ感とグルーヴですね。
YT:真ん中のソロの前のところで壊れるっていうのをやりたかったんです。
Jun:歌詞は合わせ鏡みたいなイメージ。裏の裏は表じゃないというすごいトリッキーな仕掛けがあるんですよ。
――職人技がいっぱい詰め込まれているナンバーですね。
YT:そう。深いんですよ。
●16曲目「Cryin' with my guitar」
――16曲目の「Cryin' with my guitar」が好きで。YTさんの素があらわれたナンバーですよね。
YT:アルバムのなかで唯一はじまりからでき上がるのに2時間くらいしかかからなかったんですよ。イントロから終わりまで、自分で部屋で夜中にぼ〜っとアコギを弾いてたら一気に全部できちゃって。言われてみれば、素の自分がでてるかもしれませんね。
Jun:ギターソロがすごい印象に残って。まさにYTらしさがあらわれた曲ですね。そこから逆算して歌詞を書こうと思いました。何をそれまでに歌ったらギターソロへと1番よく繋がるのかというストーリーテリングを優先して。でも、色々言っても言葉じゃないよねってところでギターソロにいくんです。YTのギター讃歌ですね。彼はギターで世界を切り開いてきた人なので、僕らにこれからもどんな世界を見せてくれるのかなって。そんな希望と期待をこめて。
――盛りだくさんの全16曲となりました。音楽が細分化し、シーンが乱立する時代、GOSPELS OF JUDASがアルバム作品をリリースすることに関して、どのような思いがありますか?
Jun:僕らが氷室さんからもらったメッセージは“音楽にだけ向き合って作れ”なんです。音が呼んだもの、メロディーが呼んだ歌詞を表現してきましたね。シーン云々とは真逆な考え方かもしれません。
YT:よいと思うものだけを作る。自分で作っていてあれですけど、歌詞もいいですし。氷室さんがヴォーカリストとして参加してくださったことでよりプロジェクトとして引き締まったと思うんです。多くのリスナーにアルバムを聴いてもらいたいですね。
Jun:映画や小説などいろいろな表現がありますけど。“音楽で物語をつくる”。そこはYTと一緒にこだわったポイントです。音楽好きな方に是非聴いてもらいたいですね。
テキスト:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)