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『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』本日リリース!西寺郷太(ノーナ・リーヴス)によるスペシャル・インタビュー公開!
2017.1.20
9部門にノミネートされ大きな話題を作ったビヨンセや、歌姫アデル。日本でもティーン層を中心に絶大な人気を誇るジャスティン・ビーバーや、今やロック・アーティストで確固たる地位を築いたトゥエンティ・ワン・パイロッツなど、全21曲入りのこのコンピレーション・アルバムには2016年を活躍したアーティストによる楽曲が余すことなく詰め込まれています!
また、この豪華ラインナップによる公式コンピレーション『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』の発売を記念して、グラミー賞に精通した西寺郷太(ノーナ・リーヴス)に大いに語っていただいたスペシャル・インタビューを公開!
── 第59回グラミー賞のノミネーションが発表になりましたが、このラインナップを見て、どのような感想をお持ちになりましたか?
西寺:まず最初のグラミー賞との出会い、きっかけから話していいですか?僕は子供の頃からマイケル・ジャクソンのファンでした。最初の印象としてはマイケルが84年の2月に『スリラー』でたくさんのグラミーを獲って、喜んでいる姿を見て、グラミーに夢中になったんです。それが洋楽の入り口で、80年代は夢中になって追いかけてましたね。自分がプロ(ミュージシャン)になってからは、海外のものを一リスナーだった頃のようには夢中になって聴くような暮らしをしていなかったのですが、2010年代になって、本を書いたり、80年代を中心とした音楽シーンを伝えるような仕事を受けることが多くなって。いろんなところでグラミーについても語ることが増えたので、この季節になると、聴かなかったような音楽も聴くチャンスという感じで楽しみにしています。とくに今年は、力があって人気も兼ね備えているアーティストもたくさん出ている。例えば、このCDの中では僕が一番好きな、新人賞にノミネートされたアンダーソン・パークも出てきたりとか。大物もいて、新人もいて、っていうバランスがいいな、と思っていますけどね。
── ここ4、5年はヒット性や大衆性を重んじるものがノミネートされている印象を受けるんですが。
西寺:そうかもしれないですね。80年代は、さっき84年にマイケルがたくさん獲ったと言ったんですけど、じつはトータルのキャリアで見ると彼はそれほど獲っていなくて、クインシー・ジョーンズとか、ポール・サイモンのほうが強かったんですね。大人に支持される音楽が強い。もう一人、僕の好きなプリンスもさほど獲っていないんですよ。今の世の中がプリンスに持っているレジェンドという印象と、彼が獲得したグラミーの個数が合っていない。そういうことも多々あるんですよね。ここ4、5年の傾向を考えると、今は音楽がほとんどスマホで聴かれている、という背景が(選考に)影響している気がします。だから、音質とか声のミックス、小さいスピーカーでも感動するための音数の少なさ、そしてビデオも含めた感動、そういうスマホに適したような曲がやっぱり増えていると思うし。ドレイクやアデルの曲を聴いていると、いい意味でもオーソドックスな歌謡的フィーリングというのがより強くなっているな、という気はしますね。
── 今年(2017年)の2月13日、朝9時(日本時間)からWOWOWで放送されるグラミー授賞式のおススメの楽しみ方がありましたら教えていただけますでしょうか。
西寺:ここ何年かは副音声とか、ネットとかで、毎年スタジオから生で伝える側として見てきているので。やはり生は楽しいですよ。一昨年、プリンスがプレゼンターとして出てきた時は感極まったもんです…。
── 今回の授賞式でやはり興味があるのは、プリンスを誰がどのように追悼するか、でしょうか?
西寺:僕はプリンスの曲を誰かが歌うのではなくて、プリンスが提供した曲や彼の歌をカヴァーしてヒットさせたその本人が歌えばいいんじゃないかと思っているんです。例えばシーラEやチャカ・カーンみたいにね。それが本当に彼の凄さを際立たせるというか。まさに「ナッシング・コンペア~」の詞世界そのままで、彼の代わりはいないので。ただプリンスは4月からすでに追悼イヴェントも多かったので、逆にグラミーでは難しいだろうと思いますね。ジョージ・マイケル(の追悼)はグラミーのアルバム・オブ・ザ・イヤーも獲っているので、何かしらやってほしいですけどね。むしろプリンスよりも、今本当に再評価して欲しいのはジョージなんです。ジョージはアイドルに寄ったところからスタートしてブラック・ミュージックの世界に飛び込んで、すごい歌を作り歌うという、ジャミロクワイのジェイ・ケイ、ジャスティン・ティンバーレイク、ブルーノ・マーズなどのシンガーの走りだったと思うんですよ。
── ここからは個々の、第59回のノミニーズについてお聞きしたいのですが、まずは素晴らしいシングルに送られる「年間最優秀レコード」。これは、いつもカテゴリーの1に置かれるシーンなんですが、このノミネーションを見て、いかがですか? このCD『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』に収録されているのは、アデル「ハロー」、トゥエンティ・ワン・パイロッツ「ストレスド・アウト」、ルーカス・グラハム「セブン・イヤーズ」の3曲ですね。
西寺:アデルに関しては、僕の持論があって、アデルのCDはある種の“健康商品”のようなものだと思っているんです。当たり前なんですけど、人間ってやっぱり「自分」のことが好きなんだと思うんですよね。誰もが自分がちょっとでも良くなりたいから生きているんだと思うんですよ。今をときめくアイドルとか、スターに夢中になって好きっていうのは、どこかで、売れてる、輝いてる、評価されてる彼らにあやかりたいっていう思いがあるように思うんです。初詣とかに行く心理と同じというか。要するに、彼らスターは全身が“大吉”みたいな人じゃないですか(笑)。だからライヴとかコンサートで大会場に行くと盛り上がる。その上で、アデルを考えると、彼女の曲は誰もが言うようにオーソドックスだし、コード進行も歌詞もシンプルなんですよね。ただ、そこに彼女の声がのってきた瞬間に確実に聴いてるこちらの血流が良くなるというか(笑)、身体の調子が良くなるってくらい、歌うまいじゃないですか。CDが売れないと言われる時代に、なんでアデルだけこんなに売れるんだろう?っていうのはそういうことじゃないかと思うんです。健康になる気がするからそばに置いておきたい。僕は、アデルが「年間最優秀アルバム」を獲ると思っているんですよ。健康に良いと思えるくらい歌うまい、聴いている人に実益があると思わせる彼女は、グラミー審査員の中高年から潜在心理的にめちゃくちゃ感謝されているのではないかと。トゥエンティ・ワン・パイロッツは応援したい。むちゃくちゃいい歌だと思うし、ちょっとやんちゃな男二人で、曲もかわいいし。一瞬、双子かなって思えるくらい雰囲気も似ていますね。昔、WINKが出てきた時、うちのおかんは「双子?」と何度も言っていておばさんだなぁと思いましたが、完全に自分が歳をとった気がします(笑)。ルーカス・グラハムは、ダニエル・パウターとかに通じる、1曲のパワーがある。それと、リズムの精度っていうか、画質でいうと画素がすごく細かい気がするんですよね。それは、この人を含め最近のヒットシンガーの特徴だと思うんです。普通のバラードと言ってしまえばそれでおしまいなんですけど、中間部以降の異様なファンキーな感じというか、ミックスを含めたリズムの解釈や声の抜け感が、すごく斬新というか。歌詞もギルバート・オサリヴァンの「アローン・アゲイン」的なストーリー性もあって。ビデオで見るとお腹もたぷんたぷんの普通の兄ちゃんで、そこが今っぽいですよね。
── 西寺さんが、アデルが受賞するのでは、と言っている「年間最優秀アルバム」ですが、これはビヨンセ、ドレイク、アデル、スタージル・シンプソン、それとジャスティン・ビーバーが今回ノミネートされているんですが――この『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』も5アーティスト全て網羅していますが――西寺さんの印象としてはどうですか?
西寺:僕ね、この4年くらい、主要4部門を予想して――16回チャンスがありますよね――14個当ててるんですよ(笑)。世の中の動向からカンで決めてるんですけどね。ジャスティン・ビーバーは何かで獲る気がしていて。去年(2016年)のテイラー・スウィフトも獲ると予想して当てました。なぜかというと、その年の作品そのものだけじゃなく、音楽業界が彼女に感謝していると思ったんですよ。若くて、才能があって、美しくて、ポップスのファンもつなぎとめてくれた彼女に対する感謝。あと、その前のベックも僕は当てたんですよ、誰も他の人は言ってなかったんですけどね(笑)。あのアルバムはエンジニア連中も「音がいい」と騒いでいましたから。彼はなんと彼の自宅で録っているんですけど、ベッドルームで録音した、ローファイだけど最高に音が良い、そんな作品で、アルバム・オブ・ザ・イヤーをグラミーで獲るっていう。「子供達に静かにしててくれてありがとう」ってメッセージも最高でした。そういうこともひっくるめて、時代が見えてくるものがある。ジャスティン・ビーバーに関しては、お騒がせなところもあるけど、彼がいてくれてよかったという業界人もたくさんいると思うので、僕は「最優秀楽曲賞」を獲ってくれると思ってます。
ビヨンセの『レモネード』は、ここ数年の人種間対立の狭間にリーダーとして立ち、黒人の美しさや悲しみを全力でぶつけてきたというか。女性であるビヨンセが昔マーヴィン・ゲイの『ホワッツ・ゴーイン・オン』でやったようなこと、社会的なことを今の感性できっちり提示している。すごく意味のあるアルバムだと思う。僕がアデルの『25』が「年間最優秀アルバム」を獲ると予想したのとは別の意味でね。こちらをアデルにしたら、もう一方はビヨンセに、みたいな空気読みはあると思う。そういった意味では、バランスをとって僕は彼女の「フォーメーション」が「年間最優秀レコード」を獲るんじゃないかと思っています。
ドレイクは、僕ら(日本人)でもわかる歌詞だし、「ホットライン・ブリング」というテーマの当然さとうまさも感じるし。スタージル・シンプソンは僕もそこまで詳しくないんですけど、今回初めて聴いて、こういうのもカントリーって言うんだなって。すごく聴きやすい。
── 次は、「最優秀楽曲賞」について。ジャスティンにはさっき触れていただきましたが、『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』にはあと(アデルの)「ハロー」と(ルーカス・グラハムの)「セブン・イヤーズ」が入っています。これは、ソングライターに送られる賞ですが、そういう観点からはいかがでしょうか?
西寺:最近の特徴でいうと共作が多いっていうね。一般の人は「最優秀レコード」と「最優秀楽曲賞」、どう違うの?という話なんですけど、トータルのプロダクト、音像、ヴォーカル、ひっくるめてレコーディング全体を指すのが「年間最優秀レコード」なんですね。逆に作詞と作曲だけで評価される「最優秀楽曲賞」っていうのは作曲家・作詞家にすればすごく名誉なわけで。ジャスティン・ビーバーは「最優秀楽曲賞」を獲るような気がしているんですけどね。時代を超えたシンプルな楽曲ですし。
── 今回の「最優秀楽曲賞」は、「フォーメーション」を除いた他の4曲は、ほぼミディアムからスローのバラード曲ばかりですが、それについては如何ですか?
西寺:みんなバラード好きなんだろうなっていう(笑)。僕はさほどバラードが好きではない人間なんですが、ただ、音楽家になって、人はバラードが好きなんだなって、本当に感じますね。それを実感したのは、2000年くらいなんですけど。僕はその頃、巨人ファンで『プロ野球名鑑』をいつも買ってまして。で、各選手のところに「好きな音楽は?」という質問があるんですけど、2000年ぐらいまでは、例えば、Mr.Childrenとか、LUNA SEAとか固有名詞だったのがそれ以降は“バラード系”と回答する選手がすごく増えたんですよ。 “バラード系”ってなんやねん(笑)って多少の憤りを覚えつつも、一般の感性に気づかされましたね。
── 続いて「最優秀新人賞」ですが、この『2017 GRAMMY(R)ノミニーズ』には4組が入っています。
西寺:ザ・チェインスモーカーズは話題になっているし、かっこいいし、すごいとも思うんですけど……僕が好きなのは、最初にも言ったアンダーソン・パークです。「めっちゃいいやん」と思って。自分がしてきた音楽にも近いですし。グラミー賞も洋楽もあまり知らない、今年どうだったのかなという人にとって、「おおっ。全然知らないけど、これいいやん」の入り口になるアーティストじゃないかな。ケルシー・バレリーニとマレン・モリスは、なんというか、若い人がオーソドックスなことを健康的にやっている。
── 大きく括ると二人ともカントリーの女性アーティストです。テイラー・スウィフトも最初はカントリーから出てきたじゃないですか。そういう意味でアメリカの音楽シーンが次のテイラー・スウィフトを作ろうという印象も受けます。
西寺:その新陳代謝は絶対必要だと思いますね。日本人にとってのカントリーって、なかなかわからないですけど、長渕剛さんのフォークとか、筒美京平さんの昭和歌謡感とか、そういうものなんでしょうか。アメリカで若い人にカントリーが継承されているのは、毎年感じますね。
── それ以外、ポップ部門にノミネートされているアーティストが何組か、『GRAMMY(R)ノミニーズ』にも収録されています。
西寺:シーアはビデオも面白かった。自分から熱心に聴くような音楽ではないんですけど、ダフト・パンクに続くある種の匿名性というか、顔を隠すような流れの中でユーモラスに、ポップなレゲエをやっている。エイス・オブ・ベイスとか、ビョークとか、90’s リヴァイヴァルのひとつの形なのかな、と。
── アリアナ・グランデはどうですか?
西寺:単純にめっちゃかわいいなと(笑)。
── 最後に、西寺さん的な『GRAMMY(R)ノミニーズ』の楽しみ方を教えてください。
西寺:全てではないにせよ、これでアメリカのヒット・チャートだったり、この年1年にいろんな人が愛した曲だったり騒いだ曲で、なおかつ音楽業界の偉い人からも認められたという曲なので。3つくらいのゲートをくぐって、この中に入っている曲だから。この1年を味わいたいなというときには、このアルバムはすごくいいと思うんですね。とくに僕から上の世代って、昔の曲を聴いている方が楽しいっていう人も多いと思うんです。それはわからないでもないんだけど、何度も言いますが血行がいいって大事なんですね。音楽の血行っていうのも絶対にあって、その今という時代の才能がこういうレースに参加する、その音を1枚で聴けるというのがあるんで。この中に2曲でも3曲でも「めちゃいいやん」という曲があれば、そこから広がる。ガイドブックになると思うんですね。ハワイに行く前に「ハワイでの過ごし方」みたいな本を二冊くらい買うじゃないですか。20年前のじゃなくて、今年のものを買うでしょ? この『GRAMMY(R)ノミニーズ』というのは、そういうアルバムだと思いますよね。