鍵盤男子
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<ライブ・レポート>11/30(木)「Anniversary Special Live The future of piano」
2017.12.4
超絶技巧を駆使した、その圧巻のライヴでインディーズ時代から注目を集めていた、新感覚ピアノユニット・鍵盤男子が、11月29日にアルバム『The future of piano』でついにメジャーデビューを果たした。その記念ライヴが11月30日、東京・品川クラブeXで行われ、昼夜2回公演合わせて約1,000人のファンが、二人のメジャーデビューを祝福した。1stステージは『THE HISTORY ザ・ヒストリー」と題して、これまでの集大成としてクラシック曲を中心としたセットリストで、二人も燕尾服に身を包み演奏した。セカンドステージは『THE FUTURE ザ・フューチャー』と題し、デビューアルバム『The future of piano』の収録曲を全曲披露。“ピアノはまだまだ冒険できる”という、アルバムに付けられたキャッチをそのままに、ピアノの可能性、ピアノが奏でる音楽の未来を提示してくれた。
鍵盤男子は2013年に、ピアニスト大井健と、音楽博士でもある作曲家中村匡宏により結成されたピアノユニットで、一台のピアノを二人で高速連弾するスタイルが女性層を中心に話題になっている。そのデビューアルバム『The future of piano』はジャンルレスのオリジナル作品を中心に、二人が好きなオアシス、レディオヘッド、コールドプレイといったUKロックのカバー、ライヴでの定番ナンバー「ボレロ」(ラヴェル)、「威風堂々」(エルガー)など11曲が収録されているが、この日はその全てを披露してくれ、いわゆるクラシックの連弾とは一線を画す、二人のダイナミックかつ繊細なプレイに全ての人が酔いしれた。
二人の門出にふさわしく、どこからでも演奏が見えるように回転円形ステージが用意された。オープニングナンバーの「The future of piano」はバンドサウンドを同期させた、ポップなメロディ。二人が、ポジションチェンジしながら弾いていくスタイルを初めて観るファンは、度肝を抜かれたはずだ。モニターにはピアノを弾く二人の指が映し出され、さらにライヴ感を煽る。クラシック作品では中村のアレンジ力が光る。打ち込みサウンドをバックに、「ボレロ」は未来感を感じさせてくれる斬新さ、「威風堂々」はジャズ風な味付けで、おなじみの楽曲に全く違う表情と感覚を纏わせる。また、誰もが知る「アンパンのマーチ」を、スタイリッシュに、より表情豊かな楽曲に変化させ、まさにアレンジの妙を感じさせてくれた。二人が愛してやまないUKロック、オアシス「Don’t Look Back In Anger」、レディオヘッド「CREEP」、コールドプレイ「Viva La Vida」のカバーも、リスペクトの精神を忘れず、原曲の温度感を残しつつ、斬新かつドラマティックなアレンジが印象的だった。
オリジナル曲の「pink elephant」は中村が大井のソロ曲として「嫌な事があって、ホテルの一番上のBARで一人で飲んで酔っ払っている大井」をイメージして書いたというポップで、超フュージョンといった趣の一曲だ。「言わなきゃよかった、なんてちっとも思ってないくせに…」は、十代の頃に感じた事を曲にしたという、どこか叙情的な雰囲気がする作品。ただ演奏して聴かせるだけではなく、曲の前フリを含め二人のMCも鍵盤男子のライヴの楽しみのひとつだ。優しいトーンで話す大井と、話術に長けている音楽博士・中村の、どこまでもわかりやすい解説。この日もMCの時、大井が「あ、電話だ」といきなりスマホを取り出し、出演していたCM「だから私は、Xperia」を再現。これにはファンも大喜びで、CMで使われていた曲「voices」をオリジナルアレンジで、聴かせてくれた。さらに作曲家・新垣隆氏からの二人へビデオメッセージが紹介され、「ピアノがうまくてカッコいいのはズルい」という祝福コメントには、客席が大爆笑だった。笑わせて、空気が和やかになったところで、再び演奏に入ると、二人の音が一つになって作り出す音の波が空気を切り裂くように伝わってきて、グッと引き込まれる。このメリハリも鍵盤男子のライヴの面白さだ。
鍵盤男子はソロピアニストとしてすでにメジャーデビューしている大井と、作曲家、ピアニスト、指揮者として活躍している中村という、この二つの異なる個性から成り立っているからこその、唯一無二の存在なのだ。クラシックでいうところの連弾は、二人のピアニストがそのテクニックを駆使して、まるで一人で弾いているような聴かせ方、シンクロ率の高さを表現するもの。しかし鍵盤男子はそこが大きく違う。作曲家とピアニスト、2つの異なる生き方、独立しているものがひとつになる時に生まれる、“味のあるシンクロ率”が、“衝撃”として伝わってくるのが鍵盤男子の真骨頂だ。二人の才能、演奏力はもちろん、豊かな知識とアイディアから生まれる曲とアレンジ、エンターテイメント性を兼ね備えているところが、唯一無二の存在といわれる所以だ。
本編最後の「spiral switch」では、ファンがタオル、ハンカチを回しまるでポップスのライヴのようなノリに。アンコール1曲目のどこまでもメロウな美しいメロディが印象的なオリジナル曲「sad smile」では、二人の繊細かつ切ないタッチで、客席に感動が広がっていった。そして「応援してくださった、本当にたくさん方に感謝したいと思います」と大井が万感の思いでメッセージして、アルバムタイトル曲の「The future of piano」を再び披露した。この日の二人のピアノは、まるで歌うように、時に叫ぶように、時には語りかけるようにどこまでも雄弁で、そんな演奏に最後は客席が総立ちになり、「ブラボー!」の声が飛び交い、拍手が鳴りやまなかった。
来年1月からは全国ツアーがスタートする。是非、鍵盤男子が繰り出す“衝撃”を、体感して欲しい。ライヴというものが、いかに言葉では表現できない感動を与えてくれるのかわかるはずだ。
(文:田中久勝)
鍵盤男子は2013年に、ピアニスト大井健と、音楽博士でもある作曲家中村匡宏により結成されたピアノユニットで、一台のピアノを二人で高速連弾するスタイルが女性層を中心に話題になっている。そのデビューアルバム『The future of piano』はジャンルレスのオリジナル作品を中心に、二人が好きなオアシス、レディオヘッド、コールドプレイといったUKロックのカバー、ライヴでの定番ナンバー「ボレロ」(ラヴェル)、「威風堂々」(エルガー)など11曲が収録されているが、この日はその全てを披露してくれ、いわゆるクラシックの連弾とは一線を画す、二人のダイナミックかつ繊細なプレイに全ての人が酔いしれた。
二人の門出にふさわしく、どこからでも演奏が見えるように回転円形ステージが用意された。オープニングナンバーの「The future of piano」はバンドサウンドを同期させた、ポップなメロディ。二人が、ポジションチェンジしながら弾いていくスタイルを初めて観るファンは、度肝を抜かれたはずだ。モニターにはピアノを弾く二人の指が映し出され、さらにライヴ感を煽る。クラシック作品では中村のアレンジ力が光る。打ち込みサウンドをバックに、「ボレロ」は未来感を感じさせてくれる斬新さ、「威風堂々」はジャズ風な味付けで、おなじみの楽曲に全く違う表情と感覚を纏わせる。また、誰もが知る「アンパンのマーチ」を、スタイリッシュに、より表情豊かな楽曲に変化させ、まさにアレンジの妙を感じさせてくれた。二人が愛してやまないUKロック、オアシス「Don’t Look Back In Anger」、レディオヘッド「CREEP」、コールドプレイ「Viva La Vida」のカバーも、リスペクトの精神を忘れず、原曲の温度感を残しつつ、斬新かつドラマティックなアレンジが印象的だった。
オリジナル曲の「pink elephant」は中村が大井のソロ曲として「嫌な事があって、ホテルの一番上のBARで一人で飲んで酔っ払っている大井」をイメージして書いたというポップで、超フュージョンといった趣の一曲だ。「言わなきゃよかった、なんてちっとも思ってないくせに…」は、十代の頃に感じた事を曲にしたという、どこか叙情的な雰囲気がする作品。ただ演奏して聴かせるだけではなく、曲の前フリを含め二人のMCも鍵盤男子のライヴの楽しみのひとつだ。優しいトーンで話す大井と、話術に長けている音楽博士・中村の、どこまでもわかりやすい解説。この日もMCの時、大井が「あ、電話だ」といきなりスマホを取り出し、出演していたCM「だから私は、Xperia」を再現。これにはファンも大喜びで、CMで使われていた曲「voices」をオリジナルアレンジで、聴かせてくれた。さらに作曲家・新垣隆氏からの二人へビデオメッセージが紹介され、「ピアノがうまくてカッコいいのはズルい」という祝福コメントには、客席が大爆笑だった。笑わせて、空気が和やかになったところで、再び演奏に入ると、二人の音が一つになって作り出す音の波が空気を切り裂くように伝わってきて、グッと引き込まれる。このメリハリも鍵盤男子のライヴの面白さだ。
鍵盤男子はソロピアニストとしてすでにメジャーデビューしている大井と、作曲家、ピアニスト、指揮者として活躍している中村という、この二つの異なる個性から成り立っているからこその、唯一無二の存在なのだ。クラシックでいうところの連弾は、二人のピアニストがそのテクニックを駆使して、まるで一人で弾いているような聴かせ方、シンクロ率の高さを表現するもの。しかし鍵盤男子はそこが大きく違う。作曲家とピアニスト、2つの異なる生き方、独立しているものがひとつになる時に生まれる、“味のあるシンクロ率”が、“衝撃”として伝わってくるのが鍵盤男子の真骨頂だ。二人の才能、演奏力はもちろん、豊かな知識とアイディアから生まれる曲とアレンジ、エンターテイメント性を兼ね備えているところが、唯一無二の存在といわれる所以だ。
本編最後の「spiral switch」では、ファンがタオル、ハンカチを回しまるでポップスのライヴのようなノリに。アンコール1曲目のどこまでもメロウな美しいメロディが印象的なオリジナル曲「sad smile」では、二人の繊細かつ切ないタッチで、客席に感動が広がっていった。そして「応援してくださった、本当にたくさん方に感謝したいと思います」と大井が万感の思いでメッセージして、アルバムタイトル曲の「The future of piano」を再び披露した。この日の二人のピアノは、まるで歌うように、時に叫ぶように、時には語りかけるようにどこまでも雄弁で、そんな演奏に最後は客席が総立ちになり、「ブラボー!」の声が飛び交い、拍手が鳴りやまなかった。
来年1月からは全国ツアーがスタートする。是非、鍵盤男子が繰り出す“衝撃”を、体感して欲しい。ライヴというものが、いかに言葉では表現できない感動を与えてくれるのかわかるはずだ。
(文:田中久勝)