九州男

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「こいがBESTですばい」オフィシャルインタビュー公開!

2011.9.24

「もともと歌は自分の悩みを吐き出す自己表現だった。それが徐々に変わってきて、今は人の気持ちをどうやって代弁できるかってことを意識してる」
 そう語る九州男は、今年でインディーズデビューから数えて5年目に突入した。
 自身にある陽と陰の部分を出した『こいが俺ですばい』『こいも俺ですばい』(共に2007年)。HBの鉛筆で歌詞を書き始めたときの初期衝動や自身のルーツを表現したメジャー1作目『HB』(2008年)。普遍的な楽曲作りを意識し、聴き手の精神状態をレスキューできればという思いから緊急救助用スペースのマークを冠した『®』(2009年)。「ゼロではなく1。世の中のすべては奇跡的にそのズレが生じたから存在している」という気づきから人生観をテーマに歌った『±1』(2010年)。「人間は脳の3%程しか使っていない」という俗説から、だったら残りには愛が詰まっていれば素敵だと考え、ラブソングを多く綴った最新アルバム『97%』(2011年)。
 今回のベストアルバム『こいがBESTですばい』には、上記アルバムから九州男自身が気に入ってる曲をピックアップ。【Disk.1】には愛をテーマにした人と気持ちが交差する曲、【Disk.2】には夢や人生をテーマにした自分自身と向き合う曲がコンパイルされた。曲順は発表順ではなく、緩急をつけた流れに並び替えられ、ベスト盤には珍しくイントロとアウトロも新録。さらに「少年⇔未来 ~映画のようなメモリー~」「dear grandma」は本作用にヴォーカルを録り直すという、こだわりにあふれた一枚になっている。3月11日の震災後、YouTubeにアップされ話題を集めた「臆病者」もフルヴァージョンで収録された。
「『臆病者』は、被災地の避難所にいるひとりの少年を想像して書いたんですけど、テレビを見ながら“俺、なんにもできねえな”って思ってる自分ともリンクしてるんです。自分って無力だな、現状を見つめるだけじゃなくて何かできることあるんじゃないかって。そういう部分で、俺、臆病者だなぁと思ったし、でも一生懸命、自分なりの応援ができたらと思って書いたんです」
 こんな風に“上から目線でモノを言わない”のが九州男の基本姿勢。切なくも温かいビタースウィートな歌声、キャッチーでエモなメロディーも彼の大きな武器だ。なにより魅力的なのは、シーンや風景が鮮明に浮かんでくる物語性の強い歌詞。
 「想色コーディネート」は四季折々の幸せなカップル像が思い浮かぶ曲。「桜道」では、園児から社会人になるまでの桜の季節の景色を見事1ヴァースに入れ込み、過去の美しい想い出を甦らせることで、聴く人の今を元気づける。
 自分で歌詞のストーリーに入り込むことも度々だそうで、恋人と死別した男を描いた「雲の上の君と(epilogue)」では作詞中に鼻水と涙が止まらなくて45リットルのゴミ袋がティッシュでいっぱいになったと語るほど。結婚する幼なじみに書いた「Brand New Days」や、周りの出産ラッシュに感化され父子愛を描いた「ちっちゃなあいぼう」も歌ってるとこみ上げるものがあるとか。「何かが“憑依”して描いている自分もいるかも」と言うくらい、心を奪うドラマが彼の曲では展開されるのだ。
「それは完全に意識して書いていて。歌詞を書く前に、まず構成を書くんです。一番でこういうストーリー、二番でこういうストーリー、で、3番はこういうオチにしようとか。もともと、小さい頃の将来の夢は映画監督だったんです。だから、そういうのが好きなんでしょうね、きっと」
 また、記号的というか抽象的な曲タイトル・アルバムタイトルが多いのも特徴。学生時代から崇拝している人物として北野武と松本人志の名を挙げるが、そういうタイトル付けのセンスに少なからず影響を受けているようだ。
「あんまり説明がましいのって好きじゃないんです。北野武さんの監督する映画って台詞の言葉数が少なかったり、無音の部分が多かったりして、意外と意味不明っぽいところが多かったりする。以前、その理由を武さんが言ってたんですけど、答えを出したくないらしいんです。そこでみんながどう感じて、どう解釈していくか。そこに面白味があるというか、そういう意図でやってるらしい。そういうのは本当わかるなぁ、と思う」
 小さい頃から漫画とゲームが好きで(ゲームはプレステが登場したときに本気で廃人になると思って卒業)、一歩間違えたらオタクになってたタイプだと自己分析。神経質でこだわるところにはとことんこだわる完璧主義者である一方、意外と部屋がちらかってたりと、関心のないことはどうでもよくなる気質だという。そんな彼の作品作りのモットーとは?
「ポップではありたいんですけど、ポップの中にちょっとシュールさを出したいというか。学生の頃から普通がイヤ、周りと一緒がイヤで。だから、何かちょっと違いを出したいっていう気持ちは常にどこかにありますね」
 ピュアな感受性を持ち、思慮深くて、でも、未練、妬み、悔しさといった負の感情がうっすらと感じ取れる九州男の曲。そこがシュールさやヒネクレ感に繋がるわけだが、でも、その陰の部分が世に数多あるインスタントな希望押し売りソングと一線を画し、またそこが独特のペーソスやセンチメンタリズム、ほろ苦さを生み、九州男の曲に深みを与えているんだと思う。で、それがあるから、九州男の曲はじんわり効いてくる。ひっかき傷程度の爪痕を心に残すのだ。
「僕の曲を聴く人の人生をご飯だとしたら、僕の音楽はちょっとした調味料くらいでいい。味をちょっと豊かにする隠し味くらいでいいんです。そんな風にどこかで人の役に立てれればいいと思って、僕は音楽を作ってるんですよ」

猪又 孝(DO THE MONKEY)

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