竹内まりや
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竹内まりや「LIVE Turntable Plus」ライブレポート
2021.5.30
竹内まりや『L I V E Turntable Plus』ライヴレポート
能地祐子(音楽評論家)
Zepp Tokyoの客席スペース。2019年にリリースされたアルバム『Turntable』のジャケットでおなじみ、巨大なレコード・プレーヤーのターンテーブル型にしつらえられたサブステージにひとり、メインステージ上のバンド・メンバーたちと対面する形で竹内まりやが立つ。まばゆい真紅のドレス。そのゴージャスなドレスの足元に目をやると、これもまた『Turntable』のジャケット同様のショートブーツ。そのいでたちが、いかにも今、この21世紀の竹内まりやのかっこよさを象徴しているようだ。そう。約40年前、アルバム『ビギニング』のジャケットで無造作にウェスタン・ハットをかぶっていたあの女の子が大人になった姿。そのナチュラルかつキリリとしたたたずまいの美しさに、心が躍る。
2021年2月、CD購入特典の抽選で当選した2000人のみ視聴することができた竹内まりやの初配信ライヴ『LIVE Turntable』。本来ならば昨年、久々のリアルなライヴハウス・コンサートとして企画されていたお宝公演となるはずだったが、予期せぬパンデミックのため残念ながら中止に。その代替企画として昨年11月、無観客という環境下、Zepp Tokyoで収録され、今年2月に限定配信されたものだった。
その『LIVE Turntable』に、さらに2010年~2014年の未公開ライヴ映像6曲を加えた形でより広く一般に向けて有料配信されたのが『LIVE Turntable Plus』。本来ならばまりやさんはこの4月から7年ぶりの全国ツアーに出る予定もあったけれど、それも新型コロナウイルス感染防止のため中止に。ファンは誰もががっかりしているに違いない。でも、今回のこの映像配信は、そんな落胆もひととき忘れさせてくれる素晴らしい仕上がりになっている。
先述したサブステージのターンテーブル上でまりやさんが歌ったオープニング・ナンバーは、『Turntable』にも収録されていた「瞳のささやき」。女性ポップ・カントリー・シンガー、クリスタル・ゲイルが1977年に放ったヒットのカヴァーだ。続いて、まりやさんがメインステージに移動してコンサートは本格的に幕開け。山下“バンマス”達郎が指弾きで繰り出すイントロのギター・リフに導かれて、まりやさんのアメリカン・ロック愛が炸裂する「アンフィシアターの夜」がスタートすると、もう、無観客であることも、そこが会場から遠く離れた自宅であることすら忘れて歓声をあげてしまう。続いて、まりやさん自らエレキ・ギターを抱えて往年のブリティッシュ・ポップへの思いを託した「マージービートで唄わせて」へ。ポップ・カントリー〜アメリカン・ロック〜ブリティッシュ・ポップという、この冒頭3曲の流れだけで、まりやさんの柔軟な“幅”と、時を超えてもけっしてブレることのない姿勢とを感じ取ることができる。
以降もおなじみの楽曲のパフォーマンスが続々。いつもは遠目にしか見えないバンド・メンバーの面々の表情まで楽しめるのは配信ライヴのいいところ。お互いふっと目くばせしたり、ソロ・パートで思わず口元をニンマリ緩めたりしながら極上の演奏を繰り出す最強の腕利きたち。そんな彼らの魅力も再確認。特に、ギターにコーラスに大忙しのバンマスの姿が堪能できるのがうれしい。画面を通じて、うんと近くで語りかけてくるようなまりやさんの歌声や、それを背後でがっちりサポートするバンドの面々の演奏は、生のライヴの熱狂とはまたひと味違う不思議な一体感がある。
中盤、ターンテーブル型のサブステージに戻ってのアコースティック・セットも素晴らしい。シルバーのドレスにお色直し後、終盤に向けての盛り上がりもたまらない。達郎さんとのデュエットで聞かせるエヴァリー・ブラザーズ「All I Have To Do Is Dream(夢を見るだけ)」
のデュエットから、まりやさんがピアノで弾き語る「すてきなヒットソング」も泣ける。
ここまでが2月に限定配信されたコンサート本編。その後、アンコールのように過去の未発表映像6曲が続く。生のコンサートでは絶対に実現できない、時空を超えた夢の体験。ライヴでしか味わえない「プラスティック・ラブ」の“達郎大フィーチャー・ヴァージョン”などなど、ここにも見どころ満載で大いに盛り上がる。
エヴァーグリーン。永遠に色褪せない魅力。それがいっぱいに詰まったひととき。最後、まりやさんからの「どうぞお元気で。みなさん、またお会いしましょう」というMCは2014年の言葉ではあるのだけれど。それもまた、まるで今、この時代に向けて我々に放たれたメッセージのように響くのだった。