MY CHEMICAL ROMANCEマイ・ケミカル・ロマンス
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ジェラルド・ウェイがツイッターに寄せたメッセージ全訳
2013.3.25
夜通しの祈り、鳥とガラスに寄せて
今朝目が覚めたとき、まだ夢を見ていたのか、ぼんやりしたままだった。窓から朝日が差し込むのを顔で感じると、僕は深い悲しみに襲われて、すぐに、はっきりと実感した――マイ・ケミカル・ロマンスが終わったのだと。
落ち着きを取り戻す方法をひとつしか思いつかなくて、僕は階段を下りて―
コーヒーをいれた。
ドリップが始まって、朝にしかないような静けさの中で、まだ家族は寝ていたから、僕は家の外に出て、ドアは開けたままにしておいた。周りを見渡して、深呼吸してみた。景色は昨日までと変わらなかった―美しい日だった。
家に戻ろうとして振り向くと、中から音が、さえずりとカサカサいう音が聞こえた。それは書斎の中に迷い込んだ小鳥だった。当然、僕はパニックになった。鳥の安全を確保しなくてはいけないことも、家の中をめちゃくちゃにしてはいけないこともわかっていたし、もちろんこのまま同居するわけにもいかなかった。僕は彼(今でもこの鳥は雄だったと思ってる)を、大きな窓がある僕の仕事部屋の方へと追い込んだ。
そのとき、運よく、リンジーが下に降りてくる足音が聞こえた。いつもどおり落ち着いた彼女は、ブランケットをつかんで仕事部屋に入ってきた。彼をつかまえるのはとても無理で、僕はリンジーがいる方の窓を開けてみたけれど、網戸でふさがれていた。鳥はガラスに向かって飛び始めて、何度も何度も、あらゆる方向に飛び回っていた。
バサッ。
バサッ。
バサッ!
今度は娘のバンディットの足音がして、新しい日を楽しみに階段を下りてくるのが聞こえた。彼女が入ってきたことで状況はまさにカオスになって(彼女は鳥に会えて大はしゃぎだった)、気が付くと鳥をリビングの方へ追い込んでしまっていた。リビングは天井が高いし、鳥が止まれる梁もあってますます大変だとわかっていたから、僕は玄関のドアを開けて、リンジーが何とかこの新しい友達に外へ出て行くようにと促した。何度も誘導して、飛び回って、さえずって、間違ってまた書斎に戻ったりした後で、バンディットに軽くお別れをしてから、彼は結局ぴょんぴょん跳ねながら玄関から出て行った―そして5歩めで空に飛び立った。
僕達は歓声を上げた。
僕はもう悲しくなかった。
自分では気づいていなかったけど、あの鳥が目の前に現われた瞬間から僕は悲しくなくなっていた。しなくてはいけないことができて、助けるべき小さな存在と保つべき秩序があるとわかったから。僕はドアを閉めた。そして前からずっと書くことになるとわかっていた手紙を書こうと決めた。
僕はよく抽象的になりがちで、ありふれた風景に隠れたり、まったく隠れなかったりもする。僕がこれまで(ひとりで、または友達と一緒に)作ってきたアートには、正しくできたときには自分の意図がすべてそこに含まれていて、だからこそ、何の説明も必要ない。言い訳したり、解説したり、冷静に考えた結果として信念を持って起こした行動を正当化したりするのは、性に合わないんだ。
でも前からずっと、このバンドが終わるときにはそういうわけにいかないだろうと感じていて、最終的にそうなった。バンドの存在においては曖昧でいても、その死に際してはオープンであろうと思う。
明確な行動は真実から生まれるもので、義務感からじゃない。そして実際のところ、僕は君たちひとりひとりを心から愛してる。
だから、君がこれを読んで、少しでも何か、もしくはこの件に関する僕の個人的な思いが明らかになるとしたら、それはここに愛が、お互いに共有の愛があるからで、義務感から書いたものじゃないからだ。
愛。
これがずっと僕の目的だった。
マイ・ケミカル・ロマンス:2001-2013
僕達は素晴らしかった。
どのショウでもそれがわかっていたし、どのショウでも、外部からの承認があろうとなかろうと、そう感じていた。
失敗もいくつかあったし、中古の機材が壊れたり、僕の声が出ないときもあった―それでも僕達は最高だった。僕達を作り上げたのはこの信念だったけど、ほかにもたくさんのことがあって、そのすべてが重要だった―
そして僕達を最高にしたすべてのものこそが、まさに僕達を終わらせようとしていた―
フィクション。摩擦。創作。破壊。反発。攻撃性。野心。ハート。憎しみ。勇気。恨み。美。絶望。愛。恐れ。華やかさ。弱さ。希望。
運命を受け入れること。
この最後のひとつがすごく重要だ。マイ・ケミカル・ロマンスは、核心の部分で、どう転んでも失敗しないようにできていた。決定的な事件が起きたり、または起こらなくなったときに、爆発する最終兵器だ。この“欠点”の自覚を僕はバンドの誕生から数週間のうちにみんなと分かち合っていた。
個人的に、僕はそれを受け入れている。だってこれもやっぱり、僕達を完璧にした要素だから。完璧なマシーン、美しく、自分のシステムを自覚してもいる。障害が起きる前に終結するよう指示されている。アイデア*を守るために―あらゆる代償を払っても。こう言うと、4色刷りのコミックブックのページを破ってきたみたいに聞こえるだろうけど、そこがポイントなんだ。
妥協しない。降伏しない。冗談もなしだ。
僕にとってはそれがロックンロールだ。そして僕はロックンロールを信じている。
僕はこれを誰に対して言うのもためらわなかった、メディアにも、ファンにも、親戚にも。歌詞の中にも、会話にも出てくる。これを口にすると冷笑するジャーナリストをよく見てきた。僕が世間を騒がせようとして、大げさなことを言ってるとでも思っていたんだ(彼らを弁護すると、僕は破れた患者用ガウンを着て、顔を白塗りにして、終末論を唱えるマーチング・バンドのリーダーの格好をしていたんだから、その言い分もわかる)。
僕は今でもその構造が正しく機能したのかどうかわからずにいる。大爆発というより、もっとゆっくりとしたプロセスだったから。それでも結果は同じで、理由も同じだった―
時が来れば、僕達はやめる。
肝心なのは、僕達にとって、その時が来たかどうかの意見はオーディエンスから伝えられるものではないということだ。繰り返しになるけど、これもオーディエンスのためにアイデア*を守りたいからなんだ。多くのバンドが、チケットの売上やチャートの順位、ブーイングとかおしっこが入ったボトルとか、そうやって外部からやめるべき時を告げられるのを待ってきた―僕達はそんなことに影響を受けないし、いずれにしろそうなる頃にはもう手遅れなんだから。
それは自分という存在の内側でわかることだ。自分の中の真実に耳を傾ければいい。そしてそんな内側の声が、音楽よりも大きく聞こえるようになったんだ。
<ここまで書いて一度中断して、僕は昔からの友人の訪問を受けた。みんなこのバンドの始まりに手助けしてくれた人達だ。僕達は昔の思い出話をしたり、音楽の話をしたり、新しいことについて話もした。笑い合って、ダイエットソーダを飲んだ。そして彼らは帰って行って、僕は寝て、次の日に起きてから続きを書くことにした。その続きがこうだ―>
ところで―
マイ・ケミカル・ロマンスが終わったのにはいくつもの理由がある。きっかけになった人は重要じゃない。メッセンジャーが重要じゃないのと同じように、大事なのはメッセージなわけで、この場合もまさにそうだ。でも繰り返すと、これはあくまで僕の意見で、僕の理由で、僕の感情だ。そして断言できる、そこには離婚も、議論も、失敗も、事故も、悪役もなければ、原因になった裏切りもないし、また誰のせいでもなかったわけで、静かに進行していったもので、僕達がそれを自覚していようとなかろうと、どんなセンセーショナルなスキャンダルや噂よりもずっと前に始まったことだった。
弾丸の雨に打たれる輝かしい栄光の瞬間もなかった…
僕はニュージャージーのアスベリー・パークのバックステージにいた。2012年5月19日の土曜日で、ステージへと続く巨大な黒い幕の後ろで行ったり来たりしていた。海からの風を感じながら、自分の腕を見た。僕の両腕はひどいあせものせいでガーゼに覆われていた。原因もわからず数ヵ月前から悩まされていたものだった。普段はショウの前に緊張することはないけれど、この日は確かに胸がざわめくのを感じていた。いつもと違う―奇妙な不安感に襲われていて、死に際に働く第六感としか思えなかった。瞳孔が開いて、まばたきするのをやめていた。体温がどんどん下がっていった。
ステージに出る合図が出た。
ショウの出来は…良かった。最高でもなく、悪くもなく、ただ良かった。僕が最初に気付いて驚いたのは、目の前にいるものすごい数の人々ではなくて、左側に見えた浜辺と、広大な海だった。子供のころの記憶よりもずっと青かった。空もまた明るかった。僕は半自動的にパフォーマンスしていて、何かがおかしかった。
僕は演技していたんだ。僕はステージで演技することは絶対になくて、そう見える時でさえも、大げさに振舞ったり独白を披露したりするときでさえ、演技じゃなかったのに。突然、夢から覚めたみたいに、はっきりと自分を認識できるようになった。もっと速く、もっと必死に、やけを起こしたみたいに動き始めた―なんとか振り切ろうとしながら―でも、どんどん静かになるだけだった。アンプの音が、歓声が、みんな小さくなっていった。
そして心の声だけが残って、はっきりと聞こえた。大声になる必要はなかった―その声はそっとささやいて、簡単に、はっきりと、そしてやさしく―僕にあることを告げた。
何が告げられたのかは、僕とその声の間の秘密だ。
僕はそれを無視した。それからの数ヵ月間は苦しみでしかなかった―僕は空っぽになって、音楽を聴くのをやめて、鉛筆を持つこともなく、昔の悪癖に手を出し始めていた。かつて僕に見えていた活気が全部、薄れていった。失われていった。それまでの僕はあらゆるもの、特に平凡な日常の中に、アートやマジックを見ていた―その力はがれきの下に埋もれてしまった。
ゆっくりと、十分に自分を痛めつけた後で、僕は穴から這い出ようとし始めた。クリーンになって。そして外に出たとき、僕の中に残っていたのはあの声だけだった。そして二度目には、もう無視できなかった―それは僕自身の声だったから。
この終わりにあたって、僕達全員がいくつもの顔を持っている。幸運を祈る人、不幸を願う人、同情する人、悪口を言う人、コメディアン、雨雲、そして犠牲者にも―
ここでもまた、最後のひとつが重要だ。僕は自分が犠牲者だと思ったことは一度もなかった。僕も、僕の仲間も、ファンだってそうだ―特にファンはそうじゃない。僕達が今、自分を犠牲者だとしてしまったら、これまでタブロイドが僕達を告発しようとしてやってきたすべてを認めてしまうことになる。もっと大事なのは、それが完全に的外れだということだ。それなら、僕達は何を学んだんだろう?
敬意と、誠実さと、終焉をもって、そしてほかの誰でもなく自分達の意志で―ドアが閉まる。
そして別のドアが開く―
今朝僕は早起きした。さっと歯を磨いて、だぶだぶのジーンズを履いて、車に飛び乗った。朝もやで煙る405号線を進んで、パロ・ヴェルデにある駐車場に向かった。そこで僕はノームという男性に会うことになっていた。彼は年上で、自分で“ヒッピー”だと言っていたけど、ガレージ・ロック・バンドをやってる16歳みたいにエネルギーにあふれた人だった。彼に会う目的は、アンプを引き取るためだった。最近彼からアンプを買っていて、送るのも手間だからということで―お互いの家から中間のところで会って、直接渡してもらえることになっていた。
1965年のフェンダー・プリンストン・アンプで、リバーブなし。美しい小さなアンプだ。
彼は細かいところ、スピーカーや、非接地のプラグ、オリジナルのラベルに、作った男性か女性が残したチョークのマークを見せてくれた―
「このアンプはしゃべるんだ」と彼は言った。
僕はにっこり笑った。
二人でコーヒーを飲みながら、金箔のピックアップや人生について話をした。車の中でお互いに自分の音楽を聴かせ合ったりもした。それから別れて、連絡を取り合おうと約束して、僕は家に戻った。
マイ・ケミカル・ロマンスを始めたいと思ったとき、僕は実家の地下室に座って、絵筆と引き換えに長い間放っておいた楽器―ギターを手にすることから始めた。そのギターは90年のフェンダー・メキシカン・ストラトキャスターで、色はレイク・プラシッド・ブルーだったけど、若かった僕にはクリーンできれいすぎたから、青の下にある赤が見えるようになるまで傷を付けたりしていた。そしてピック・ガードにダクト・テープを貼ると、いい感じになった。そのギターをディストーションが装備された小さなクレイト・アンプにつないで、“スカイラインズ・アンド・ターンスタイルズ”の最初のコードを弾き始めたんだ。
あのギターは今でも持っていて、プリンストンのアンプの隣に置いてある。
声を持つアンプ。その声が言うことを聞くのが楽しみだ。
最後に、ファンのみんなひとりひとりにお礼を言いたい。僕が君達から学んできたことは、君達が僕から学んだと思うよりももっと多いかもしれない。ひとつだけ残念なのは、僕は人の名前を覚えるのがひどく苦手で、さよならを言うのも苦手だということ。でも顔は絶対に忘れない。そして気持ちも―それこそ僕が君達みんなからもらったものだから。
僕は愛を感じてる。
僕は君達を愛してる、僕達のクルーも、僕達のチームも、そして一緒にバンドをやってステージを共にしてきたひとりひとりを―
レイ。マイキー。フランク。マット。ボブ・ジェームス。トッド。コーテッツ。タッカー。ピート。マイケル。ジャロッド。
僕はさよならを言うのが苦手だから。これをさよならにはしたくない。でも最後にもうひとつだけ―
マイ・ケミカル・ロマンスは終わった。でも決して死にはしない。
それは僕の中で、メンバーの中で生きている。そして君達みんなの中で生きているんだ。
僕はそうなるとずっとわかっていたし、君達だってそうだったと思う。
だってそれはバンドじゃない―
それはアイデア*なんだから。
Love,
Gerard
*本文中の「アイデア(idea)」は、日本語の意味がたくさんあるので、あえてそのままカタカナ表記にしています。。
今朝目が覚めたとき、まだ夢を見ていたのか、ぼんやりしたままだった。窓から朝日が差し込むのを顔で感じると、僕は深い悲しみに襲われて、すぐに、はっきりと実感した――マイ・ケミカル・ロマンスが終わったのだと。
落ち着きを取り戻す方法をひとつしか思いつかなくて、僕は階段を下りて―
コーヒーをいれた。
ドリップが始まって、朝にしかないような静けさの中で、まだ家族は寝ていたから、僕は家の外に出て、ドアは開けたままにしておいた。周りを見渡して、深呼吸してみた。景色は昨日までと変わらなかった―美しい日だった。
家に戻ろうとして振り向くと、中から音が、さえずりとカサカサいう音が聞こえた。それは書斎の中に迷い込んだ小鳥だった。当然、僕はパニックになった。鳥の安全を確保しなくてはいけないことも、家の中をめちゃくちゃにしてはいけないこともわかっていたし、もちろんこのまま同居するわけにもいかなかった。僕は彼(今でもこの鳥は雄だったと思ってる)を、大きな窓がある僕の仕事部屋の方へと追い込んだ。
そのとき、運よく、リンジーが下に降りてくる足音が聞こえた。いつもどおり落ち着いた彼女は、ブランケットをつかんで仕事部屋に入ってきた。彼をつかまえるのはとても無理で、僕はリンジーがいる方の窓を開けてみたけれど、網戸でふさがれていた。鳥はガラスに向かって飛び始めて、何度も何度も、あらゆる方向に飛び回っていた。
バサッ。
バサッ。
バサッ!
今度は娘のバンディットの足音がして、新しい日を楽しみに階段を下りてくるのが聞こえた。彼女が入ってきたことで状況はまさにカオスになって(彼女は鳥に会えて大はしゃぎだった)、気が付くと鳥をリビングの方へ追い込んでしまっていた。リビングは天井が高いし、鳥が止まれる梁もあってますます大変だとわかっていたから、僕は玄関のドアを開けて、リンジーが何とかこの新しい友達に外へ出て行くようにと促した。何度も誘導して、飛び回って、さえずって、間違ってまた書斎に戻ったりした後で、バンディットに軽くお別れをしてから、彼は結局ぴょんぴょん跳ねながら玄関から出て行った―そして5歩めで空に飛び立った。
僕達は歓声を上げた。
僕はもう悲しくなかった。
自分では気づいていなかったけど、あの鳥が目の前に現われた瞬間から僕は悲しくなくなっていた。しなくてはいけないことができて、助けるべき小さな存在と保つべき秩序があるとわかったから。僕はドアを閉めた。そして前からずっと書くことになるとわかっていた手紙を書こうと決めた。
僕はよく抽象的になりがちで、ありふれた風景に隠れたり、まったく隠れなかったりもする。僕がこれまで(ひとりで、または友達と一緒に)作ってきたアートには、正しくできたときには自分の意図がすべてそこに含まれていて、だからこそ、何の説明も必要ない。言い訳したり、解説したり、冷静に考えた結果として信念を持って起こした行動を正当化したりするのは、性に合わないんだ。
でも前からずっと、このバンドが終わるときにはそういうわけにいかないだろうと感じていて、最終的にそうなった。バンドの存在においては曖昧でいても、その死に際してはオープンであろうと思う。
明確な行動は真実から生まれるもので、義務感からじゃない。そして実際のところ、僕は君たちひとりひとりを心から愛してる。
だから、君がこれを読んで、少しでも何か、もしくはこの件に関する僕の個人的な思いが明らかになるとしたら、それはここに愛が、お互いに共有の愛があるからで、義務感から書いたものじゃないからだ。
愛。
これがずっと僕の目的だった。
マイ・ケミカル・ロマンス:2001-2013
僕達は素晴らしかった。
どのショウでもそれがわかっていたし、どのショウでも、外部からの承認があろうとなかろうと、そう感じていた。
失敗もいくつかあったし、中古の機材が壊れたり、僕の声が出ないときもあった―それでも僕達は最高だった。僕達を作り上げたのはこの信念だったけど、ほかにもたくさんのことがあって、そのすべてが重要だった―
そして僕達を最高にしたすべてのものこそが、まさに僕達を終わらせようとしていた―
フィクション。摩擦。創作。破壊。反発。攻撃性。野心。ハート。憎しみ。勇気。恨み。美。絶望。愛。恐れ。華やかさ。弱さ。希望。
運命を受け入れること。
この最後のひとつがすごく重要だ。マイ・ケミカル・ロマンスは、核心の部分で、どう転んでも失敗しないようにできていた。決定的な事件が起きたり、または起こらなくなったときに、爆発する最終兵器だ。この“欠点”の自覚を僕はバンドの誕生から数週間のうちにみんなと分かち合っていた。
個人的に、僕はそれを受け入れている。だってこれもやっぱり、僕達を完璧にした要素だから。完璧なマシーン、美しく、自分のシステムを自覚してもいる。障害が起きる前に終結するよう指示されている。アイデア*を守るために―あらゆる代償を払っても。こう言うと、4色刷りのコミックブックのページを破ってきたみたいに聞こえるだろうけど、そこがポイントなんだ。
妥協しない。降伏しない。冗談もなしだ。
僕にとってはそれがロックンロールだ。そして僕はロックンロールを信じている。
僕はこれを誰に対して言うのもためらわなかった、メディアにも、ファンにも、親戚にも。歌詞の中にも、会話にも出てくる。これを口にすると冷笑するジャーナリストをよく見てきた。僕が世間を騒がせようとして、大げさなことを言ってるとでも思っていたんだ(彼らを弁護すると、僕は破れた患者用ガウンを着て、顔を白塗りにして、終末論を唱えるマーチング・バンドのリーダーの格好をしていたんだから、その言い分もわかる)。
僕は今でもその構造が正しく機能したのかどうかわからずにいる。大爆発というより、もっとゆっくりとしたプロセスだったから。それでも結果は同じで、理由も同じだった―
時が来れば、僕達はやめる。
肝心なのは、僕達にとって、その時が来たかどうかの意見はオーディエンスから伝えられるものではないということだ。繰り返しになるけど、これもオーディエンスのためにアイデア*を守りたいからなんだ。多くのバンドが、チケットの売上やチャートの順位、ブーイングとかおしっこが入ったボトルとか、そうやって外部からやめるべき時を告げられるのを待ってきた―僕達はそんなことに影響を受けないし、いずれにしろそうなる頃にはもう手遅れなんだから。
それは自分という存在の内側でわかることだ。自分の中の真実に耳を傾ければいい。そしてそんな内側の声が、音楽よりも大きく聞こえるようになったんだ。
<ここまで書いて一度中断して、僕は昔からの友人の訪問を受けた。みんなこのバンドの始まりに手助けしてくれた人達だ。僕達は昔の思い出話をしたり、音楽の話をしたり、新しいことについて話もした。笑い合って、ダイエットソーダを飲んだ。そして彼らは帰って行って、僕は寝て、次の日に起きてから続きを書くことにした。その続きがこうだ―>
ところで―
マイ・ケミカル・ロマンスが終わったのにはいくつもの理由がある。きっかけになった人は重要じゃない。メッセンジャーが重要じゃないのと同じように、大事なのはメッセージなわけで、この場合もまさにそうだ。でも繰り返すと、これはあくまで僕の意見で、僕の理由で、僕の感情だ。そして断言できる、そこには離婚も、議論も、失敗も、事故も、悪役もなければ、原因になった裏切りもないし、また誰のせいでもなかったわけで、静かに進行していったもので、僕達がそれを自覚していようとなかろうと、どんなセンセーショナルなスキャンダルや噂よりもずっと前に始まったことだった。
弾丸の雨に打たれる輝かしい栄光の瞬間もなかった…
僕はニュージャージーのアスベリー・パークのバックステージにいた。2012年5月19日の土曜日で、ステージへと続く巨大な黒い幕の後ろで行ったり来たりしていた。海からの風を感じながら、自分の腕を見た。僕の両腕はひどいあせものせいでガーゼに覆われていた。原因もわからず数ヵ月前から悩まされていたものだった。普段はショウの前に緊張することはないけれど、この日は確かに胸がざわめくのを感じていた。いつもと違う―奇妙な不安感に襲われていて、死に際に働く第六感としか思えなかった。瞳孔が開いて、まばたきするのをやめていた。体温がどんどん下がっていった。
ステージに出る合図が出た。
ショウの出来は…良かった。最高でもなく、悪くもなく、ただ良かった。僕が最初に気付いて驚いたのは、目の前にいるものすごい数の人々ではなくて、左側に見えた浜辺と、広大な海だった。子供のころの記憶よりもずっと青かった。空もまた明るかった。僕は半自動的にパフォーマンスしていて、何かがおかしかった。
僕は演技していたんだ。僕はステージで演技することは絶対になくて、そう見える時でさえも、大げさに振舞ったり独白を披露したりするときでさえ、演技じゃなかったのに。突然、夢から覚めたみたいに、はっきりと自分を認識できるようになった。もっと速く、もっと必死に、やけを起こしたみたいに動き始めた―なんとか振り切ろうとしながら―でも、どんどん静かになるだけだった。アンプの音が、歓声が、みんな小さくなっていった。
そして心の声だけが残って、はっきりと聞こえた。大声になる必要はなかった―その声はそっとささやいて、簡単に、はっきりと、そしてやさしく―僕にあることを告げた。
何が告げられたのかは、僕とその声の間の秘密だ。
僕はそれを無視した。それからの数ヵ月間は苦しみでしかなかった―僕は空っぽになって、音楽を聴くのをやめて、鉛筆を持つこともなく、昔の悪癖に手を出し始めていた。かつて僕に見えていた活気が全部、薄れていった。失われていった。それまでの僕はあらゆるもの、特に平凡な日常の中に、アートやマジックを見ていた―その力はがれきの下に埋もれてしまった。
ゆっくりと、十分に自分を痛めつけた後で、僕は穴から這い出ようとし始めた。クリーンになって。そして外に出たとき、僕の中に残っていたのはあの声だけだった。そして二度目には、もう無視できなかった―それは僕自身の声だったから。
この終わりにあたって、僕達全員がいくつもの顔を持っている。幸運を祈る人、不幸を願う人、同情する人、悪口を言う人、コメディアン、雨雲、そして犠牲者にも―
ここでもまた、最後のひとつが重要だ。僕は自分が犠牲者だと思ったことは一度もなかった。僕も、僕の仲間も、ファンだってそうだ―特にファンはそうじゃない。僕達が今、自分を犠牲者だとしてしまったら、これまでタブロイドが僕達を告発しようとしてやってきたすべてを認めてしまうことになる。もっと大事なのは、それが完全に的外れだということだ。それなら、僕達は何を学んだんだろう?
敬意と、誠実さと、終焉をもって、そしてほかの誰でもなく自分達の意志で―ドアが閉まる。
そして別のドアが開く―
今朝僕は早起きした。さっと歯を磨いて、だぶだぶのジーンズを履いて、車に飛び乗った。朝もやで煙る405号線を進んで、パロ・ヴェルデにある駐車場に向かった。そこで僕はノームという男性に会うことになっていた。彼は年上で、自分で“ヒッピー”だと言っていたけど、ガレージ・ロック・バンドをやってる16歳みたいにエネルギーにあふれた人だった。彼に会う目的は、アンプを引き取るためだった。最近彼からアンプを買っていて、送るのも手間だからということで―お互いの家から中間のところで会って、直接渡してもらえることになっていた。
1965年のフェンダー・プリンストン・アンプで、リバーブなし。美しい小さなアンプだ。
彼は細かいところ、スピーカーや、非接地のプラグ、オリジナルのラベルに、作った男性か女性が残したチョークのマークを見せてくれた―
「このアンプはしゃべるんだ」と彼は言った。
僕はにっこり笑った。
二人でコーヒーを飲みながら、金箔のピックアップや人生について話をした。車の中でお互いに自分の音楽を聴かせ合ったりもした。それから別れて、連絡を取り合おうと約束して、僕は家に戻った。
マイ・ケミカル・ロマンスを始めたいと思ったとき、僕は実家の地下室に座って、絵筆と引き換えに長い間放っておいた楽器―ギターを手にすることから始めた。そのギターは90年のフェンダー・メキシカン・ストラトキャスターで、色はレイク・プラシッド・ブルーだったけど、若かった僕にはクリーンできれいすぎたから、青の下にある赤が見えるようになるまで傷を付けたりしていた。そしてピック・ガードにダクト・テープを貼ると、いい感じになった。そのギターをディストーションが装備された小さなクレイト・アンプにつないで、“スカイラインズ・アンド・ターンスタイルズ”の最初のコードを弾き始めたんだ。
あのギターは今でも持っていて、プリンストンのアンプの隣に置いてある。
声を持つアンプ。その声が言うことを聞くのが楽しみだ。
最後に、ファンのみんなひとりひとりにお礼を言いたい。僕が君達から学んできたことは、君達が僕から学んだと思うよりももっと多いかもしれない。ひとつだけ残念なのは、僕は人の名前を覚えるのがひどく苦手で、さよならを言うのも苦手だということ。でも顔は絶対に忘れない。そして気持ちも―それこそ僕が君達みんなからもらったものだから。
僕は愛を感じてる。
僕は君達を愛してる、僕達のクルーも、僕達のチームも、そして一緒にバンドをやってステージを共にしてきたひとりひとりを―
レイ。マイキー。フランク。マット。ボブ・ジェームス。トッド。コーテッツ。タッカー。ピート。マイケル。ジャロッド。
僕はさよならを言うのが苦手だから。これをさよならにはしたくない。でも最後にもうひとつだけ―
マイ・ケミカル・ロマンスは終わった。でも決して死にはしない。
それは僕の中で、メンバーの中で生きている。そして君達みんなの中で生きているんだ。
僕はそうなるとずっとわかっていたし、君達だってそうだったと思う。
だってそれはバンドじゃない―
それはアイデア*なんだから。
Love,
Gerard
*本文中の「アイデア(idea)」は、日本語の意味がたくさんあるので、あえてそのままカタカナ表記にしています。。