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日本盤2CD+Blu-rayが本日発売!アルバム楽曲解説、公開中!
2021.6.9
ニュー・オーダーの2CD+Blu-ray『エデュケーション・エンターテイメント・リクリエーション』の日本盤が本日リリースとなりました。2018年11月9日、ロンドンのアレクサンドラ・パレスで行われた、彼らの2018年唯一のライヴをパッケージ化したものです。Blu-rayには、2時間を超えるライヴ映像を収録。大ヒット曲「ブルー・マンデイ」、「リグレット」他から、ジョイ・デイヴィジョン「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」他、そして2015年の『ミュージック・コンプリート』収録曲まで、キャリアを総括する全22曲を収録しています。そして、これらの楽曲に関しての解説を、音楽ライターの油納将志氏にご寄稿いただきました。その原稿は以下に掲載しております。
リヒャルト・ワーグナーによって1854年に作曲され、1869年に初演となった「ラインの黄金」。『ニーベルングの指環』4部作の「序夜」に当たる楽劇で、ゲオルク・ショルティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。『NOMC15』のオープニングでも使われている。観客たちが開演前に目にしているのは『NOMC15』のアートワークにもなったベルリン・オリンピックの金メダリスト、リチャード・デグナーら高飛び込みの選手たち。レニ・リーフェンシュタールの記録映画『美の祭典』などの映像が優雅な調べと共に映し出される。
「シンギュラリティ」
15年以降、ライヴの幕開けを飾るのは『ミュージック・コンプリート』からの3rdシングルとなったこのナンバー。1993年に『リパブリック』を発表してから低迷が続いたが、バンド・サウンドとエレクトロニック・サウンドをシームレスした80年代のニュー・オーダーが蘇ったような躍動感にあふれている。ここでの一体となって前へ推進していく演奏が、ライヴ・バンドとして実りの時期を迎えていることを物語っているようだ。
「リグレット」
メンバー間の葛藤や対立を経て93年に完成した6作目『リパブリック』。その1stシングルであり、ニュー・オーダーというバンドが背負う哀感や喪失感が表出した名曲だ。かつてのリード・ギターのようなベースはバンド全体のアンサンブルから突出することなくバランス良く鳴り響いている。各メンバーの表情や演奏を画面分割で捉えた演出は、93年当時のミュージック・ビデオを彷彿とさせる。
「ラヴ・ヴィジランティス」
1985年発表の3rdアルバム『ロウ・ライフ』の冒頭を飾る曲で、日本ではかつて「愛の自警団」というサブタイトルが付けられていた。バーナードが吹くイントロのメロディカの音色がなんとも印象的であり、エレクトリック・サウンドをほぼ用いることがなかった、当時の彼らとしては異色の楽曲であると言っていい。カヴァーも多く、これまでにアイアン&ワインやダンカン・シーク、スーパーチャンクらが取り上げている。
「ウルトラヴァイオレンス」
ジョイ・ディヴィジョン時代の陰影を受け継いだかのようなナンバーだが、約40年が経過しようとしている現在ではパワフルなファンク・チューンとしてアップデートされている。サブリミナル効果のように楽曲のタイトルが現れ、激しく明滅する照明の中であふれ出す感情を包みながら寡黙に演奏する5人の姿が目に残る。83年発表の2ndアルバム『権力の美学』に収録。
「ディスオーダー」
2017年に開催されたマンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァルで行われた公演は『Σ(No,12k,Lg,17Mif)』』としてリリースされたが、そこで37年ぶりに、ニュー・オーダーとしては初めて演奏されたのが本曲だ。ジョイ・ディヴィジョンの1stアルバム『アンノウン・プレジャーズ』の1曲目として記憶されるこの曲の封印が解かれてからは、ドラムマシーンと誤解されるスティーブン・モリスの正確なドラミングと共にライヴを大きく盛り上げている。
「クリスタル」
泡立つシャンパンを脇に置いて静かに独奏するジリアンを捉えながら幕を開ける、01年リリースの7thアルバム『ゲット・レディー』収録のナンバー。バーナードのギターとピーターのベースが拮抗するようにせめぎ合った曲だが、やはり全体の演奏バランスを重視したアレンジとなっている。スクリーンに投影されるのはこの曲のMVで、ニュー・オーダーに扮した若いバンドがどうなってしまうのかは一部しか映し出されないので、ぜひMVで確認してほしい。
「アカデミック」
『ミュージック・コンプリート』に収録。シングル化はされていないが、リリカルなギターが哀愁を漂わせる佳曲だ。ライヴにこうしたメロディアスな曲を自在に加えられるようになったことも10年代のニュー・オーダーの特色であり、またバンドとしての演奏力が高まったことも物語っている。
「ユア・サイレント・フェイス」
『権力の美学』の中でも一際美しく、深い余韻を与える名曲。本作でもイントロが流れるやいなや、大きな歓声が沸き起こる。ジリアンが弾く荘厳な調べにスティーブンの的確なビート、そしてバーナードのダブを意識したメロディカが重なっていき、美しいサウンドスケープを描いていく。演奏途中でメンバーの名前が表示されるたびに静かな歓声が沸き起こるシーンが印象深い。
「トゥッティ・フルッティ」
『ミュージック・コンプリート』収録曲で、リミキサーのひとりとして石野卓球が起用されたことで日本でも話題を呼んだ。メンバーの背後に『テクニーク』や「ラウンド&ラウンド」を思い出させる彫像が映し出されるのは、この曲がイングランド・ニュー・オーダー名義で同時期に発表された「ワールド・イン・モーション」に通じるところがあると感じたからだろうか。ポジティヴな雰囲気に満ちたダンサンブルなアレンジが、その連想を裏付けるようだ。
「サブ・カルチャー」
「ザ・パーフェクト・キス」と共に『ロウ・ライフ』からシングル・カットされたナンバー。バーナードのヴォーカルだけで構成されたアルバム・ヴァージョンに対して、シングル・ヴァージョンはソウルフルな女性ヴォーカルが加わり、歌詞の一部が変更されている。ライヴではシングル・ヴァージョンが採用されていて、ここでもダンサンブルなアレンジでオーディエンスを大きく盛り上げている。
「ビザール・ラヴ・トライアングル」
ライヴの折り返し地点というだけでなく、彼らにとっても特別な曲を演奏する前に気持ちを整えるために、バーナードはここで初めてMCを入れたように目に映る。86年発表の4thアルバム『ブラザーフッド』からのシングル・カットで、バンド史上最も美しく切ない名曲で、カヴァーするアーティストが今も後を絶たない。バーナードにいきなりマイクを向けられても、しっかり歌えるのはさすがロンドン。
「ヴァ二シング・ポイント」
『テクニーク』はアシッド・ハウス・シーンに呼応したダンス・チューンと、メロディアスなギター・チューンで構成されたアルバムで、この曲はシングル・カットされなかったがどちらの魅力も兼ね備えていると言っていい。89年以降は演奏されることがなかったが、2017年のマンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァル以降は再びレパートリーに復帰した。
「ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」
2005年にリリースされたフック在籍最後となったアルバムの表題曲。ギター・サウンドを前面に押し出した前作『ゲット・レディー』からのスタイルを踏襲しつつ、明るいポップ感が加わったアルバムを象徴する1曲だが、ここではエレクトリックな要素が加わり、ダンサンブルな側面を打ち出したアレンジとなっている。
「プラスティック」
『ミュージック・コンプリート』収録曲で、ラ・ルーことエリー・ジャクソンをフィーチャー。このライヴでも彼女のコーラスが使われている。現メンバーで作り上げた曲だけあってプレイヤーの個性をすくい上げてまとめられているようで、その一体感によるグルーヴがどんどん高まっていく様子に心が躍る。4人時代は個性をぶつけ合って曲を磨き上げてきたが、それぞれの特色を理解しながら曲をまとめ上げていくのが10年代のニュー・オーダーだと言える。
「パーフェクト・キス」
再びバーナードのMC。その後に演奏されるのは、この屈指の名曲だ。バンドが初めてアルバムからシングルをカットした会心の楽曲で、シンセ、ベース、ギターの高揚感あふれるアンサンブルとフレーズがいつまでも耳に残る。2013年発表の『ライヴ・アット・ベスティヴァル 2012』も含め、これまでの3枚のライヴ盤に収められた音源よりも安定かつ密度の高い演奏を繰り広げており、5人体制になってからの成長がはっきりと感じ取れる。
「トゥルー・フェイス」
12インチ・ヴァージョンで構成された初のベスト・アルバム『サブスタンス』の先行シングルとしてリリースされたのが87年。以来、ピーター・サヴィルのアイコニックなアートワークと共にニュー・オーダーを象徴する楽曲として愛され続けている。ライヴではMVでのビンタシーンでおなじみのビートではなく、静かなイントロに導かれるようにテンポアップしていくアレンジとなっており、ドラマチックなエンディングへと流れていく。
「ブルー・マンデイ」
83年発表のオリジナルはさすがに時代を感じさせるが、ライヴでは現代にアップデートされたアップテンポなアレンジで演奏される。この曲を歌いに歌ったバーナードもわざと声を荒げたりと余裕綽々の様子。世界各国の言語の「ブルー」が表示され、歌詞の一部も映し出される映像演出も実に洗練されている。おなじみのバーナードとジリアンの連弾も含め、まさに本ライヴの見せ場であり、ハイライトと言える。
「テンプテーション」
巨大なミラーボールが出現し、心が浮き立つような旋律を奏でるストリングスが流れ始めると大きな歓声と手拍子が。82年にリリースされ、ほぼ40年が経過した今も沸き立つ興奮を抑え切ることができない。エレクトリックでもロックなんだということを雄弁に物語るこの曲に背中を押されたバンドは数知れず。バーナードの「1・2・3・4!」というカウントで興奮は頂点を迎える。
「アトモスフィア」
ジョイ・ディヴィジョンのナンバーによってライヴが締め括られるのが通例となっており、この80年にリリースされた透徹な曲によってアンコールは幕を開ける。88年の再発時にアントン・コービンによって制作されたMVの映像を背にしながら、イアン・カーティスが生きていた証を伝えるように粛々と歌われ、会場に静寂がもたらされる。 「ディケイズ」 イアン・カーティスの死後、80年7月に発表されたアルバム『クローサー』の最後を飾る楽曲。ここでもイアンの遺影が映し出され、バーナードと共になる瞬間に心がざわついてしまう。暗く閉ざされたサウンドが徐々に開かれていき、エモーショナルな大団円を迎えるレクイエムとも言うべき1曲。2018年にこの曲をタイトルにしたニュー・オーダーのドキュメンタリー作品が、本作のディレクターであるマイク・クリスティーによって制作された。
「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」
バーナードがリッケンバッカーを手にした瞬間にフィナーレが訪れたことがわかる。それほどラストに演奏されている、イアンの死の直後である80年6月に発表されたシングル。以前はアップテンポに演奏されて絶叫するように歌われることもあったが、ここ最近はイアンの声に重ね合わせるように丁寧に歌われる。掲げられた“FOREVER JOY DIVISON”というメッセージは、彼らの終わりなき葬送における弔辞なのだ。
油納将志氏による収録曲解説
「Das Rheingold: Vorspiel」リヒャルト・ワーグナーによって1854年に作曲され、1869年に初演となった「ラインの黄金」。『ニーベルングの指環』4部作の「序夜」に当たる楽劇で、ゲオルク・ショルティ指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。『NOMC15』のオープニングでも使われている。観客たちが開演前に目にしているのは『NOMC15』のアートワークにもなったベルリン・オリンピックの金メダリスト、リチャード・デグナーら高飛び込みの選手たち。レニ・リーフェンシュタールの記録映画『美の祭典』などの映像が優雅な調べと共に映し出される。
「シンギュラリティ」
15年以降、ライヴの幕開けを飾るのは『ミュージック・コンプリート』からの3rdシングルとなったこのナンバー。1993年に『リパブリック』を発表してから低迷が続いたが、バンド・サウンドとエレクトロニック・サウンドをシームレスした80年代のニュー・オーダーが蘇ったような躍動感にあふれている。ここでの一体となって前へ推進していく演奏が、ライヴ・バンドとして実りの時期を迎えていることを物語っているようだ。
「リグレット」
メンバー間の葛藤や対立を経て93年に完成した6作目『リパブリック』。その1stシングルであり、ニュー・オーダーというバンドが背負う哀感や喪失感が表出した名曲だ。かつてのリード・ギターのようなベースはバンド全体のアンサンブルから突出することなくバランス良く鳴り響いている。各メンバーの表情や演奏を画面分割で捉えた演出は、93年当時のミュージック・ビデオを彷彿とさせる。
「ラヴ・ヴィジランティス」
1985年発表の3rdアルバム『ロウ・ライフ』の冒頭を飾る曲で、日本ではかつて「愛の自警団」というサブタイトルが付けられていた。バーナードが吹くイントロのメロディカの音色がなんとも印象的であり、エレクトリック・サウンドをほぼ用いることがなかった、当時の彼らとしては異色の楽曲であると言っていい。カヴァーも多く、これまでにアイアン&ワインやダンカン・シーク、スーパーチャンクらが取り上げている。
「ウルトラヴァイオレンス」
ジョイ・ディヴィジョン時代の陰影を受け継いだかのようなナンバーだが、約40年が経過しようとしている現在ではパワフルなファンク・チューンとしてアップデートされている。サブリミナル効果のように楽曲のタイトルが現れ、激しく明滅する照明の中であふれ出す感情を包みながら寡黙に演奏する5人の姿が目に残る。83年発表の2ndアルバム『権力の美学』に収録。
「ディスオーダー」
2017年に開催されたマンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァルで行われた公演は『Σ(No,12k,Lg,17Mif)』』としてリリースされたが、そこで37年ぶりに、ニュー・オーダーとしては初めて演奏されたのが本曲だ。ジョイ・ディヴィジョンの1stアルバム『アンノウン・プレジャーズ』の1曲目として記憶されるこの曲の封印が解かれてからは、ドラムマシーンと誤解されるスティーブン・モリスの正確なドラミングと共にライヴを大きく盛り上げている。
「クリスタル」
泡立つシャンパンを脇に置いて静かに独奏するジリアンを捉えながら幕を開ける、01年リリースの7thアルバム『ゲット・レディー』収録のナンバー。バーナードのギターとピーターのベースが拮抗するようにせめぎ合った曲だが、やはり全体の演奏バランスを重視したアレンジとなっている。スクリーンに投影されるのはこの曲のMVで、ニュー・オーダーに扮した若いバンドがどうなってしまうのかは一部しか映し出されないので、ぜひMVで確認してほしい。
「アカデミック」
『ミュージック・コンプリート』に収録。シングル化はされていないが、リリカルなギターが哀愁を漂わせる佳曲だ。ライヴにこうしたメロディアスな曲を自在に加えられるようになったことも10年代のニュー・オーダーの特色であり、またバンドとしての演奏力が高まったことも物語っている。
「ユア・サイレント・フェイス」
『権力の美学』の中でも一際美しく、深い余韻を与える名曲。本作でもイントロが流れるやいなや、大きな歓声が沸き起こる。ジリアンが弾く荘厳な調べにスティーブンの的確なビート、そしてバーナードのダブを意識したメロディカが重なっていき、美しいサウンドスケープを描いていく。演奏途中でメンバーの名前が表示されるたびに静かな歓声が沸き起こるシーンが印象深い。
「トゥッティ・フルッティ」
『ミュージック・コンプリート』収録曲で、リミキサーのひとりとして石野卓球が起用されたことで日本でも話題を呼んだ。メンバーの背後に『テクニーク』や「ラウンド&ラウンド」を思い出させる彫像が映し出されるのは、この曲がイングランド・ニュー・オーダー名義で同時期に発表された「ワールド・イン・モーション」に通じるところがあると感じたからだろうか。ポジティヴな雰囲気に満ちたダンサンブルなアレンジが、その連想を裏付けるようだ。
「サブ・カルチャー」
「ザ・パーフェクト・キス」と共に『ロウ・ライフ』からシングル・カットされたナンバー。バーナードのヴォーカルだけで構成されたアルバム・ヴァージョンに対して、シングル・ヴァージョンはソウルフルな女性ヴォーカルが加わり、歌詞の一部が変更されている。ライヴではシングル・ヴァージョンが採用されていて、ここでもダンサンブルなアレンジでオーディエンスを大きく盛り上げている。
「ビザール・ラヴ・トライアングル」
ライヴの折り返し地点というだけでなく、彼らにとっても特別な曲を演奏する前に気持ちを整えるために、バーナードはここで初めてMCを入れたように目に映る。86年発表の4thアルバム『ブラザーフッド』からのシングル・カットで、バンド史上最も美しく切ない名曲で、カヴァーするアーティストが今も後を絶たない。バーナードにいきなりマイクを向けられても、しっかり歌えるのはさすがロンドン。
「ヴァ二シング・ポイント」
『テクニーク』はアシッド・ハウス・シーンに呼応したダンス・チューンと、メロディアスなギター・チューンで構成されたアルバムで、この曲はシングル・カットされなかったがどちらの魅力も兼ね備えていると言っていい。89年以降は演奏されることがなかったが、2017年のマンチェスター・インターナショナル・フェスティヴァル以降は再びレパートリーに復帰した。
「ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール」
2005年にリリースされたフック在籍最後となったアルバムの表題曲。ギター・サウンドを前面に押し出した前作『ゲット・レディー』からのスタイルを踏襲しつつ、明るいポップ感が加わったアルバムを象徴する1曲だが、ここではエレクトリックな要素が加わり、ダンサンブルな側面を打ち出したアレンジとなっている。
「プラスティック」
『ミュージック・コンプリート』収録曲で、ラ・ルーことエリー・ジャクソンをフィーチャー。このライヴでも彼女のコーラスが使われている。現メンバーで作り上げた曲だけあってプレイヤーの個性をすくい上げてまとめられているようで、その一体感によるグルーヴがどんどん高まっていく様子に心が躍る。4人時代は個性をぶつけ合って曲を磨き上げてきたが、それぞれの特色を理解しながら曲をまとめ上げていくのが10年代のニュー・オーダーだと言える。
「パーフェクト・キス」
再びバーナードのMC。その後に演奏されるのは、この屈指の名曲だ。バンドが初めてアルバムからシングルをカットした会心の楽曲で、シンセ、ベース、ギターの高揚感あふれるアンサンブルとフレーズがいつまでも耳に残る。2013年発表の『ライヴ・アット・ベスティヴァル 2012』も含め、これまでの3枚のライヴ盤に収められた音源よりも安定かつ密度の高い演奏を繰り広げており、5人体制になってからの成長がはっきりと感じ取れる。
「トゥルー・フェイス」
12インチ・ヴァージョンで構成された初のベスト・アルバム『サブスタンス』の先行シングルとしてリリースされたのが87年。以来、ピーター・サヴィルのアイコニックなアートワークと共にニュー・オーダーを象徴する楽曲として愛され続けている。ライヴではMVでのビンタシーンでおなじみのビートではなく、静かなイントロに導かれるようにテンポアップしていくアレンジとなっており、ドラマチックなエンディングへと流れていく。
「ブルー・マンデイ」
83年発表のオリジナルはさすがに時代を感じさせるが、ライヴでは現代にアップデートされたアップテンポなアレンジで演奏される。この曲を歌いに歌ったバーナードもわざと声を荒げたりと余裕綽々の様子。世界各国の言語の「ブルー」が表示され、歌詞の一部も映し出される映像演出も実に洗練されている。おなじみのバーナードとジリアンの連弾も含め、まさに本ライヴの見せ場であり、ハイライトと言える。
「テンプテーション」
巨大なミラーボールが出現し、心が浮き立つような旋律を奏でるストリングスが流れ始めると大きな歓声と手拍子が。82年にリリースされ、ほぼ40年が経過した今も沸き立つ興奮を抑え切ることができない。エレクトリックでもロックなんだということを雄弁に物語るこの曲に背中を押されたバンドは数知れず。バーナードの「1・2・3・4!」というカウントで興奮は頂点を迎える。
「アトモスフィア」
ジョイ・ディヴィジョンのナンバーによってライヴが締め括られるのが通例となっており、この80年にリリースされた透徹な曲によってアンコールは幕を開ける。88年の再発時にアントン・コービンによって制作されたMVの映像を背にしながら、イアン・カーティスが生きていた証を伝えるように粛々と歌われ、会場に静寂がもたらされる。 「ディケイズ」 イアン・カーティスの死後、80年7月に発表されたアルバム『クローサー』の最後を飾る楽曲。ここでもイアンの遺影が映し出され、バーナードと共になる瞬間に心がざわついてしまう。暗く閉ざされたサウンドが徐々に開かれていき、エモーショナルな大団円を迎えるレクイエムとも言うべき1曲。2018年にこの曲をタイトルにしたニュー・オーダーのドキュメンタリー作品が、本作のディレクターであるマイク・クリスティーによって制作された。
「ラヴ・ウィル・テア・アス・アパート」
バーナードがリッケンバッカーを手にした瞬間にフィナーレが訪れたことがわかる。それほどラストに演奏されている、イアンの死の直後である80年6月に発表されたシングル。以前はアップテンポに演奏されて絶叫するように歌われることもあったが、ここ最近はイアンの声に重ね合わせるように丁寧に歌われる。掲げられた“FOREVER JOY DIVISON”というメッセージは、彼らの終わりなき葬送における弔辞なのだ。