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にしな | 「スローモーション」オフィシャルインタビュー
2022.1.27
―2021年はにしなさんにとってどんな一年でしたか?
2021年はアルバムを出したり、ワンマンをやったり、フェスに出たり、初めてのことだらけでした。その分不安も大きかったし、葛藤する面もあったんですけど、でも振り返るとあっという間に過ぎていったので、充実してたんだなって思える一年でした。
―楽曲の配信は2020年から始まっていたわけですけど、本格的な活動が始まったのは去年だったわけですよね。そんな中で「にしな」というアーティスト像について、改めて考えたり、気づいたりすることも多かったのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
自分の得意分野はミニマムな世界を捉えて、物語に入っていけるような歌詞の書き方をすることだと思っていて。もちろん、そこは今も変わらずに自分の強みだと思ってるんですけど、2021年はタイアップの楽曲を作らせていただいたりもして、なにか力添えできるような音楽を作ろうと思うと、また全然違う世界が開けてきたというか。ミニマムな世界だけじゃなくて、もっと大きな世界を捉えることもできるかもしれないっていうのは、ひとつの気づきとしてありました。それによって、私の中で「にしな」というものが壊れるというか、いい意味で、形がなくなっていったと思います。
―自分で自分の範囲を決めてしまっていたけど、それが壊れて、可能性が広がったと。
そうですね。2021年の始まりの頃は特に、周りのみんながどういう「にしな」であってほしかっていうことをすごく考えていたし、「こうであった方がいいんじゃないか」とか考えて、すごく悩んでいたんです。でも、それだと自分が疲れちゃうし、周りの人とコミュニケーションをする中で出てくる自然な自分を好きだと言ってくれる人もいたので、あまり捉われ過ぎないようにしようって、一年を通して思うようになりました。
―実際タイアップでの楽曲作りはにしなさんにとって大変な作業でしたか? それとも、お題やテーマがあった方が作りやすかったりもしましたか?
大変ではあったんですけど……たとえば、“U+”を作ったときは、クリエイティブのチームの方々がすごく熱を持っていて。一人だと「世間に訴えかけよう」みたいな感情にはなかなかなれないですけど、“U+”のときは「多様性」というテーマがあって、「ポップだけど、訴えかけられるようなCMを作りたい」というお話だったので、自分の中からだけでは出てこない情熱が加わって。なので、大変は大変だったんですけど、力がプラスされる感じもすごくありました。普段は一人だけど、「チームプレイ」みたいな気持ちになって、少しでも協力し合ってよいものにしたいっていう想いが、よりいい効果を生み出してくれたんじゃないかと思います。
―新曲の“スローモーション”はもともと持っているにしなさんらしさ、「ミニマムな世界」を捉えた楽曲だと思いますが、どんなアイデアから作られたのでしょうか?
書き始めたきっかけとしては、椎名林檎さんの“ギブス”が好きで、ああいう雰囲気を持った曲を書きたいと思ったんです。なので、まず“ギブス”を書き起こすみたいなことをやって、その形になぞらえて作っていきました。歌詞はもともと全然違う感じで、音でハメてたんですけど、サビ頭は変わらず最初からこうだった気がします。
―言われてみれば、<I’m singing love for you>というサビ頭は、“ギブス”の<I 罠 B wiΘ U>を連想させますね。
曲のアイデアが普段の生活の中から出てくることもあれば、「作ろう」っていう意識で作ることもあって、この曲は“ギブス”がヒントだったんです。もちろん、なぞらえたのはあくまで雰囲気と構成で、歌詞は意識し過ぎず、書きたいように書きました。
―アレンジは以前“ヘビースモーク”も手掛けているトオミヨウさんですね。
この曲は椎名さんのイメージと、あと宇多田ヒカルさんの打ち込み感のイメージも最初からあったので、お二人の真ん中に落とし込みたいっていうのを最初にトオミさんにお伝えして。そのうえで、一回一緒にスタジオに入って、お互いのチューニングを合わせながら、作り上げていった感じでした。
―前作“夜になって”のアレンジを手掛けた横山裕章さんについては、「J-POPが得意な方」「ど真ん中に投げ込みたいときに信頼して預けられる方」とおっしゃっていましたが、トオミさんにはどんな印象を持っていますか?
トオミさんもJ-POPのイメージがあって、ど真ん中もお願いできる人なんですけど、いい意味で、想像もしないところに行きつく人でもあるというか、遊んでほしいときもトオミさんだったら大丈夫っていうイメージがあります。今回はもともとのデモの時点ではもうちょっと爽やかで疾走感があったんですけど、もっとドロドロした感じを残したくて、そこにはすごくこだわりました。
―トオミさんは歌謡曲のドロッとした雰囲気を残しつつ、それを現代的なサウンドに更新するのが上手な方という印象があるので、今回の曲にはぴったりだったように思います。ちなみに、アレンジはもちろん一曲一曲に対して考えると思うんですけど、全体的な方向性として、今のにしなさんはどんな曲調・サウンド感を目指していると言えますか?
今おっしゃっていただいた「歌謡曲っぽさ」っていうのはひとつありますね。あとは「遊びに振り切ってみる」みたいなのも最近好きかもしれないです。それが自分に合ってるというよりは、振り切ってみたい気持ちがあって、ちょうど今作ってる曲も「気持ち悪いけど可愛い」みたいな曲だったりして。あとは、ほんのりロックっぽさを、ざらついた感じを残したいっていうのもあるかもしれない。
―そこはやっぱり2021年からライブを始めたことが大きくて、バンドで鳴らすのをイメージするようになったわけですか?
ああ、そうかもしれないです。すごく意識的にそう考えてたわけではないんですけど、でも確かにライブは大きいですね。ライブをやるようになって、音作りというよりも、曲の世界観として、「どういうステージになるかな?」っていうのを考えるようになったので、そこがアレンジにも関係してるかもしれないですね。
―“スローモーション”の歌詞についてはどんなイメージで書いていったのでしょうか?
この曲の根本的なテーマとしては、恋愛以外も含めて、「わかり合いたい」みたいな部分が強くあって。内容的には、カップルの片方が相手に裏切られて、悲しくて、その気持ちをわかってほしいんだけど、でも言葉で伝えようとしても本当の意味でその感情はわからないじゃないですか? だから、あなたがしたのと同じことを私もして、同じ気持ちを共有しようっていう歌詞で。その考え方はちょっとずれてるけど、純粋と言えば純粋な感情だと思うんですよね。なので、ちょっとドロドロした雰囲気があるけど、でもポップな曲にはしたくて、それでサビのアタマを英語と中国語にしたりしました。
―何とかして「わかり合いたい」という気持ち、逆に言うと、「わかり合う」ということがいかに難しいかというのは、にしなさんの楽曲の大きなテーマですよね。“ヘビースモーク”や“夜になって”もそうだったと思うし。
私は結構ひねくれてるので(笑)、常にそう思ってるのかもしれないです。「わかってる」って言われても、「わかってないじゃん」って思っちゃうし、でもそれを口にはしないから、なかなか伝わらない。でも「どうせわかんないじゃん!」と言いながら、「わかってるよ」って言い続けてほしい気持ちもあったり……常日頃どこかでそういうことを感じていて、それが歌詞にも出てるんだと思います。
―その相反する気持ちの摩擦が、ざらついたサウンドともリンクするのかもしれないですね。“スローモーション”というタイトルに関しては、<愛し合えば誰しもがスローモーション>という歌詞もありますが、なぜこの言葉を使ったのでしょうか?
語感がハマったっていうのが一番の理由ではあるんですけど、イメージとしては、お花が入った花瓶が落ちて割れるときに、すごくスローモーションに見える、みたいなことあるじゃないですか? 激情的な感情であればあるほど、実はゆっくり見えるっていうか、そういうイメージがこの曲には合うと思ったんです。
―個人的には<正しさをなくした夜に花を>とか<正しさなど今更意味をなさない>という歌詞が印象的で、「正しさ」を問う曲でもあると思って。今ってSNSでも何でも「正しさ」の押しつけが横行してる気がして、この曲の主人公がしていることは一般的には「正しくない」ことなのかもしれないけど、でもその真っ直ぐな気持ちは誰も否定することができない。そういう想いの強さを歌った曲でもあると思いました。
そう言ってもらえるのは嬉しいです。考えれば考えるほど、何が正しいのかっていうのはわからなくなっていくものだと思うんですよね。ちょっと話がそれるかもしれないですけど、昔スタッフさんに「君はまだ心のブレーキがかかってるよ」って言われてたんです。ミュージシャンはステージに立ってパフォーマンスをするときに、そのブレーキが外れる瞬間があって、そのときにすごくいいパフォーマンスができるっていうことは確かにあると思っていて。「これを言ったら相手が傷つく」っていうのもひとつのブレーキだと思うけど、それを言うことが相手の役に立つこともあるかもしれない。ミュージシャンって、楽曲やパフォーマンスによって、いろんなブレーキを外せる職業なのかもなって。
―2022年はどんな一年にしたいと考えていますか?
まずは東京と大阪でワンマンが決まっているので、もちろんそれはすごく嬉しいんですけど、でもまだ行けてない場所の方が多いので……コロナがどれくらいライブを許してくれるのかまだわからないですけど、まだ行けてないところに行って、お客さんと実際に会って、そこで音楽をしたいなっていうのはすごく思います。なので、いろんなところにライブをしに行ける一年になったらなって、それが一番大きいですね。
―あらためて、にしなさんにとっての「ライブ」とは?
音楽をする中で一番好きな瞬間かもしれないです。「ありのままに」みたいな、一番心が開いてる瞬間かもしれない。ステージに立っていろんな人から見られるっていうのは、一番人の目を気にする瞬間のようにも思うけど、でも意外と一番気にしてないかもしれないなって。なんていうか……ライブのときは己の中から向き合えてる気がするんですよね(笑)。普段だと、自分で自分を客観的に見ちゃってるときないですか? 「私今こんな顔してるかも」とか。でもライブ中は「伝えよう」っていう意識が強いからなのか、客観的な目線が消えていって。それは大きいですね。
―昨年6月の初ワンマン以降では、何かライブに対する意識の変化はありますか?
いろいろ変わってきてるとは思うんですけど、逆にずっと変わらないのは、毎回のライブの度に「今日を一番いい日にしよう」ってすごく思っていることで。現状維持ではなく、毎回記録を更新するような気持ちで挑んでいて、そこはずっと変わってないですね。その分、ときどき自分を追いこんじゃうときもあるけど、ステージに立つとバンドのメンバーがいて、「この人たちと一緒に楽しもう」っていう気持ちになれる。そういう意識は前よりも増した気がします。
―にしなさんはこれまで「わかり合いたい」という気持ちや、「自分自身であること」を大切に歌ってきていると思いますが、今後はどんなことを歌っていきたいですか?
最近すごく考えるのが、最果てがどこにあるかって、自分の一番近くにあるんじゃないかと思っていて。宇宙のことを知りたかったら、地球の中心部に近づくことが大事だそうなんです。たとえば、戦争がなぜ起こるかって、結局人間同士の戦いなわけだから、みんながみんな自分の中を掘り下げたら、人間のことがよく理解できて、もしかしたら、戦争にはならないかもしれない。「多様性」っていうものも、突き詰めたら自分自身の中にあるのかもしれない。大きく世界を捉えたいからこそ、ちゃんと自分自身と向き合う一年にできたらなっていうのはすごく思います。メンタルが落ちない程度にちゃんと自分と向き合って、そのうえで、楽しくいろんな人とコミュニケーションを取りながら、作品作りをしていけたらいいなって思いますね。
2021年はアルバムを出したり、ワンマンをやったり、フェスに出たり、初めてのことだらけでした。その分不安も大きかったし、葛藤する面もあったんですけど、でも振り返るとあっという間に過ぎていったので、充実してたんだなって思える一年でした。
―楽曲の配信は2020年から始まっていたわけですけど、本格的な活動が始まったのは去年だったわけですよね。そんな中で「にしな」というアーティスト像について、改めて考えたり、気づいたりすることも多かったのではないかと思いますが、いかがでしょうか?
自分の得意分野はミニマムな世界を捉えて、物語に入っていけるような歌詞の書き方をすることだと思っていて。もちろん、そこは今も変わらずに自分の強みだと思ってるんですけど、2021年はタイアップの楽曲を作らせていただいたりもして、なにか力添えできるような音楽を作ろうと思うと、また全然違う世界が開けてきたというか。ミニマムな世界だけじゃなくて、もっと大きな世界を捉えることもできるかもしれないっていうのは、ひとつの気づきとしてありました。それによって、私の中で「にしな」というものが壊れるというか、いい意味で、形がなくなっていったと思います。
―自分で自分の範囲を決めてしまっていたけど、それが壊れて、可能性が広がったと。
そうですね。2021年の始まりの頃は特に、周りのみんながどういう「にしな」であってほしかっていうことをすごく考えていたし、「こうであった方がいいんじゃないか」とか考えて、すごく悩んでいたんです。でも、それだと自分が疲れちゃうし、周りの人とコミュニケーションをする中で出てくる自然な自分を好きだと言ってくれる人もいたので、あまり捉われ過ぎないようにしようって、一年を通して思うようになりました。
―実際タイアップでの楽曲作りはにしなさんにとって大変な作業でしたか? それとも、お題やテーマがあった方が作りやすかったりもしましたか?
大変ではあったんですけど……たとえば、“U+”を作ったときは、クリエイティブのチームの方々がすごく熱を持っていて。一人だと「世間に訴えかけよう」みたいな感情にはなかなかなれないですけど、“U+”のときは「多様性」というテーマがあって、「ポップだけど、訴えかけられるようなCMを作りたい」というお話だったので、自分の中からだけでは出てこない情熱が加わって。なので、大変は大変だったんですけど、力がプラスされる感じもすごくありました。普段は一人だけど、「チームプレイ」みたいな気持ちになって、少しでも協力し合ってよいものにしたいっていう想いが、よりいい効果を生み出してくれたんじゃないかと思います。
―新曲の“スローモーション”はもともと持っているにしなさんらしさ、「ミニマムな世界」を捉えた楽曲だと思いますが、どんなアイデアから作られたのでしょうか?
書き始めたきっかけとしては、椎名林檎さんの“ギブス”が好きで、ああいう雰囲気を持った曲を書きたいと思ったんです。なので、まず“ギブス”を書き起こすみたいなことをやって、その形になぞらえて作っていきました。歌詞はもともと全然違う感じで、音でハメてたんですけど、サビ頭は変わらず最初からこうだった気がします。
―言われてみれば、<I’m singing love for you>というサビ頭は、“ギブス”の<I 罠 B wiΘ U>を連想させますね。
曲のアイデアが普段の生活の中から出てくることもあれば、「作ろう」っていう意識で作ることもあって、この曲は“ギブス”がヒントだったんです。もちろん、なぞらえたのはあくまで雰囲気と構成で、歌詞は意識し過ぎず、書きたいように書きました。
―アレンジは以前“ヘビースモーク”も手掛けているトオミヨウさんですね。
この曲は椎名さんのイメージと、あと宇多田ヒカルさんの打ち込み感のイメージも最初からあったので、お二人の真ん中に落とし込みたいっていうのを最初にトオミさんにお伝えして。そのうえで、一回一緒にスタジオに入って、お互いのチューニングを合わせながら、作り上げていった感じでした。
―前作“夜になって”のアレンジを手掛けた横山裕章さんについては、「J-POPが得意な方」「ど真ん中に投げ込みたいときに信頼して預けられる方」とおっしゃっていましたが、トオミさんにはどんな印象を持っていますか?
トオミさんもJ-POPのイメージがあって、ど真ん中もお願いできる人なんですけど、いい意味で、想像もしないところに行きつく人でもあるというか、遊んでほしいときもトオミさんだったら大丈夫っていうイメージがあります。今回はもともとのデモの時点ではもうちょっと爽やかで疾走感があったんですけど、もっとドロドロした感じを残したくて、そこにはすごくこだわりました。
―トオミさんは歌謡曲のドロッとした雰囲気を残しつつ、それを現代的なサウンドに更新するのが上手な方という印象があるので、今回の曲にはぴったりだったように思います。ちなみに、アレンジはもちろん一曲一曲に対して考えると思うんですけど、全体的な方向性として、今のにしなさんはどんな曲調・サウンド感を目指していると言えますか?
今おっしゃっていただいた「歌謡曲っぽさ」っていうのはひとつありますね。あとは「遊びに振り切ってみる」みたいなのも最近好きかもしれないです。それが自分に合ってるというよりは、振り切ってみたい気持ちがあって、ちょうど今作ってる曲も「気持ち悪いけど可愛い」みたいな曲だったりして。あとは、ほんのりロックっぽさを、ざらついた感じを残したいっていうのもあるかもしれない。
―そこはやっぱり2021年からライブを始めたことが大きくて、バンドで鳴らすのをイメージするようになったわけですか?
ああ、そうかもしれないです。すごく意識的にそう考えてたわけではないんですけど、でも確かにライブは大きいですね。ライブをやるようになって、音作りというよりも、曲の世界観として、「どういうステージになるかな?」っていうのを考えるようになったので、そこがアレンジにも関係してるかもしれないですね。
―“スローモーション”の歌詞についてはどんなイメージで書いていったのでしょうか?
この曲の根本的なテーマとしては、恋愛以外も含めて、「わかり合いたい」みたいな部分が強くあって。内容的には、カップルの片方が相手に裏切られて、悲しくて、その気持ちをわかってほしいんだけど、でも言葉で伝えようとしても本当の意味でその感情はわからないじゃないですか? だから、あなたがしたのと同じことを私もして、同じ気持ちを共有しようっていう歌詞で。その考え方はちょっとずれてるけど、純粋と言えば純粋な感情だと思うんですよね。なので、ちょっとドロドロした雰囲気があるけど、でもポップな曲にはしたくて、それでサビのアタマを英語と中国語にしたりしました。
―何とかして「わかり合いたい」という気持ち、逆に言うと、「わかり合う」ということがいかに難しいかというのは、にしなさんの楽曲の大きなテーマですよね。“ヘビースモーク”や“夜になって”もそうだったと思うし。
私は結構ひねくれてるので(笑)、常にそう思ってるのかもしれないです。「わかってる」って言われても、「わかってないじゃん」って思っちゃうし、でもそれを口にはしないから、なかなか伝わらない。でも「どうせわかんないじゃん!」と言いながら、「わかってるよ」って言い続けてほしい気持ちもあったり……常日頃どこかでそういうことを感じていて、それが歌詞にも出てるんだと思います。
―その相反する気持ちの摩擦が、ざらついたサウンドともリンクするのかもしれないですね。“スローモーション”というタイトルに関しては、<愛し合えば誰しもがスローモーション>という歌詞もありますが、なぜこの言葉を使ったのでしょうか?
語感がハマったっていうのが一番の理由ではあるんですけど、イメージとしては、お花が入った花瓶が落ちて割れるときに、すごくスローモーションに見える、みたいなことあるじゃないですか? 激情的な感情であればあるほど、実はゆっくり見えるっていうか、そういうイメージがこの曲には合うと思ったんです。
―個人的には<正しさをなくした夜に花を>とか<正しさなど今更意味をなさない>という歌詞が印象的で、「正しさ」を問う曲でもあると思って。今ってSNSでも何でも「正しさ」の押しつけが横行してる気がして、この曲の主人公がしていることは一般的には「正しくない」ことなのかもしれないけど、でもその真っ直ぐな気持ちは誰も否定することができない。そういう想いの強さを歌った曲でもあると思いました。
そう言ってもらえるのは嬉しいです。考えれば考えるほど、何が正しいのかっていうのはわからなくなっていくものだと思うんですよね。ちょっと話がそれるかもしれないですけど、昔スタッフさんに「君はまだ心のブレーキがかかってるよ」って言われてたんです。ミュージシャンはステージに立ってパフォーマンスをするときに、そのブレーキが外れる瞬間があって、そのときにすごくいいパフォーマンスができるっていうことは確かにあると思っていて。「これを言ったら相手が傷つく」っていうのもひとつのブレーキだと思うけど、それを言うことが相手の役に立つこともあるかもしれない。ミュージシャンって、楽曲やパフォーマンスによって、いろんなブレーキを外せる職業なのかもなって。
―2022年はどんな一年にしたいと考えていますか?
まずは東京と大阪でワンマンが決まっているので、もちろんそれはすごく嬉しいんですけど、でもまだ行けてない場所の方が多いので……コロナがどれくらいライブを許してくれるのかまだわからないですけど、まだ行けてないところに行って、お客さんと実際に会って、そこで音楽をしたいなっていうのはすごく思います。なので、いろんなところにライブをしに行ける一年になったらなって、それが一番大きいですね。
―あらためて、にしなさんにとっての「ライブ」とは?
音楽をする中で一番好きな瞬間かもしれないです。「ありのままに」みたいな、一番心が開いてる瞬間かもしれない。ステージに立っていろんな人から見られるっていうのは、一番人の目を気にする瞬間のようにも思うけど、でも意外と一番気にしてないかもしれないなって。なんていうか……ライブのときは己の中から向き合えてる気がするんですよね(笑)。普段だと、自分で自分を客観的に見ちゃってるときないですか? 「私今こんな顔してるかも」とか。でもライブ中は「伝えよう」っていう意識が強いからなのか、客観的な目線が消えていって。それは大きいですね。
―昨年6月の初ワンマン以降では、何かライブに対する意識の変化はありますか?
いろいろ変わってきてるとは思うんですけど、逆にずっと変わらないのは、毎回のライブの度に「今日を一番いい日にしよう」ってすごく思っていることで。現状維持ではなく、毎回記録を更新するような気持ちで挑んでいて、そこはずっと変わってないですね。その分、ときどき自分を追いこんじゃうときもあるけど、ステージに立つとバンドのメンバーがいて、「この人たちと一緒に楽しもう」っていう気持ちになれる。そういう意識は前よりも増した気がします。
―にしなさんはこれまで「わかり合いたい」という気持ちや、「自分自身であること」を大切に歌ってきていると思いますが、今後はどんなことを歌っていきたいですか?
最近すごく考えるのが、最果てがどこにあるかって、自分の一番近くにあるんじゃないかと思っていて。宇宙のことを知りたかったら、地球の中心部に近づくことが大事だそうなんです。たとえば、戦争がなぜ起こるかって、結局人間同士の戦いなわけだから、みんながみんな自分の中を掘り下げたら、人間のことがよく理解できて、もしかしたら、戦争にはならないかもしれない。「多様性」っていうものも、突き詰めたら自分自身の中にあるのかもしれない。大きく世界を捉えたいからこそ、ちゃんと自分自身と向き合う一年にできたらなっていうのはすごく思います。メンタルが落ちない程度にちゃんと自分と向き合って、そのうえで、楽しくいろんな人とコミュニケーションを取りながら、作品作りをしていけたらいいなって思いますね。