杉本琢弥
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「37.2度」オフィシャルインタビュー公開!
2024.5.27
杉本琢弥『37.2度』すべての人に届けたいバラードで勝負に
シンガーソングライターの杉本琢弥が、ソロアーティストとしてのメジャー3rdシングル『37.2度』をリリースする。表題作は男女両方の気持ちを歌うバラードで、優しい歌声といじらしい歌詞が魅力。他にも話題の連続ドラマ「買われた男」主題歌に抜擢された「B.B.Q.」や、王道ポップロックの「Starting Over」など、タイプの異なる個性的な楽曲たちが収められ、ダンス&ボーカルグループ・BLACK IRISとしての活動をいったん休止してソロ活動に専念し始めた彼の才能が垣間見える作品に仕上がった。杉本は「熊本の彼氏」としてもTikTokで約96万人にフォローされているが、彼のより本質的なアーティストとしての側面を深堀りすべく、今作の制作過程と狙いを聞いた。
取材・文:山田宗太朗
チームで作った「37.2度」
ーーソロデビューして1年が経ちました。何か変化はありましたか?
芸能界で仲良くしてくださる方が増えたり、地方に行った時に声をかけていただく機会が増えたりして、いろんな人が知ってくださっていることを感じています。制作においてもたくさんの方が関わってくれて、みんなで一緒に僕の音楽を作ってくれている感じがしてありがたいです。事務所もレーベルも、今僕がやりたい音楽をやらせてくれるので。
ーーそういった中で生まれたメジャー3枚目のシングル『37.2度』ですが、まずは表題作について聞かせてください。
これまでの2枚はどちらかというとアップテンポな曲で、BLACK IRISで発表してきた曲もアップテンポなものが主体でした。ダンス&ボーカルグループの事務所なので、表題曲はどうしてもパンチのある楽曲になりがちなんです。それが今回はバラードで勝負できる。そこに僕の好きなチルっぽさを掛け合わせ、今のティーンの恋愛感や普遍的な男女の気持ちなどを投影し、性別や年齢問わず、すべての人がターゲットになる楽曲にしました。
ーー タイトルの読み方が「びねつ」なのはなぜでしょうか?
実はこの曲はタイトルから先に考えたんです。というのも、メジャー1stシングル「おにぎり」のように、キャッチーで目を惹く楽曲にしたかったからです。そこで、マネージャーやプロデューサー、レーベルの担当者など、チームのみんなで30以上ものアイデアを出し合って決まったのがこのタイトルでした。正確に言えば、最初は「37.2度〜微熱〜」というタイトルで、その後、「37.2度」と書いて「びねつ」と読ませることにしました。今後新たに僕を知ってくれた人に対してファンの子が「それ『びねつ』って読むんだよ」と言えるような、そういうお得感を積ませてあげたくて。そうしてタイトルが決まってから、どんな曲にするか考えていきました。
ーー曲の内容を考える前にタイトルが決まったんですか? そんなやり方があるんですね。
そうなんです。だから最初はみんな違うカラーや世界観をイメージしいていたかもしれません。だけど僕にとってこのやり方は慣れていたんです。普段のTikTokでも設定だけ決めて、台本なしでその場で内容を考えていたので。
ーー「熊本の彼氏」が台本なし? あれはアドリブだったんですか!
そうなんです。「実は元ヤンだった熊本の彼氏」みたいにわかりやすい設定だけを決めて、あとはその場で作っていたんですね。これってつまり、タイトルから作っているわけですよね。だから普段やっていることが今回の制作に活きたと思います。そうして「微熱という嘘をついてでも会う口実を作っている女の子と、それに気づいているのに気づかないふりをしてあげている男の子」のストーリーを作り、サウンドも作っていきました。
たくさんの人にカバーしてほしい
ーー37.1度でも37.3度でもなく、37.2度だったのは?
保健室で学校から家に帰してもらえるギリギリのラインかなと思ったんです。37度でもたぶん帰してはくれるけれど、37.2度は絶対帰りなさいのラインかなと。平熱が低い人にとってはこれ以上高いと微熱ではなくなってしまうかもしれないし。
ーー男性目線と女性目線の両方を入れたのはなぜですか?
1番の歌詞を女性目線で書いた後、2番の歌詞を考えている最中に出てきたのが、女の子に対する自分なりの答えだったんです。全部女性目線の歌詞にしてもいいけれど、男性目線を入れたら、彼女持ちの男性が共感できるかもしれないですよね。いろんな人がカバーできる楽曲にしたい思いがあったので、男女両方がカバーできる内容にして、それに合わせてキーも男女どちらでも歌いやすいようにしました。いずれ僕の歌が広がった先のことを考えて、この歌詞、このメロディー、このキーにしたんです。
ーーたくさんの人に歌ってほしいんですね。「歌えるもんなら歌ってみろ」みたいな気持ちではなく。
それも少し考えました。「この人が歌うからこそ良い」みたいな楽曲もありますよね。でも、たとえば「おにぎり」は、男の子にとっては歌うのが難しかったと思うんです。だから今回はもう少し歌いやすいキーにしたかったし、自分以外の人が歌ってもうまく聴こえる曲にしたかったんです。それに、時代を超えて歌い継がれている曲ってみんなが歌えるキーの曲が多いですよね。そうやっていろんな人にカバーされたり、カラオケで歌われたりしたかったんです。顔出ししていない女の子が暗い部屋で逆光の中で歌っているイメージや、カラオケで顔を出さずに画面だけで歌っているイメージも浮かんだんですよね。
ーーなるほど。そこまで考えるものなんですね。細かい質問ですが、「ポカリとグミ」にしたのはなぜなんでしょう?
風邪を引いた時に自分が欲しいものだったのと、ワードのかわいさで選びました。まずポカリが思い浮かんで、もうひとつ何にするかは結構考えたんです。ワードそのもののかわいらしさ、それほど高いものを要求しないかわいらしさ、それから、音としても耳に残る破裂音が欲しくてゼリーやプリンも候補に入れて、トータルで考えてグミがいちばんふさわしいと思ったんです。ふたつのものにしたのは、「〇〇がほしい」より「〇〇も〇〇もほしいけれど、やっぱりあなたがいちばんほしい」にしたほうが気持ちが伝わると思ったからです。
ーー編曲はyonawoのyuya saitoさんが担当していますね。
普段、Logicを使って打ち込みで作曲しているんですが、この曲のように音数が少ない場合はプロの力を借りたいと思っていました。ただし自分の中にすでにはっきりとしたメロディがあったし、ドラムのローの低さや裏で鳴っているオルガンのふわっとした感じなど細かい部分も頭にあったので、「ここはこういう音でお願いします」と細かくお願いして、リファレンスもお伝えました。そうしたらyuyaさんが出してきてくれたものが僕の世界観とぴったり一致して。「これで! 残り全部お願いします!」という感じでスムーズに進みました。またぜひお願いしたいです。
未来の視点を持たなければならないと思っている
ーー「B.B.Q.」はDRAMA ADDICT「買われた男」のオープニングテーマです。
この曲はトラックとトップラインとサビの「B.B.Q.」だけは、ドラマのお話をいただく前にできていました。それをプロデューサーさんが聴いてくださって主題歌になったという流れです。作り始めた段階ではドラマは関係なかったんですが、主題歌になるということで、どれくらい僕がこの楽曲にアプローチすべきなのかをすり合わせ、ドラマの世界観を取り入れたり、女性を愛でる感覚や女性に対する気持ちをありのままぶつけたりした楽曲になりました。
ーーこのドラマの主題歌を担当することについてはどう思いましたか?
嬉しかったです。「熊本の彼氏」をやっているおかげでファンには女性が多いし、このテーマをうまく自分の世界観に持っていける自信もありました。台本や原作を読み、プロデューサーさんの話や実際に働いている人のインタビューを聞いたり読んだりすると、この仕事にはアーティストと似ている部分、共通点がすごくあると思ったんです。
ライブって結局、その場でしか体感できない時間に価値があって、それを受け取るためにお客さんはお金を払うわけですよね。女性用風俗もそうだと思うんです。しかも利用者さんの中には、性的なサービスをいっさい受けずに、ただお話をしたりデートしたりする方もいるらしいんです。男性は性的なサービスだけが目当てな人が多いのに。そう考えると、女性のほうが時間の儚さや貴重さに対して繊細な感覚を持っているんじゃないかという気がしてきて。そこにすごく共感したので、この曲は特に大事に作りました。
ーーこういった題材を地上波の連続ドラマが扱うのはおそらく初めてだと思いますが、テーマのセンシティブさは気になりませんでしたか?
それはなかったですね。外枠よりも中心から見るようにしたので抵抗はありませんでした。2番からは18禁ワードを言葉遊び含めてかなり入れているし、それに、僕は昔からそういう話も結構言ってきてるんですよ。「女の子大好き」とか「おっぱいとお尻ならおっぱいの方が好き」とか。ちゃんと隙も見せてきたので、ファンのみんなも喜んでくれています。何度かライブで披露したんですけど、盛り上がり方、エグいです(笑)。すでに代表曲みたいな感じです。
ーー「Starting Over」は爽やかなポップロックで王道感があります。「また1から始めてみよう」という内容の歌をこのタイミングで発表するのはなぜでしょうか?
ソロアーティストとしてメジャーデビューして1年経ち、今まさに初心に帰りたい気持ちはもちろんあるけれど、むしろこの先の未来でこの曲を聴いた時に初心に帰れる曲にしたかったんです。だからど真ん中の王道感ある曲にしたんです。
今開催している同名のツアーのファイナルは品川ですけど、本当のファイナルは熊本城ホールでのワンマンライブだと思っていて、そこに向かって大きくなっていく中でも、ファンのみなさんとの距離感を忘れたくない、大きくなるからこそいちばん近くにいたい気持ちがあります。楽曲を通してそういった初心を忘れないようにしたいし、調子に乗ったら終わりだと思っているので、こういった楽曲を作りました。
ーーなるほど。杉本さんは現在や目先だけでなく、だいぶ先の未来まで視野に入れながら活動していますよね。どうして未来の視点を持てるんでしょうか。
この世界は簡単でも甘くもないですよね。成功した未来を自分で信じきれていないと、今の活動や目先の目標に対して全力で取り組めないと思うんです。熊本城ホールでのワンマンが失敗に終わる未来だってありうるし、今の活動のきっかけになった「熊本の彼氏」を止めてしまったら自分は終わってしまうという覚悟もある。BLACK IRISにも絶対に戻りたい。そう考えると、「ビジョンと自信と明確な成功イメージを持って誰よりも動かなければ、自分は終わりなんだ」という恐怖があるのかもしれません。もう30歳になるし、先はそんなに長くない。だから「未来の視点を持てる」というより、むしろ「未来の視点を持たなければいけない」と思っているんだと思います。
ーー焦りみたいなものがあるんですか?
そうかもしれないです。僕の今の原動力は焦りかもしれないですね。希望と期待よりも不安と焦りのほうが大きいです。その感情としっかり向き合うことで日々散漫にならないように過ごせるし、目の前のことに打ち込みながら先のことを考えられるのかもしれません。
ーーそういうふうに考えるようになったのはいつからですか?
おそらく……初めてBLACK IRISのメンバーがやめた時です。メンバーが増える時は「新しい風」だと思えたけれど、抜けた時は、グループがひとつ終わってしまった感覚がありました。その時に、ここから先は、起きている時間はもちろん、眠る時間を削ってでも24時間すべてをグループに捧げようと思ったんです。そんな時に「熊本の彼氏」ができて、自分で動かなければだめなんだと思うようになりました。
より洗練された楽曲を多くの人に届けたい
ーーシングルはType-AからType-Cまでの3種類あり、それぞれ「君とシャンプー」「Madness」「また明日」と別の曲が収められています。
「君とシャンプー」は歌詞がバカなんです。別れて君がいなくなったからシャンプーが減らない、という内容から始まって、「君がいないと算数ができない」と、相手に帰ってきてほしくてバカな言い訳を言い出している。今回の楽曲の中では圧倒的に切ない内容のはずなのに、いちばんバカみたいな曲になりました。こんなバカな曲も作りたかったんですね。シャンプーと算数とカンフーで韻を踏みました。
ーーでもこういう子って実際にいますよね、カンフー映画が好きなちょいサブカル系の女の子。
そうなんです。僕もサブカル系の子を想像しながら作りました。で、男の子は女性に依存していて、だから「空き缶ゴミで出す日」もわからない。結構リアルにこういうことってあると思うんです。男の子って基本的にしっかりしていないので、刺さってくれる人も多いんじゃないかなあ。
ーー「Madness」は「狂気」という意味ですよね。それにしてはチルくてグルーヴィーなグッドミュージックという印象を受けました。
この曲は「夏のウザさを楽しみたい」と思って作りました。チルい雰囲気は元々僕がやりたかった方向性なんです。それこそブルーノ・マーズさんが大好きなんですが、「その曲を聴いている自分がかっこいいと思えるような曲」がほしくて、おしゃれな雰囲気にしました。BLACK IRISでもラップを書いてきたし、ラップを書くのも好きなんです。
ーーそして「また明日」は、こちらもドラマ「#居酒屋新幹線2」のエンディングとして書き下ろした曲ですね。
この曲は、1番のメロディと歌詞を岸洋佑さんに作っていただいて、2番以降を僕が作りました。「#居酒屋新幹線2」の世界観を1番でしっかり踏襲した上で、2番からは僕からファンに向けてのメッセージを盛り込んでいます。ライブの終盤で歌う光景が見えたんですよね。僕の楽曲の中でもいちばん優しい曲になりました。
ーーでは最後に、全体として、今回の作品が自分にとってどんなものになったと感じていますか?
今回はいろんな人のアイデアをもらいながら制作できました。ソロアーティストとはいえ、ひとりぼっちではなく、チームのみんなで作り上げたもので、より洗練された作品になったと感じています。真剣な曲もあればクスッと笑える曲もあり、生楽器のクオリティが高い曲もあれば、今まで通り僕の中にあるメッセージを込めた曲もあり、老若男女に届く楽曲たちが勢ぞろいしている3種類のシングルになったので、いろんな方に聴いていただきたいです。
シンガーソングライターの杉本琢弥が、ソロアーティストとしてのメジャー3rdシングル『37.2度』をリリースする。表題作は男女両方の気持ちを歌うバラードで、優しい歌声といじらしい歌詞が魅力。他にも話題の連続ドラマ「買われた男」主題歌に抜擢された「B.B.Q.」や、王道ポップロックの「Starting Over」など、タイプの異なる個性的な楽曲たちが収められ、ダンス&ボーカルグループ・BLACK IRISとしての活動をいったん休止してソロ活動に専念し始めた彼の才能が垣間見える作品に仕上がった。杉本は「熊本の彼氏」としてもTikTokで約96万人にフォローされているが、彼のより本質的なアーティストとしての側面を深堀りすべく、今作の制作過程と狙いを聞いた。
取材・文:山田宗太朗
チームで作った「37.2度」
ーーソロデビューして1年が経ちました。何か変化はありましたか?
芸能界で仲良くしてくださる方が増えたり、地方に行った時に声をかけていただく機会が増えたりして、いろんな人が知ってくださっていることを感じています。制作においてもたくさんの方が関わってくれて、みんなで一緒に僕の音楽を作ってくれている感じがしてありがたいです。事務所もレーベルも、今僕がやりたい音楽をやらせてくれるので。
ーーそういった中で生まれたメジャー3枚目のシングル『37.2度』ですが、まずは表題作について聞かせてください。
これまでの2枚はどちらかというとアップテンポな曲で、BLACK IRISで発表してきた曲もアップテンポなものが主体でした。ダンス&ボーカルグループの事務所なので、表題曲はどうしてもパンチのある楽曲になりがちなんです。それが今回はバラードで勝負できる。そこに僕の好きなチルっぽさを掛け合わせ、今のティーンの恋愛感や普遍的な男女の気持ちなどを投影し、性別や年齢問わず、すべての人がターゲットになる楽曲にしました。
ーー タイトルの読み方が「びねつ」なのはなぜでしょうか?
実はこの曲はタイトルから先に考えたんです。というのも、メジャー1stシングル「おにぎり」のように、キャッチーで目を惹く楽曲にしたかったからです。そこで、マネージャーやプロデューサー、レーベルの担当者など、チームのみんなで30以上ものアイデアを出し合って決まったのがこのタイトルでした。正確に言えば、最初は「37.2度〜微熱〜」というタイトルで、その後、「37.2度」と書いて「びねつ」と読ませることにしました。今後新たに僕を知ってくれた人に対してファンの子が「それ『びねつ』って読むんだよ」と言えるような、そういうお得感を積ませてあげたくて。そうしてタイトルが決まってから、どんな曲にするか考えていきました。
ーー曲の内容を考える前にタイトルが決まったんですか? そんなやり方があるんですね。
そうなんです。だから最初はみんな違うカラーや世界観をイメージしいていたかもしれません。だけど僕にとってこのやり方は慣れていたんです。普段のTikTokでも設定だけ決めて、台本なしでその場で内容を考えていたので。
ーー「熊本の彼氏」が台本なし? あれはアドリブだったんですか!
そうなんです。「実は元ヤンだった熊本の彼氏」みたいにわかりやすい設定だけを決めて、あとはその場で作っていたんですね。これってつまり、タイトルから作っているわけですよね。だから普段やっていることが今回の制作に活きたと思います。そうして「微熱という嘘をついてでも会う口実を作っている女の子と、それに気づいているのに気づかないふりをしてあげている男の子」のストーリーを作り、サウンドも作っていきました。
たくさんの人にカバーしてほしい
ーー37.1度でも37.3度でもなく、37.2度だったのは?
保健室で学校から家に帰してもらえるギリギリのラインかなと思ったんです。37度でもたぶん帰してはくれるけれど、37.2度は絶対帰りなさいのラインかなと。平熱が低い人にとってはこれ以上高いと微熱ではなくなってしまうかもしれないし。
ーー男性目線と女性目線の両方を入れたのはなぜですか?
1番の歌詞を女性目線で書いた後、2番の歌詞を考えている最中に出てきたのが、女の子に対する自分なりの答えだったんです。全部女性目線の歌詞にしてもいいけれど、男性目線を入れたら、彼女持ちの男性が共感できるかもしれないですよね。いろんな人がカバーできる楽曲にしたい思いがあったので、男女両方がカバーできる内容にして、それに合わせてキーも男女どちらでも歌いやすいようにしました。いずれ僕の歌が広がった先のことを考えて、この歌詞、このメロディー、このキーにしたんです。
ーーたくさんの人に歌ってほしいんですね。「歌えるもんなら歌ってみろ」みたいな気持ちではなく。
それも少し考えました。「この人が歌うからこそ良い」みたいな楽曲もありますよね。でも、たとえば「おにぎり」は、男の子にとっては歌うのが難しかったと思うんです。だから今回はもう少し歌いやすいキーにしたかったし、自分以外の人が歌ってもうまく聴こえる曲にしたかったんです。それに、時代を超えて歌い継がれている曲ってみんなが歌えるキーの曲が多いですよね。そうやっていろんな人にカバーされたり、カラオケで歌われたりしたかったんです。顔出ししていない女の子が暗い部屋で逆光の中で歌っているイメージや、カラオケで顔を出さずに画面だけで歌っているイメージも浮かんだんですよね。
ーーなるほど。そこまで考えるものなんですね。細かい質問ですが、「ポカリとグミ」にしたのはなぜなんでしょう?
風邪を引いた時に自分が欲しいものだったのと、ワードのかわいさで選びました。まずポカリが思い浮かんで、もうひとつ何にするかは結構考えたんです。ワードそのもののかわいらしさ、それほど高いものを要求しないかわいらしさ、それから、音としても耳に残る破裂音が欲しくてゼリーやプリンも候補に入れて、トータルで考えてグミがいちばんふさわしいと思ったんです。ふたつのものにしたのは、「〇〇がほしい」より「〇〇も〇〇もほしいけれど、やっぱりあなたがいちばんほしい」にしたほうが気持ちが伝わると思ったからです。
ーー編曲はyonawoのyuya saitoさんが担当していますね。
普段、Logicを使って打ち込みで作曲しているんですが、この曲のように音数が少ない場合はプロの力を借りたいと思っていました。ただし自分の中にすでにはっきりとしたメロディがあったし、ドラムのローの低さや裏で鳴っているオルガンのふわっとした感じなど細かい部分も頭にあったので、「ここはこういう音でお願いします」と細かくお願いして、リファレンスもお伝えました。そうしたらyuyaさんが出してきてくれたものが僕の世界観とぴったり一致して。「これで! 残り全部お願いします!」という感じでスムーズに進みました。またぜひお願いしたいです。
未来の視点を持たなければならないと思っている
ーー「B.B.Q.」はDRAMA ADDICT「買われた男」のオープニングテーマです。
この曲はトラックとトップラインとサビの「B.B.Q.」だけは、ドラマのお話をいただく前にできていました。それをプロデューサーさんが聴いてくださって主題歌になったという流れです。作り始めた段階ではドラマは関係なかったんですが、主題歌になるということで、どれくらい僕がこの楽曲にアプローチすべきなのかをすり合わせ、ドラマの世界観を取り入れたり、女性を愛でる感覚や女性に対する気持ちをありのままぶつけたりした楽曲になりました。
ーーこのドラマの主題歌を担当することについてはどう思いましたか?
嬉しかったです。「熊本の彼氏」をやっているおかげでファンには女性が多いし、このテーマをうまく自分の世界観に持っていける自信もありました。台本や原作を読み、プロデューサーさんの話や実際に働いている人のインタビューを聞いたり読んだりすると、この仕事にはアーティストと似ている部分、共通点がすごくあると思ったんです。
ライブって結局、その場でしか体感できない時間に価値があって、それを受け取るためにお客さんはお金を払うわけですよね。女性用風俗もそうだと思うんです。しかも利用者さんの中には、性的なサービスをいっさい受けずに、ただお話をしたりデートしたりする方もいるらしいんです。男性は性的なサービスだけが目当てな人が多いのに。そう考えると、女性のほうが時間の儚さや貴重さに対して繊細な感覚を持っているんじゃないかという気がしてきて。そこにすごく共感したので、この曲は特に大事に作りました。
ーーこういった題材を地上波の連続ドラマが扱うのはおそらく初めてだと思いますが、テーマのセンシティブさは気になりませんでしたか?
それはなかったですね。外枠よりも中心から見るようにしたので抵抗はありませんでした。2番からは18禁ワードを言葉遊び含めてかなり入れているし、それに、僕は昔からそういう話も結構言ってきてるんですよ。「女の子大好き」とか「おっぱいとお尻ならおっぱいの方が好き」とか。ちゃんと隙も見せてきたので、ファンのみんなも喜んでくれています。何度かライブで披露したんですけど、盛り上がり方、エグいです(笑)。すでに代表曲みたいな感じです。
ーー「Starting Over」は爽やかなポップロックで王道感があります。「また1から始めてみよう」という内容の歌をこのタイミングで発表するのはなぜでしょうか?
ソロアーティストとしてメジャーデビューして1年経ち、今まさに初心に帰りたい気持ちはもちろんあるけれど、むしろこの先の未来でこの曲を聴いた時に初心に帰れる曲にしたかったんです。だからど真ん中の王道感ある曲にしたんです。
今開催している同名のツアーのファイナルは品川ですけど、本当のファイナルは熊本城ホールでのワンマンライブだと思っていて、そこに向かって大きくなっていく中でも、ファンのみなさんとの距離感を忘れたくない、大きくなるからこそいちばん近くにいたい気持ちがあります。楽曲を通してそういった初心を忘れないようにしたいし、調子に乗ったら終わりだと思っているので、こういった楽曲を作りました。
ーーなるほど。杉本さんは現在や目先だけでなく、だいぶ先の未来まで視野に入れながら活動していますよね。どうして未来の視点を持てるんでしょうか。
この世界は簡単でも甘くもないですよね。成功した未来を自分で信じきれていないと、今の活動や目先の目標に対して全力で取り組めないと思うんです。熊本城ホールでのワンマンが失敗に終わる未来だってありうるし、今の活動のきっかけになった「熊本の彼氏」を止めてしまったら自分は終わってしまうという覚悟もある。BLACK IRISにも絶対に戻りたい。そう考えると、「ビジョンと自信と明確な成功イメージを持って誰よりも動かなければ、自分は終わりなんだ」という恐怖があるのかもしれません。もう30歳になるし、先はそんなに長くない。だから「未来の視点を持てる」というより、むしろ「未来の視点を持たなければいけない」と思っているんだと思います。
ーー焦りみたいなものがあるんですか?
そうかもしれないです。僕の今の原動力は焦りかもしれないですね。希望と期待よりも不安と焦りのほうが大きいです。その感情としっかり向き合うことで日々散漫にならないように過ごせるし、目の前のことに打ち込みながら先のことを考えられるのかもしれません。
ーーそういうふうに考えるようになったのはいつからですか?
おそらく……初めてBLACK IRISのメンバーがやめた時です。メンバーが増える時は「新しい風」だと思えたけれど、抜けた時は、グループがひとつ終わってしまった感覚がありました。その時に、ここから先は、起きている時間はもちろん、眠る時間を削ってでも24時間すべてをグループに捧げようと思ったんです。そんな時に「熊本の彼氏」ができて、自分で動かなければだめなんだと思うようになりました。
より洗練された楽曲を多くの人に届けたい
ーーシングルはType-AからType-Cまでの3種類あり、それぞれ「君とシャンプー」「Madness」「また明日」と別の曲が収められています。
「君とシャンプー」は歌詞がバカなんです。別れて君がいなくなったからシャンプーが減らない、という内容から始まって、「君がいないと算数ができない」と、相手に帰ってきてほしくてバカな言い訳を言い出している。今回の楽曲の中では圧倒的に切ない内容のはずなのに、いちばんバカみたいな曲になりました。こんなバカな曲も作りたかったんですね。シャンプーと算数とカンフーで韻を踏みました。
ーーでもこういう子って実際にいますよね、カンフー映画が好きなちょいサブカル系の女の子。
そうなんです。僕もサブカル系の子を想像しながら作りました。で、男の子は女性に依存していて、だから「空き缶ゴミで出す日」もわからない。結構リアルにこういうことってあると思うんです。男の子って基本的にしっかりしていないので、刺さってくれる人も多いんじゃないかなあ。
ーー「Madness」は「狂気」という意味ですよね。それにしてはチルくてグルーヴィーなグッドミュージックという印象を受けました。
この曲は「夏のウザさを楽しみたい」と思って作りました。チルい雰囲気は元々僕がやりたかった方向性なんです。それこそブルーノ・マーズさんが大好きなんですが、「その曲を聴いている自分がかっこいいと思えるような曲」がほしくて、おしゃれな雰囲気にしました。BLACK IRISでもラップを書いてきたし、ラップを書くのも好きなんです。
ーーそして「また明日」は、こちらもドラマ「#居酒屋新幹線2」のエンディングとして書き下ろした曲ですね。
この曲は、1番のメロディと歌詞を岸洋佑さんに作っていただいて、2番以降を僕が作りました。「#居酒屋新幹線2」の世界観を1番でしっかり踏襲した上で、2番からは僕からファンに向けてのメッセージを盛り込んでいます。ライブの終盤で歌う光景が見えたんですよね。僕の楽曲の中でもいちばん優しい曲になりました。
ーーでは最後に、全体として、今回の作品が自分にとってどんなものになったと感じていますか?
今回はいろんな人のアイデアをもらいながら制作できました。ソロアーティストとはいえ、ひとりぼっちではなく、チームのみんなで作り上げたもので、より洗練された作品になったと感じています。真剣な曲もあればクスッと笑える曲もあり、生楽器のクオリティが高い曲もあれば、今まで通り僕の中にあるメッセージを込めた曲もあり、老若男女に届く楽曲たちが勢ぞろいしている3種類のシングルになったので、いろんな方に聴いていただきたいです。